米国の一地方都市で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

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ビルスキ事件最高裁判決の後 - Research Corporation Technologies Inc. v. Microsoft Corp.事件-

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判例の原文はこちら↓
RCT v. Microsoft

先だって、最高裁は、ビルスキ事件の判決に際し、ソフトウエア関連発明が特許法上の保護対象(101条に規定)になるか否かについてどのように判断されるべきかを論じた。本件は、このビルスキ事件の最高裁判決の後、同様の問題を取り扱った裁判について、連邦控訴裁判所が出した最初の判決である(2010年10月判決)。

今回の連邦控訴裁判所による判断は、ソフトウエア関連発明と101条の関係について、これまでの裁判所の考え方、特にビルスキ事件で最高裁が示したある種の指針を踏まえつつ、ソフトウエア関連発明の特許性(保護対象たる発明に該当するかという点)の有無の判断基準について、その方向性をある程度明確にしたように思える。

先ず、少し(自分の)頭の中を整理してみると、ビルスキ事件の最高裁判決において、裁判所は、(1)ビルスキー氏のビジネスモデル発明は単なる抽象的なアルゴリズムにすぎない為、米国特許法101条に規定する保護対象に該当しないと判じた。また、同裁判所は、(2)ただし、一般論として、ソフトウエアやビジネスモデル関連発明であるからといって特許性(101条要件)が一概に否定されるものではなく、自然法則、物理現象、抽象的な概念でなければ、特許の対象になり得る、とも言及している。

一方、過去、複数の判例において「プロセス(方法)のクレームが数値アルゴリズムのみにかかるものである場合、特許の対象とはならない」ことが、明確にされている(例えばGottschalk v. Benson事件( 最高裁1972))。従って、ソフトウエア関連発明が101条の問題をクリアするためには、最低でも、それが単なる「アルゴリズム」+αである事は明らかであると思う。

その一方、「ソフトウエア」の核と言える「アルゴリズム」自体が、自然法則や物理現象に該当するという事はあり得ないだろう。

そうすると、ソフトウエア関連発明が101条の問題をクリアする必要十分条件は?と聞かれれば、少なくともプロセス(方法)にかかるクレームの場合、クレームに記載された発明が、先ず「アルゴリズム」+αである事を前提として、さらに、その「アルゴリズム」+αが、抽象的な概念「以上の何か」である事、と必然的にそうなるのでは。。。という気がする。

そこで、今回のResearch Corporation Technologies Inc. v. Microsoft Corp.事件。

Research Corporation Technologies Inc.(RCT社)が、デジタル画像のハーフトーン処理に関する6つの特許の侵害を理由に、Microsoft Corp.(マイクロソフト社)に対し訴えを提起したところ、地方裁判所は、6つの特許のうち2つの特許が特許法101条違反を理由に無効と判断した。

これに対し、連邦巡回裁判所は、地裁の判断を覆し、問題となった2つの特許のクレームは、特許法101条に規定する法上の保護対象たる発明に該当すると判断した。

ちなみに、ハーフトーン処理とは、例えば白と黒、2種類の色のピクセル(格子のマス目)からなる画面を使い、白と黒のピクセルの数の配分や分布を調節することによって、視覚的に中間色(ハーフトーン)、つまりグレー(灰色)を認識させる画像を生成する技術である。

以下、問題となった特許のクレームのうち代表的なものである。

“ A method for the halftoning of gray scale images by utilizing a pixel-by-pixel comparison of the image against a blue noise mask in which the blue noise mask is comprised of a random non-deterministic, non-white noise single valued function which is designed to produce visually pleasing dot profiles when thresholded at any level of said gray scale images.”

日本語に訳すと、

「所定のピクセル×ピクセル画像をブルーノイズマスクと比較することによってグレイスケール画像をハーフトーン処理する方法であって、
前記ブルーノイズマスクは、前記グレイスケール画像のどのレベルに閾値が設定された場合でも見栄えの良い点描画を生成するように設計された非決定性、非白色雑音性の一価関数からなる
ハーフトーン処理方法。」

と、だいたいこんな感じだろうか。

私自身が、画像処理技術についての知識や理解力に乏しくお恥ずかしいが、ブルーノイズマスクを辞書で調べると、「人間の視覚は,ある空間周波数以上ではほとんど感度がないので,疑似的なランダムパターンの分布を操作して、空間周波数分布がこの周波数以上となるようにして、画質の改良を図った濃度パターン法あるいは組織的ディザ法。通常256×256画素の大きな閾値マトリックスが利用される。」(weblio 辞書より引用)
と定義してあった。

もう少し平たく言えば、(縦横に並んだ複数の画素(ピクセル)から構成される)モノクロのデジタル画像を生成する際、人間の視覚で見栄え良く認識される画像になるよう、当該デジタル画像に含まれるノイズを上手く取り除く画像処理の技法であり、一種の二値化処理だ。

問題となったクレームは、「このブルーノイズマスクに相当する特定の関数を用い、グレイスケール画像をハーフトーン処理する方法」と、これ以上の事は言っていないので、確かに相当に広い意味合いを含むクレームだ。しかし、出願当初、このブルーノイズマスクの手法そのものが真新しく、一定の技術的効果を生むというか、米国特許法や過去の判例の言葉を借りれば、クレームにかかる発明は「特定のアルゴリズムを用いて新規且つ利用性のある(new and useful)結果を生み出すプロセス」であると審査官は考え、101条の要件を満たすと判断したものと推察する。

連邦控訴裁判所の方は、ビルスキ事件の最高裁判決を引用するとともに、“abstractness”という言葉を幾度か用い、クレームに記載された発明が、法上の保護対象に該当するという判断に至った決め手としている。

私なりに、判決文の主要部分を要約してみた。だいたい以下のような感じだと思う。

「ビルスキ事件の最高裁判決では、アルゴリズムを含むプロセス発明のクレームについて、最高裁は、全体としてそれが抽象的な概念にすぎなければ101条に規定する法上の保護対象たる発明の要件を満たすとは認められないと判じている。その一方、抽象的な概念、あるいは抽象性(abstractness)とは何かという事についてその定義を明らかにはしておらず、今後、新たな基準の設定を試みることを推奨している。今回、本裁判所はそのような抽象性についての定義を明確にするような議論はしないが、少なくとも、問題となったクレームに記載されたプロセスは、抽象的とは全く思えない。(“…this court perceives nothing abstract in the subject matter of the processes claimed in the ’310 and ’228 patents.”)結果として、101条の要件を満たすと判断する。

私個人としては、本件についての連邦控訴裁判所の判断は賢明なものと思う。

先ず、ビルスキの最高裁判決に照らし、本件における連邦控訴裁判所の判断のロジックは明快である。それに加え、やはり、特定のアルゴリズムを、それ相応の技術的効果が得られるように、特定の技術に応用する為のプロセスであって、そのプロセスというか、やり方自体が当業者にとって普通に理解できるものなら、これは、やはり特許法の「保護対象の枠内」には入れるべきと思うのだ。実際に特許を付与するか否か、その技術的な価値についての最終的な判断は、別途、新規性や非自明性の判断に委ねれば良いわけだし。

何れにしても、今後、ビジネスモデルの発明も含め、ソフトウエア関連発明(特に方法発明)に関する101条の問題については、この“abstractness”(抽象性)とか、“abstract idea”(抽象的な概念)という言葉の意義をどう解釈するのかが、かなり重要になるのかもしれない。


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プロフィール

中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

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