米国の一地方都市で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

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ミーンズプラスファンクションクレーム(明細書開示条件の落とし穴)

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今回は、先日(1/20)のセミナーで取り上げた課題の一つ、「ミーンズプラスファンクションクレームと認定されたクレームにかかる特許が112条違反で無効にされた事例」として、前回とは別の角度から見て重要であると思われる他の事例を紹介させていただきたい。

クレーム要素がミーンズプラスファンクションと認定された場合には、明細書の開示要件として、『当該クレーム要素の実現が可能な程度の開示』では許されなくなるという見解を裁判所がはっきり示したわかりやすい事例の一つと思う。

Blackboard v. Desire2Learn 事件 (Fed. Cir. 2009)


本件は、「コース管理ソフトを利用することによってインターネットを通じた生徒と教師とのやり取りを可能にした教育システムのサービス」を提供するBlackboard社が、自社の保有する特許権を侵害しているとして、Desire2Learn社に対し訴えを提起した事件である。

以下、問題となった特許(U.S. Patent No . 6,988,138)の代表的なクレームを示す(赤字の箇所が重要)

1. A course-based system for providing to an educational community of users access to a plurality of online courses, comprising:
a) a plurality of user computers, with each user computer being associated with a user of the system and with each user being capable of having predefined characteristics indicative of multiple predetermined roles in the system, each role providing a level of access to a plurality of data files associated with a particular course and a level of control over the data files associated with the course with the multiple predetermined user roles comprising at least two user's predetermined roles selected from the group consisting of a student role in one or more course associated with a student user, an instructor role in one or more courses associated with an instructor user and an administrator role associated with an administrator user, and
b) a server computer in communication with each of the user computers over a network, the server computer comprising:
means for storing a plurality of data files associated with a course,
means for assigning a level of access to and control of each data file based on a user of the system's predetermined role in a course;
means for determining whether access to a data file associated with the course is authorized;
means for allowing access to and control of the data file associated with the course if authorization is granted based on the access level of the user of the system.

以下、クレームの日本語訳である。

1.一群のユーザーが教育目的で複数のオンラインコースにアクセスできるようにするためのコース提供用のシステムにおいて、
a )複数のユーザーコンピュータ(端末)であって、各々が、当該システムと関連して、且つ、各ユーザーが当該システムにおいて予め設定された複数の役割を示すよう予め設定された特徴を持つ端末であり、前記各末端の役割(2つのレベル(地位)を与える役割)は、
(1) 特定のコースに関連する複数のデータファイルにアクセスするレベルと、
(2) *学生であるユーザーに関連する一つ又はそれ以上のコースにおける一学生としての役割、
* インストラクターであるユーザーに関連する一つ又はそれ以上のコースにおける一インストラクターとしての役割、及び
* 管理者であるユーザーに関連する一管理者としての役割、
からなるグループから選択された少なくとも二つ以上の予め設定された役割を含む、予め決められた複数のユーザーの役割が設定された、コースに関連するデータファイルを制御するレベルとを、
を与えるように構成された複数の末端と、
b) ネットワークを通じて各ユーザーコンピュータと通信可能なサーバーコンピュータであって、
所定のコースに関連のある複数のデータファイルを保管する手段、
所定のコースにおいて予め設定された役割を持つユーザーによる各データファイルへのアクセス及び制御のレベルを与える手段
そのコースに関連するデータファイルへのアクセスの権限が与えられているか否かを判断する手段、及び
当該システムのユーザーのアクセスレベルに基づき権限が認められる場合、コースに関連するデータファイルへのアクセス及び制御を許可する手段を備えるサーバーコンピュータと、
を備えるシステム。

裁 判所は、クレームの構成要素である“means for assigning a level of access to and control…”(アクセスと制御のためのレベル(地位)を与える手段について、これを特許法第112条第6段落に規定する「ミーンズ・プラス・ファンクション」であると認定した上で、明細書中においてこれらクレームの構成要素に対応する構造の十分な説明が欠如しているという理由で、特許法112条第2段落違反(クレームに記載された発明が不明確)を根拠に当該特許を無効と判断した。

(ポイント)
112条第2段落違反を理由に当該特許は無効であると主張するDesire2Learn社(被告)に対し、Blackbord社(原告)は、明細書中で説明されている「ソフトウエアに含まれるaccess control manager」 という機能(ロジック)が、問題となった手段の機能を担っている と反論した。

実際、明細書中の実施例の説明には、「“access control manager”は、サブシステムの要求に応じ、アクセスコントロールリストを作成する。アクセスコントロールリストに応じ、保護される(アクセス制限のかかる)リソースが決まっている。アクセス制限には、複数のレベルがある。」等、問題となったクレーム要素(ミーンズプラスファンクション)に対応する“access control manager”の機能や役割について、かなり詳細な説明がなされたいた。また、同明細書中には、アクセス制限のレベルによって、どのような制御が制限されるのか、具体例も挙げられていた。

にもかかわらず、裁判所は、ミーンズプラスファンクションのクレーム要素をサポートする具体例としては、明細書中の説明では不十分であると判断した。


前回、Automotive Technologies International v. BMW 事件 (Fed. Cir. 2007)の説明で強調したように、米国においては、クレー ムの構成要素が112条第6段落に規定された「ミーンズプラスファンクション」に該当すると認定されると、必然的に、明細書の開示要件として、通常のク レーム構成要素よりも厳しい条件が課される。

つまり、Automotive Technologies International v. BMW 事件 (Fed. Cir. 2007)と同様、本件の場合もまた、上記クレームの構成要素がもし「ミーンズプラスファンクション」と認定されなければ、当該特許は無効にならなかった可能性が極めて高いと言える。

ちょっと乱暴な要約になってしまうが、本件について、裁判所は概ね以下のような見解を示している。

「ミーンズプラスファンクションのクレーム要素というのは、クレーム中に当該要素の機能についてしか記載していないのだから、これに対応する構造(構成)、つまり、当該機能を実現するための構成(本件では、恐らく“access control manager”が実行する具体的な処理手順と思う)が明細書によって十分説明されていなければならない。

そして、本件のように当該クレーム要素(の機能)が特定のプログラム(の機能)に関連する場合、明細書の開示条件としては、当業者(例えばソフトウエア開発者)が明細者を読んだ際、何らかの方法で当該機能を実現するプログラムを作成できる程度の開示では不十分。

当業者から見て、『当該クレーム要素の実現が可能な程度の開示』ではダメで、『その実現を可能にする数あるプログラムのロジックの選択肢の中から、発明者は具体的にどの選択肢を選んだのか』、まで明細書で特定することで、はじめて112条第2段落の要件を満たすことになる。」

ちなみに、上記のような裁判所の見解は、本事件に限ったものではない。ミーンズプラスファンクションのクレーム要素を含むソフトウエア関連発明の特許が112条第2段落違反で無効となったいくつかの事件において、裁判所は、ほぼ同様の見解を示している。

前回紹介したAutomotive Technologies International v. BMW 事件 (Fed. Cir. 2007)と同様、本件もまた、クレー ムの構成要素が112条第6段落に規定された「ミーンズプラスファンクション」に該当すると認定されると、必然的に、明細書の開示要件として、通常のク レーム構成要素よりも厳しい条件が課される事を、教訓として実感させられる事件だ。

前回と同様、クレームの構成要素として「ミーンズプラスファンクション」を採用する場合、明細書や図面の記載に細心の注意を払う必要があることを実感させられる一つの具体例として、本事件を紹介した次第。


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プロフィール

中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

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