米国の一地方都市で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

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IGT v. Bally Gaming International, Inc. 事件

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今年(2011年)の10月、 IGT v. Bally Gaming International, Inc.という特許侵害訴訟事件において、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)による判決が下された。

クレームに記載された文言の解釈について、ちょっと興味をひかれる判例である。

本件は、IGTというゲームソフトのメーカーが、Bally Gaming International, Inc.というゲーム機器等のメーカ及びその関連会社(以下、Bally)を、2件の再発行特許(U.S. Reissue Patent Nos. RE37,885 and RE38,812)にかかる特許権の侵害を理由に訴えを提起した事件である。

結果として、IGTの訴えに対し、第一審のデラウエア地区地方裁は、両特許の一部のクレームについて訴えの対象となった一部の製品について特許権侵害が成立するもの判断し(いくつかのクレームについて、他の一部の製品の侵害は不成立)、控訴審のCAFCも地裁の判断をそのまま支持した。

ここでは、各製品と各クレームの関係や侵害成立又は不成立の是非よりも、問題となったクレームに含まれるいくつかの文言の解釈に関する、ちょっと興味深い裁判所での議論を紹介したいと思う。

問題となった特許は、“ネットワークで結ばれた複数の端末で複数のプレーヤーがゲームを行えるシステム”に関するものだった。なお、両特許の明細書及び図面はほぼ同一の内容だった。以下、代表的な図面を示す。

Fig(IGT v Bally)

以下、問題となった特許の代表的なクレームを示す。
10. A method of operating gaming devices interconnected by a host computer having a user-operated input device comprising:
(1) associating each gaming device with a unique address code;
(2) preselecting less than all of the gaming devices interconnected by the host computer responsive to a user-effected action at the input device which identifies the preselected gaming devices with the respective associated address codes;
(4) using the network to track activity of the preselected gaming devices;
(5) issuing a command over the network to one of said preselected gaming devices responsive to a predetermined event; and
(6) paying at said one gaming device in accordance with the command.

(日本語訳)
11. ユーザによって操作される入力装置を有するホストコンピュータと相互に接続されたゲーム機を操作する方法において:
(1) 固有のアドレスコードを使って各ゲーム機を関連付け、
(2) ユーザによる前記入力装置への操作であって、各々が関連づけされたアドレスコードを有して予め選択された前記ゲーム機を識別するための操作に応答し、ホストコンピュータと相互に接続された全てのゲーム機のうち一部のゲーム機を予め選択し、
(4) 前記ネットワークを使って前記予め選択されたゲーム機の動作を追跡し、
(5) 予め設定された事象に対応して、前記予め選択されたゲーム機の一台に、前記ネットワークを介してコマンドを発行し、
(6) 前記コマンドに従って前記一台のゲームに支払いを実行する、
方法。

上記クレームの解釈について、特に(5)及び(6)に関連し、以下のような議論があった。

1. “one of…”というクレーム文言について:
問題となったクレームには、「予め選択されたゲーム機の『一台』(one of said preselected gaming devices)に、前記ネットワークを介してコマンド(command)を発行し、そのコマンドに従って、『その一台』のゲーム機(the one of said preselected gaming devices)において支払いを実行する」旨が記載されている。

これについて、被告側であるBallyは、以下のような主張をした。
「当該クレームは、一つのコマンドは特定のゲーム機一台に対してのみに発行され、支払いはその一台のに対してのみ実行される、と解釈すべきである。例えば、IGTの特許には、3つの異なるタイプのクレームが含まれており、各クレーム中において、『一台』という概念を示すのに、“one”“at least one”“each”という3種類の文言が使い分けられており、しかも、これらは、明細書中の説明で用いられた3つの異なる概念に対応している。従って、“one”という単語は、“at least one”とは異なり、“only one”と解釈すべきだ。」

裁判所の解釈は以下の通りである。

「クレームの意味するところは、『特定のゲーム機一台に対し、一つのコマンドが発行され、そのコマンドに基づいてその一台において支払いが実行される』という意味である。しかし、その事によって、クレームのプロセスが『一台のゲームのみに対し、一種類のコマンドのみが、発行されること』に限定されるなどという事はない。」

2.“…predetermined…”というクレームの文言について:
クレームによれば、 “issuing a command … responsive to a predetermined event; and paying … in accordance with the command” すなわち「予め設定された事象に対応してコマンドが発行され、そのコマンドに従って支払いが実行されること」になる。

Ballyは、クレームに記載された“predetermined event”という単語は、
「予め設定された無作為でない(non-random)特定の事象(例えばゲーム開始後、予め設定された特定時間の経過等)を意味する。従って、例えばユーザによる操作等、外的な要因に基づいて不作為(random)に発生する事象は除外されるべきである。」と主張した。

さらにBallyは、“paying … in accordance with the command”というクレームの文言について、

「この予め設定された事象の発生に応答して『命令(command)』が発行され、その『命令(command)』に従ってシステムが『自動的に』支払いを実行する事を意味し、そこにユーザによる操作(外部からの手動的な操作)が介在してはならないと解釈すべきである。」と主張した。

これに対し、裁判所の解釈は以下の通りである。

上記クレーム文言の意味するところは、「事前に設定された条件の成立に伴い、制御装置からゲーム機に対し、支払い命令が送信されるという事である。つまり、当該条件のみ従って支払い命令が自動的に実行される場合もあれば、例えばプレーヤーによる操作等に起因して支払い命令が実行される場合もあり、クレームとしては、何れの意味合いをも含む。“paying … in accordance with the command”という文言にしても、当該命令(command)に応じて支払いを実行するという意味でしかなく、それが、予め設定された無作為でない条件(non-random condition)に従った自動的な工程である必要はなく、プレーヤーによる特定の操作に基づくものであっても構わないと解釈すべきである。」

---------------------

正直、Ballyの議論は、クレーム解釈の基本を逸脱した相当にばかげた議論だと思う。

基本的に、Ballyは、自身の議論の根拠として、クレームに記載された個々の単語(例えば“one”)を抽出し、クレームに使用された同義または類義語と思われる他の単語と比較することにより、明細書の実施例との対応づけにより、強引に狭く解釈するよう論理立てを行ったようだ。

しかし、裁判所も指摘しているように、クレームに含まれる(個々の)単語の意味は、クレーム中におけるその単語の前後の文脈(context)から解釈すべきであり、明細書の実施例から不当に狭く解釈すべきではない(明細書の実施例で使われた態様に限定してはならないという事で、クレームの内容と明細書の内容が矛盾しても構わないという意味ではない)。

とはいえ、明細書作成や中間処理業務の実務者として、本事件から学ぶべき点もあると思う。

本件で問題となった特許のように、複数の端末やサーバを含むネットワークに関する発明では、各クレーム要素の構成や機能、プロセスの主体や客体があいまいになりがちである。出願人としては、そのような構成要素の役割や、クレームのカバーしているシステム全体の構成の十分に把握し、また、明細書中の実施例との対応付けを十分に考慮した上で、クレームの作成を行うべきだろう。そういった意味で、IGTののクレームや明細書は、かなりできが良かったと言えるのかもしれない。

その一方、本件においてクレーム解釈で問題にされた“predetermined”なる文言、日本の特許のクレームでも比較的良く用いられる「予め設定された...」や、「所定の...」に相当すると思うが、この類の用語は、恐らくは、112条第1段落や112条第2段落(クレームの明瞭性や明細書によるサポート要件)にさえ気をつければ、かなり広い意味に解釈してもらえる比較的使い勝手の良い用語であると言えるのかもしれない。


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プロフィール

中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

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