米国の一地方都市で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

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明細書中の従来技術の記載についての留意点

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米国特許出願において、明細書中に従来技術として記載された技術内容については、当該出願にかかる発明に対し、出願人がこれを従来技術であると自認したものとして取り扱われる。この事は、日本において出願関連業務を行っている方の間で比較的よく知られている思う。

今回は、具体的にどんな事が起こり得るのか、特に日本の実務の観点からはちょっとだけ気づき難い。。。かもしれない例を挙げたいと思う。

先ず、下記米国特許法102条(a)項を見て欲しい。

35 U.S.C. 102Conditions for patentability; novelty and loss of right to patent.
A person shall be entitled to a patent unless
(a)the invention was known or used by others in this country, or patented or described in a printed publication in this or a foreign country, before the invention thereof by the applicant for patent,...

第102条 特許要件;新規性及び特許を受ける権利の喪失
次に該当する場合を除き、何人も特許を受ける権原を有する。
(a) その発明が、当該特許出願人による発明の前に、合衆国において他人に知られ若しくは使用されたか、又は合衆国若しくは外国において特許を受け若しくは印刷刊行物に記載された場合、… 

(日本語訳は日本特許庁のHPより引用)

ここで、例えば、2010年6月6日に行った日本特許出願A1を基礎としてパリ条約上の優先権を主張し、2011年1月1日に行った米国特許出願A2に対し、2010年5月5日に出版された刊行物Bに掲載された記事に、出願人以外の者によって出願A2のクレーム発明に類似する技術bが開示されていたとする。

このような状況において、米国特許出願A2を審査を担当する審査官がこの刊行物Bに開示された技術bの存在を知れば、従来技術文献として刊行物Bを引用し、102条(a)項(新規性)又103条(非自明性)違反を理由にクレーム発明を拒絶するかもしれない。

この場合、先発明主義を採用する米国では、もし当該出願にかかる発明者が、技術Bの開示日(2010年5月5日)よりも前にクレーム発明を完成させていた場合、米国特許法施行規則37CFR1.131に規定される宣誓書を提出することより、Bを引用文献から除外できるはず(MPEP715)。。。なのだが。。。

こんな場合はどうだろう。出願A2(A1)の明細書中に、例えば、「クレーム発明は、従来の技術bにあった課題を解決する為に考案されたものである」という内容の記載があった場合である。

先発明の宣誓により引用文献を従来技術から除外できる旨を規定する米国特許審査便覧MPEP715には、以下のような例外規定がある。

MPEP715 II. SITUATIONS WHERE 37 CFR 1.131 AFFIDAVITS OR DECLARATIONS ARE INAPPROPRIATE
An affidavit or declaration under 37 CFR 1.131 is not appropriate in the following situations:
… (G) Where applicant has clearly admitted on the record that subject matter relied on in the reference is prior art. In this case, that subject matter may be used as a basis for rejecting his or her claims and may not be overcome by an affidavit or declaration under 37 CFR 1.131. In re Hellsund, 474 F.2d 1307, 177 USPQ 170 (CCPA 1973); In re Garfinkel, 437 F.2d 1000, 168 USPQ 659 (CCPA 1971); In re Blout, 333 F.2d 928, 142 USPQ 173 (CCPA 1964); In re Lopresti, 333 F.2d 932, 142 USPQ 177 (CCPA 1964).

つまり、 「(審査官は、)特定の主題(技術)について、それが従来技術であると出願人が明示的に認めている場合、そのような技術を、(発明の特許性を否定する)拒絶理由の根拠として用いることができる。このような(出願人が自認した)従来技術は、37 CFR 1.131の宣誓書又は宣言書の提出する事で拒絶理由の根拠から除外することはできない(37 CFR 1.131の宣誓書又は宣言書の提出は不適切である)。」というわけである。

結局、上記の例では、特許発行前の審査過程や、特許発行後に当該特許の有効性が判断される際、本当なら従来技術としては除外できるはずであった刊行物の記載内容が、従来技術として取り扱われ、結果として、出願人(特許権者)に不利な条件をもたらす事になる。

こうして出願人は、自身の米国特許出願を、みすみす不利な(特許されにくい)状況に追い込んでしまったというわけだ。

ところで、上記の例において、刊行物Bに開示された技術bが日本の基礎出願に従来技術として記載されていたと仮定した場合、このような結末を未然に防ぐよう刊行物Bに関する記載を米国出願の明細書から削除したらどうなるだろう。

これは、少なくとも個人的にはお勧めできない。このような処置により、確かに、出願人が刊行物Bに開示された技術Bを従来技術として自認した事実は、米国出願の内容から見かけ上消去されたかのように思える。しかし、基礎出願の内容から、発明者自身が実際にそのような認識をもっていたという事実は残るわけだ。であるから、そのような処置を行えば、将来、権利行使の局面において、出願人が従来技術に関する審査官の認識を故意に歪曲しようとする不正行為(inequitable conduct)であったという攻撃を受ける可能性が高くなると思う。裁判所で不正行為(inequitable conduct)の認定を受けてしまうと、当該特許権は行使不能(unenforceable)という事になる。

結局、上記の例の如きリスクを未然に防ぐ方法は、「米国出願の基礎たる日本特許出願の明細書の内容、すなわち従来技術に関する記載内容について細心の注意を払う。」という事なのだと思う。

「米国で良い特許を取得するための条件」という観点から見た時、クレーム、明細書、図面の実質的な内容のみならず、従来技術に関する記載についても、日本の基礎出願の内容がどれだけ重要であるのかがわかる一つの例である。


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プロフィール

中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

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