米国の一地方都市で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

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「112 条第1段落の明細書記載要件(Written Description Requirement)」と「発明の課題・解決手段」― Crown Packaging Technology, Inc. v. Ball Metal Beverage Container Corp.事件 ―その3

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Crown Packaging Technology, Inc. v. Ball Metal Beverage Container Corp.事件と直接の関係はないが、前回まで2回に亘って説明した米国特許法112条第1段落、これに加え同条第2段落に関し、特にクレームの記載と明細書の記載内容との関係について、興味深いMPEPの記述を紹介する。

112条第1段落の実施可能要件(Enablement Requirement)と、112条第2段落のクレームの明確性要件に関する記述である。

MPEP2172.01 Unclaimed Essential Matter
A claim which omits matter disclosed to be essential to the invention as described in the specification or in other statements of record may be rejected under 35 U.S.C. 112, first paragraph, as not enabling. In re Mayhew, 527 F.2d 1229, 188 USPQ 356 (CCPA 1976). See also MPEP § 2164.08(c). Such essential matter may include missing elements, steps or necessary structural cooperative relationships of elements described by the applicant(s) as necessary to practice the invention.

In addition, a claim which fails to interrelate essential elements of the invention as defined by applicant(s) in the specification may be rejected under 35 U.S.C. 112, second paragraph, for failure to point out and distinctly claim the invention. See In re Venezia, 530 F.2d 956, 189 USPQ 149 (CCPA 1976); In re Collier, 397 F.2d 1003, 158 USPQ 266 (CCPA 1968). >But see Ex parte Nolden, 149 USPQ 378, 380 (Bd. Pat. App. 1965) ("[I]t is not essential to a patentable combination that there be interdependency between the elements of the claimed device or that all the elements operate concurrently toward the desired result"); Ex parte Huber, 148 USPQ 447, 448-49 (Bd. Pat. App. 1965) (A claim does not necessarily fail to comply with 35 U.S.C. 112, second paragraph where the various elements do not function simultaneously, are not directly functionally related, do not directly intercooperate, and/or serve independent purposes.).<

以下はその日本語訳(英語力不足の為、大雑把な意訳ですがご容赦ください)。

クレームに記載されていない(発明に)不可欠な事項
明細書又は他の記録された供述において不可欠(“essential”)であると述べられた事項(“matter”)があるにもかかわらず、これを欠いたクレームは、米国特許法112条第1段落の実施可能要件を欠くものとして拒絶される。MPEP2164.08(c)を併せて参照。ここでいう不可欠な事項(“essential matter”)というのは、要素、工程、又は要素間の構造的な協働関係であって、当該発明の実施の必要なものとして発明者が(明細書中に)記述したものを含む。
さらに、明細書中において出願人(発明者)が定義した発明に不可欠な要素との関連を欠いたクレームは、米国特許法112条第2段落(クレームに記載された発明の明確性)に違反するものとして拒絶される。(ただし、組合せ(からなる発明)ついて特許性があると言えるために、必ずしも、クレームに記載された装置の構成要素各々の間に相互依存性がある必要はないし、全ての構成要素が特定の一つの効果を生み出すよう同時に作動する必要もない。従って、様々な要素が同時に機能しない、機能的に直接は関係しない、直接的な相互作用を持たない、及び/又は、独立した作用を担うように働く、というような理由で必然的に112条第2段落違反となるわけではない。)

なお、上記MPEP2172.01で参照されているMPEP2164.08(c)には、以下のような記述がある。

MPEP2164.08(c) Critical Feature Not Claimed
A feature which is taught as critical in a specification and is not recited in the claims should result in a rejection of such claim under the enablement provision section of 35 U.S.C. 112. See In re Mayhew, 527 F.2d 1229, 1233, 188 USPQ 356, 358 (CCPA 1976). In determining whether an unclaimed feature is critical, the entire disclosure must be considered. Features which are merely preferred are not to be considered critical. In re Goffe, 542 F.2d 564, 567, 191 USPQ 429, 431 (CCPA 1976).

Limiting an applicant to the preferred materials in the absence of limiting prior art would not serve the constitutional purpose of promoting the progress in the useful arts. Therefore, an enablement rejection based on the grounds that a disclosed critical limitation is missing from a claim should be made only when the language of the specification makes it clear that the limitation is critical for the invention to function as intended. Broad language in the disclosure, including the abstract, omitting an allegedly critical feature, tends to rebut the argument of criticality.

以下はその日本語訳(これも大雑把な意訳ですが、ご容赦ください)。

クレームされていない(発明にとって)決定的に重要な特徴
明細書において決定的に重要であると教示されているにも関わらずクレームに記載されていない特徴がある場合、その事は、米国特許法112条第1段落の実施可能要件違反に該当する。クレームに記載れていない特徴が決定的に重要であるか否かを判断するにあたっては、(出願の)開示内容全体を考慮しなければならない。単に好ましいとされている特徴は決定的に重要であるとは認められない。

従来技術との境界を欠く、単に好ましいとされている材料(特徴)によって出願人を縛るようなら、実用的な技術の向上を促すという憲法の法趣旨にも反する事にもなりかねない。それ故に、(明細書において)決定的に重要であると教示された限定(”limitation”)がクレームに含まれていない事を理由とした実施可能要件(112条第1段落)違反に基づく拒絶理由が成立するのは、明細書中において、そのような限定(”limitation”)が当該発明の機能にとって決定的に重要(不可欠)であると意図的に記述されている事が明白である場合に限られる。広い意味合いを含む文言であって、抽象的な概念を意味したり、決定的に重要であるか否かが問われている特徴を除外し得るような文言が明細書中で使用されている場合、そのような文言を根拠にした上記の拒絶理由は反論に足るかもしれない。

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結局のところ、こういう表現はダメでこういう表現ならOKと決めつけるのは良くないと思うが、少なくとも、「明細書中において、クレームに含まれていない構成要素や機能が、あたかも「発明」に必須の構成要素や機能であるかのように解釈されかねない表現は使わないように心がけるべき」という事は言えそうだ。

特に、以下のような場合は注意が必要と思われる。例えば、日本の基礎出願において、明細書中で、例えば「構成要素Aは、当該発明において重要な機能を有する。」というような表現を用いた場合、日本語では、このような表現から、発明者は果たして「この構成要素Aが発明にとって不可欠な要素である」と表明していると言えるか否かを判断するのは微妙なところだと思う。しかし、これを英文に翻訳する段階で、“essential”とか、“critical”とか言う表現が出てきてしまうと、「構成要素Aは当該発明にとって重要」が「構成要素Aは当該発明にとって不可欠」という断言にすり替わってしまう恐れがあるのだ。このあたりの事は、米国出願用の書面作成の段階で担当者や翻訳者にとって、気に留めておく価値があると思う。

また、中間処理の段階で、クレームから一部の構成要素や構成要素間の相互関係を示すような表現を(補正によって)削除した場合、明細書中、例えば発明の要旨(“Summary of Invention”)等における記載内容の中に、あたかも、(補正によって)クレームから削除された構成要素が発明に不可欠であるような表現が残ってしまう事があり得る。この点にも注意が必要だろう。

一つの方策としては、前回の112 条第1段落の明細書記載要件(Written Description Requirement)違反の対策と同じで、明細書の本文中で使う表現として、発明の構成要素という類の表現は避け、必要に応じ、類似の表現として、あくまで も発明を具現化した「一実施例の構成要素」というような表現を使うのが好ましい。

発明の一実施例の構成要素は、あくまでも実施例の構成要素なのであり、発明に不可欠とは言えないからだ。つまり、このような表現を使っ ておけば、そのような構成要素を含む事が当該発明の必要条件であるという主張を後から「否定」することができるという理屈だ。


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プロフィール

中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

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