米国の一地方都市で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

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ERGO LICENSING, LLC AND UVO HOLSCHER v. CAREFUSION 303, INC. 事件 (Fed. Cir. 2012)

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本件は、特許侵害訴訟において、ミーンズプラスファンクションの構成要素を含むクレームの特許が、明細書の記載要件を満たしていないという理由(米国特許法第2段落(35U.S.C.112 second paragraph)違反)で無効と判断された事件である。

本事件においては、米国特許第5,507,412号 (以下’412特許)を保有するErgo Licensing社らが、当該’412特許の侵害を理由に、医療機器メーカーであるCareFusion社を提訴したところ、一審(メイン地区地方裁判所)により’412特許は無効であると判断された。Ergo Licensing社らはこれを不服として連邦巡回控訴裁判所(CAFC)に控訴したが、CAFCも地裁の判断を支持し、’412特許は無効であるという判決を下した。

Ergo Licensing社らの’412特許は、複数の容器に収容された液体の流量を制御するためのもので、各容器からの流量を測定しながら、各容器から所定で割合で液体が供給するように制御するシステムに関するものであった(下記図を参照)。

Ergo v CareFusion

本事件においては、クレームに含まれる以下の構成要素(1)、(2)が問題となった。

(1)“adjusting means associated with said fluid flow sources for acting on said fluid flow sources to influence fluid flow of said fluid flow sources”

(2)“programmable control means coupled with said adjusting means for controlling said adjusting means, said programmable control means having data fields describing metering properties of individual fluid flows”

日本語に訳すと概ね以下のような感じになると思う。

(1)“前記流体源に連結された調整手段であって、当該流体源に作用して当該流体源から流出する(液体の)流量を変更する調整手段”

(2)“前記調整手段を制御すべく前記調整手段に連結されたプログラム可能な制御手段であって、各流量の特性の計測状況を示すデータフィールドを有する制御手段”

明細書本文には、上記(1)調整手段(adjusting means)、(2)制御手段(control means)に対応する構成として、制御装置(control device)が、総括的にシステムを制御する事により、クレームの記載内容に相当する動作を実行してシステムを制御する旨が説明されていた。

本件について、CAFCは(多数意見として)概ね以下のような見解を述べている。

ミーンズプラスファンクションのクレーム構成要素については、明細書中において、何が当該要素に対応する構造(structure)なのかが示されていなければならず(Biomedino, LLC v. Waters Techs. Corp.事件(Fed. Cir. 2007))、そのような構造は、クレームに記載された機能(function)と明確に結びついたものでなければならない(Med. Instrumentation & Diagnostics Corp. v. Elekta事件 (Fed. Cir. 2003))。明細書がこのような対応構造の記載を欠いている場合、クレームの記載内容が不明確であるとみなされ、これは特許の無効理由(112条第2段落違反)となる。

コンピュータ(又はそれに類するもの)によって実行されるミーンズプラスファンクション要素は、明細書に開示されたアルゴリズムを意味するものと限定して解釈され(WMS Gaming Inc. v. International Game Technology事件(Fed. Cir. 1999))、この場合、明細書に要求される記載内容として、単に(そのような機能を達し得る)一般的なコンピュータ又はプロセッサーを開示するだけでは足りない(Aristocrat Techs. Austl. Pty Ltd. v. Int’l Game Tech.事件 (Fed. Cir. 2008))。

本件の場合、’412特許の明細書中の記載は、(1)調整手段(adjusting means)、(2)制御手段(control means)というクレームの構成要素を、制御装置(control device)という用語に置き換えたにすぎず、記載要件を満たしているとは言えない。

以上が、判決理由の大筋なのだが、本事件を取り扱った連邦巡回控訴裁判所(CAFA)の3人の判事のうちの1人、Pauline Newman判事は、今回多数決で決まった判決に対し、猛然と反対意見を述べている。個人的に、その内容をかなり興味深く感じたので紹介したい。

先ず前置きとして、日本の知財高裁に当たる合衆国巡回控訴裁判所(CAFC)には12人の判事がおり、個々の事件は、そのうち3人の判事によって担当される。事件の判決は、3人の判事の多数決によって決まる。各事件の判決については、判事の代表が判決の趣旨や根拠を含めた判決文を作成するが、これに加え、他の判事が、判決の全内容又は一部の内容について反対意見を書いた書面を沿える事がしばしばある。Newman判事は、12人の判事のうち、多数決による判決に対し反対意見を述べる頻度が断トツで高い、ある意味名物判事として有名な人だ。

また彼女は、裁判官としては珍しく、化学分野の博士号(Ph.D)を取得しており、その為か、特許に対する考え方について他の判事とは一線を画しているように思う。

本件においてNewman判事は、(判決に対する反対意見として)概ね以下のような見解を述べている。
先ず、対象クレームは、現行の電子制御技術、デジタル機器による通常の処理によって制御される新規のシステムとして、ごく標準的且つ明確な表現により発明を記述している。クレーム発明は、複数の構成要素のうち、制御手段(control means)と呼ばれる要素がクレーム記載の各種機能を果たす多重チャンネル計測装置にかかるものである。この種の多重チャンネル計測装置がクレーム記載の如き機能を当業者にとってごく当たり前の処理手順に従って達成し得ることについては疑う余地がない。そもそも、発明の本質は、各構成要素の連携によるシステム全体の機能や処理手順にあるのであって、制御手段(control means)そのものではないのだ。このようなシステム全体としての機能や処理手順については、明細書に十分具体的な説明が含まれており、この説明に基づきクレーム発明は十分に明確であると言える(112条第2段落の要件を満たしている)。

結論から言えば、Newman判事の見解には、私個人としては、かなり共感するものがある。

偏見かもしれないが、明細書やクレームに書かれた文言、表現、又は構成内容について、言葉の揚げ足を取り合戦のようになりがちな侵害訴訟において、Newman判事は、本事件に限らず、特許発明の技術的な価値とか、クレームや明細書に込められた発明の本質的な部分に重きをおいて特許を評価し、取り扱うべき考えているように思う。

また、Newman判事の見解には、当業者の技術常識は時と共に移り変わるものだから、古い判例に縛られるばかりでなく、クレームの解釈とか、明細書の記載要件に関する考え方もその時代の技術レベル等の実情に応じて変えていくべきと言う考え方が色濃く現れている。

本来、特許法というは、社会に有用な発明を行なった者が、当業者が実施可能なように当該発明の開示を行なうことで相応の対価を得るためのルールなのだから、明細書において、本質的にどのような発明(技術)が書かれてあり、それを読んだ当業者がどう解するのかに基づいて特許の有効性や権利範囲を決定するのが筋という主張(論旨)が、とてもわかりやすい。。。と、私は感じるのだ。

とはいえ、本事件での(多数決による)判決は、過去の判例の考え方を忠実に踏襲したにすぎず、この点について異議を唱える余地はほとんどないようにも思える。これに対し、Newman判事の意見は、多くのCAFC判決に疑義を抱くばかりか、へたをすると最高裁の判断にさえ噛み付くような内容とも受け取れてしまうのだ。

Newman判事は、「本件においては、クレーム中のミーンズプラスファンクションに対応する構造として、明細書に具体的なアルゴリズムを記載する必要はない」とハッキリ言い放っているが、私の理解が間違っていなければ、このような見解は、近年における大多数の判例と真っ向から対立する。通論に対するかなり過激な異論であると言えるだろう。

実際、本事件で問題となっているのは、「クレームに記載された本質的な内容が何だったのか」と言うよりは、「ミーンズプラスファンクション形式のクレームを選択した出願人の明細書に対し、どのような開示条件が課されるべきなのか」という点にあると思う。その意味では、Newman判事の見解はやや筋違いという事になるのかもしれない。

結局のところ、現時点では、本事件の裁判所の判断(多数決意見)の方が、ミーンズプラスファンクションクレームの取り扱いに関し、過去の判例に基づく裁判官の多数派の意見として妥当なものと言わざるを得ないだろう。

過去の記事で述べた事の繰り返しになるが、やはり現実問題として、ミーンズプラスファンクションの構成要素を含むというだけで、明細書の記載要件のハードルが格段に高くなるという裁判所の判断は、残念ながら?米国においては健在である。

この点、日本やヨーロッパの実務とは大きく異なるので、日本の出願人や特許実務者は、米国出願に際して常に肝に銘じておく必要がある。

ちなみに、USPTOによる現行の審査基準としては、コンピュータ(或いはこれに類するもの)によって実行される機能を表現したミーンズプラスファンクション形式の構成要素をクレームに含める場合、例えば、明細書(及び図面)において、コンピュータやマイクロプロセッサー等と関連づけるようにして、フローチャートその他の表記を用い、散文により、当該ミーンズプラスファンクションに対応するアルゴリズムを記述するのが良い、という事になっている。
(「SUPPLEMENTARY EXAMINATION GUIDELINES FOR DETERMINING COMPLIANCE WITH 35 U.S.C. § 112 AND FOR TREATMENT OF RELATED ISSUES IN PATENT APPLICATIONS」から引用)

要は、ミーンズプラスファンクション形式のクレームを含む明細書の記載要件違反を回避する為には、ミーンズプラスファンクションに対応する処理手順を、フローチャートで図示すると共に、明細書において、コンピュータやマイクロプロセッサーが実行するアルゴリズムとして通常の文章で具体的に説明しておくのが無難、という事になるのだろう。

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本件は、特許侵害訴訟において、ミーンズプラスファンクションの構成要素を含むクレームの特許が、明細書の記載要件を満たしていないという理由(米国特許法第2段落(35U.S.C.112 second p...
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プロフィール

中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

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