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米国カリフォルニア州で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が、日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

101条の問題の現状 (Berkheimer v. HP, Inc事件の判決 を踏まえたUSPTOのMemorandum)

 ここ数年、ソフトウェア関連発明については、Bilski v. Kappos事件(2010)、Mayo v. Prometheus事件 (2011)、Alice Corp. v. CLS Bank事件 (2014)といった一連の最高裁判決の影響を受け、発明の適格性要件(米国特許法101条)の要件を満たす為のハードルが実質的に相当高くなっていることは周知の通りである。

 USPTOによる現行の審査実務としては、特にMayo v. Prometheus事件 やAlice Corp. v. CLS Bank事件における最高裁の見解に基づいて 確立された判断フローに基づいて、米国特許法101条に規定された特許の適格性要件 (patent eligibility) が判断されている。

 同判断フローの概略は以下の通りである。

101 Flow
(MPEP2106より引用)

 先ず、クレームに記載された発明 (クレーム発明) が、プロセス(方法)、装置、製造物、組成物、又はのこれらの改良というカテゴリーに属するか否かという判断を行う (Step 1)。Step 1での判断が「NO」なら「特許の適格性」は直ちに否定される。一方、Step 1での判断が「YES」の場合、続いて以下の判断がなされる。

Part 1 Mayo test (Step 2A)
 先ずStep 2Aにおいて、クレーム発明が、「法上の例外」 (自然法則、自然現象、または抽象概念) に関するものか否かを判断する。クレームに「法上の例外」に該当する限定が含まれるか否かの判断と言い換えても良いと思う。
 Step 2Aの判断が「NO」 (クレームが「法上の例外」に該当する限定を含まない) であれば、直ちに、「特許の適格性有り」と判断される。一方、Step 2Aの判断が「YES」 (クレームは「法上の例外」に該当する限定を含む) であれば、次の判断 (Step 2B) に移る。

Part 2 Mayo test (Step 2B)
 Step 2Bにおいては、クレームが「法上の例外」に該当する限定の他、追加の限定として、「有意な構成要素」(additional elements significant more than the judicial exception)を含んでいるか否かを判断する。Step 2Bにおける判断が「YES」なら「特許の適格性有り」、「NO」なら「特許の適格性無し」という最終判断に至る。


 ここからが本題です。

 Berkheimer v. HP, Inc事件の判決 (Fed. Cir. February 6, 2018)を受け、USPTOによる上記判断フローの運用、特に「ソフトウェア関連発明」の101条要件判断が若干の変更された。曖昧な部分が少し明確になったと言った方が正確かもしれない。

 この若干の変更は、出願人側が101条要件の充足を主張する上で、少なからず助けになる可能性があると思う。

 要点は以下の通り。

 上記判断フローのStep 2Bにおいては、クレームが「法上の例外」の限定を含むという前提で、そのような「法上の例外」の限定の他、「追加の限定」として、「有意な構成要素」(additional elements significant more than the judicial exception)を含んでいるか否かを判断する。ここで、コンピュータプログラム自体は「法上の例外」に該当する。

 その際、「追加の限定」としては、例えば、そのようなプログラムを含む媒体やシステム、そのようなプログラムによって動かされる装置、そのようなプログラムの実行の結果として生み出される結果物、それから発明全体として奏される効果等が考えられる。

 この時、クレームに含まれる「追加の限定」が「有意な構成要素」(additional elements significant more than the judicial exception)と判断されるか否かのより具体的な判断基準としては、「良く知られた手順、通常の手順、或いは慣習的な手順 (well-understood, routine, conventional activity) ではない」ものか否か、という点が検討される。つまり、クレームに記載された「追加の限定」が、「良く知られた手順、通常の手順、或いは慣習的な手順 (well-understood, routine, conventional activity) 」でなければ、クレーム発明は特許の適格性を有すると判断される。

 「良く知られた手順、通常の手順、或いは慣習的な手順 (well-understood, routine, conventional activity) ではない」と言える為の条件として、裁判所は、しばしば “Inventive Concept” という言葉を使ってきた。素直に読めば、発明としての新規性や進歩性のような概念?のようにも思える。そうすると、「追加の限定」自体に発明としての新規性や進歩性のある特徴が認められる事が、Step 2Bにおいて、肯定的な判断を得るための必要条件であるかのようにも思える。ただ、普通に考えてそれは少しおかしな話だ。そもそも、101条の要件というのは、あくまでも特許の対象(法の保護対象)としての発明が実体としてどのようなものであるかという問題に帰するもので、新規性や非自明性(進歩性)とは本質的に異なる要件である。。。はず。。。なのだから。

 実際、ソフトウェア関連発明のクレームについて101条要件が争われたDiamond v. Diehr事件 (1981) において、最高裁は、「同じ技術分野において既知の要素やそのような要素の組み合わせは『従来のものではない』或いは『ルーチンではない』追加要素となり得る (“An additional element (or combination of additional elements) that is known in the art can still be unconventional or non-routine. The question of whether a particular claimed invention is novel or obvious is "fully apart" from the question of whether it is eligible.”)」という見解を示している。

 2018年1月改訂の特許審査便覧 (MPEP) では、101条要件の判断においては、たとえ従来技術に対する新規性を欠いているような改善であっても、従来のコンピュータの機能の改善と認定され得る事 (“claims may exhibit an improvement over conventional computer functionality even if the improvement lacks novelty over the prior art.”) が明確にされている。そのような事がMPEPにおいても明確にされる至った背景として、Enfish, LLC v. Microsoft Corp.事件 (Fed. Cir. 2016) の影響も大きいと思われる。

 同事件において、裁判所は、いわゆるクレームにおける抽象概念 (abstract idea) に対する「追加事項」として101条要件を充足するという判断の決め手になった限定を含むクレームのうち、幾つかのクレームについて、101条要件は満たすが、102条要件(新規性要件)を欠くという判断を下している (MPEP 2106.05(d)(I)で引用)。

 そして今回、Berkheimer v. HP, Inc事件において、裁判所は、改めて、以下の点を明確にした。
 「(101条要件の判断に際し、) 特定の技術が『良く知られた手順、通常の手順、或いは慣習的な手順 (well-understood, routine, conventional activity) である』と事は、単に従来技術において既知であるという事」を越えるものである。例えば、単に従来技術において開示されているという事で、それが『良く知られた手順、通常の手順、或いは慣習的な手順 (well-understood, routine, conventional activity) である』事を意味する事にはならない。"[w]hether a particular technology is well-understood, routine, and conventional goes beyond what was simply known in the prior art. The mere fact that something is disclosed in a piece ofprior art, for example, does not mean it was well-understood, routine, and conventional."

 上記の点を踏まえ、MPEPの以下のセクションの内容が修正されるようです。

 MPEP § 2106.07(a) (Formulating a Rejection For Lack of Subject Matter Eligibility)
 MPEP § 2106.07(b) (Evaluating Applicant's Response)。

[参考]
Berkheimer v. HP, Inc事件の判決 (Fed. Cir. February 6, 2018) を踏まえたUSPTOのMemorandum (2018年4月19日発行) こちらです⇓
https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/memo-berkheimer-20180419.PDF

以上

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意匠と特許 (米国)

最近、こんな記事をみかけました。

2018年5月28日付 PATENTLY O 
(米国特許に関する有名なブログ: 記事の著者は米国のロースクールの先生です。)

内容は以下の通り。
------------------------------
アップル社が、サムソンによる『3件の意匠権侵害』(U.S. Design Patent Nos. 618,677, 593,087, and 604,305)で認められた損害賠償額

⇒5億3千万ドルくらい(580億円くらい)

アップル社が、サムソンによる『2件の特許侵害』(U.S. Patent Nos. 7,469,381, 7,844,915, and 7,864,163)で認められた損害賠償額

⇒530万ドルくらい(5億3千万円くらい)

------------------------------

以下、私の意見です。

 意匠、かなり恐るべし。

 意匠は製品の外観(デザイン)関するものであり、これに対し、特許は製品に使われている技術に関するものであることはご存知の通りです。権利の取得、維持、行使という各観点から、様々な良し悪しがあると思いますが、特許に対する意匠権のコストパフォーマンスの良さというは確かに目を見張るものがあるかもしれません。出願時費用、中間処理費用、登録料(発行料)、何れをとっても、特許に比べ意匠権の取得は相当に安価である事は確かです。そもそも意匠出願は図面の形式要件を満たせば、新規性や非自明性違反の拒絶理由のオフィスアクションを受けることなく登録に至るケースが圧倒的に多いですし。

 もちろん、対象となる製品とか、出願人がおかれている状況にもよると思うが、コストパフォーマンスという観点で「意匠は特許を圧倒している」と言っても言い過ぎではないとは思います。⇒常に、検討の価値はあり、ですね。

以上

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セミナー開催のお知らせ(東京)

 本セミナーは終了致しました。ご参加くださった皆様、誠にありがとうございました。

 下記の通り、米国特許実務のセミナーを開催致します。

演題:
 米国特許出願におけるクレームの新規性と非自明性-拒絶理由の分析と対応
 (数値限定クレームの“Overlapping Ranges”)

演者:
 中西康一郎(日本弁理士/米国パテントエージェント)

主催:
 Nakanishi IP Associates, LLC

セミナーの内容(要旨):
 日本の弁理士として、また、米国パテントエージェントとして、日米両国において長年に亘り特許出願及び中間処理手続きに従事してきた演者が、米国特有の実務における勘所をお話し致します。

 日米間における発明の捉え方の相違、米国実務における勘所、米国代理人との上手な付き合い方といった観点から米国において強い特許を効率的に取得するためのポイントを説明します。

 特に、数値限定クレームを例にとり、審査におけるクレーム発明の新規性や進歩性(非自明性)の判断について、米国と日本の特許実務の違いを考察致していきたいと思います。

 時間の短いセミナーで、特にホットなトピックというわけではありませんが、最近、個人的に気になっていて、且つ、経験上、中間処理実務などで重要と思われる点について、課題を絞ってお話させていただきたいと思います。

開催場所:東京 新橋

〒105-0003
東京都港区西新橋1丁目15-1
大手町建物田村町ビル
TKP新橋カンファレンスセンター
カンファレンスルーム3C

日時:
 平成30年3月2日(金) 18:30~19:30(予定)

定員:20名

参加費:無料

参加対象者:
 米国特許出願の実務に興味のある方であれば、特に問いません。企業知財部員、特許事務所員、翻訳者等、どなたでもお気軽にお申し込みください。

参加方法:
 (1) ご聴講を希望の方は、以下のE-mail アドレスまでご連絡ください。件名には、「セミナー参加希望」とご明記ください。メール本文には、聴講を希望されるご本人の氏名と、もし差し支えなければ 所属(例:会社知的財産部勤務、特許事務所勤務、学生、弁理士受験生、等)をご記入ください。
 (2) 本セミナーについてご質問等がございましたら、ご遠慮なくお問合せください。

 セミナーお申し込み/ご質問用E-mail Address:nakanishi@nipa-pat.com

 弊所ウェブサイトでも紹介しておりますのでご参照ください。

 どうぞよろしくお願い致します。

USPTO料金改定(2018年1月16日より)

2018年1月16日よりUSPTOの料金表が改訂されます。

USPTOの料金表のサイト(リンク)はこちらです。↓

現行(2018年1月14日まで)

新料金(2018年1月16日から)

例えば以下のように、ほとんどの手続きが値上げになるようです。

出願料:
1600ドル⇒1720ドル(大規模団体(大企業))
760ドル⇒785ドル(小規模団体(中小企業))

特許発行料(登録料):
960ドル⇒1000ドル(大規模団体(大企業))
480ドル⇒500ドル(小規模団体(中小企業))

1回目のRCE(継続審査請求):
1200ドル⇒1300ドル(大規模団体(大企業))
600ドル⇒650ドル(小規模団体(中小企業))

(手続き延長料は変わらず)

以上、ご参考までに。

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「一体形成」「一体成形」

「一体形成された」という日本語は、英語ではどのような表現になるだろうか。素直に英訳すると、“integrally formed”などという事になるだろうか。

ただ、“integrally formed”という表現は、少なくともクレームで用いられた場合、いわゆる単一の材料を一体成形して作った部材のようには解釈されない(そこまでは限定されない)可能性が高い。複数の別部材を組み合わせ結果として一つの部材が出来上がった場合も”integrally formed”と一般には解釈される。

もし、単一材料から形成されている事を明確に主張したい場合には、例えば、integrally moldedとか、integrally dicasted等という表現なら、成形型やダイで一体に成形したものになる。しかし、その場合、単一材料を切削して形成したものは除外されるだろう。 integrally formed of a single material 等の表現が単一材料から一体形成されているいうニュアンスとしては一番近いのかもしれない。

もちろん、日本語でも「一体形成」と言った場合、必ずしも単一材料から形成されている事を意味しないかもしれない。例えば「一体成形」とはニュアンスが違うかもしれない。そんな事を考え出すと、「成形」といったら成形型を使った加工だけしか意味しないのか、等という疑問も湧いてきたりする。要は、発明の本質がどのようなものかによるところが大きいと思うが、何れにしても「一体形成」という言葉、時として、日本語クレーム⇒英語クレームへの変換の過程で、発明者の本来の意図を微妙に伝わらなくする表現の一つと思う。

例えば、「単一材料から形成されるのか、そうでなくても良いのか」という事が、従来技術との差別化を図る上でどの程度重要なのか、等にもよるだろう。

この種の表現がクレームに含まれている場合、明細書本文中ににおいて、言葉の意味にある程度幅を持たせたり、将来の補正の可能性を考えて、他の表現に置き換えられるよう、選択肢を用意しておくのが良いのかもしれない。つくづく、明細書やクレームの表現や言葉使いは難しいと思う。

この点については、翻訳者や外国出願担当者も工夫も大事と思いますが、恐らくはそれ以上に、日本語(原文)明細書の作成者の役割が重要ですね。

以上

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プロフィール

中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

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