米国の一地方都市で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

Broadest Reasonable Interpretation(Cuozzo Speed Technologies v. Lee Supreme Court)

米国の特許実務においてクレームの文言をどのように解釈べきかについては、特に「Broadest Reasonable Interpretation Rule」というものがある。文字通り、クレームに含まれる文言について、合理的と判断される限りにおいて目いっぱい広い意味に解釈すべき、というクレーム解釈の原則である。

先ごろ、「クレームの文言の意味をどの程度の広さに解釈すべきか」という議論に関連する事件について、米国の最高裁による判決があった。

Cuozzo Speed Technologies v. Lee

本事件では、Cuozzo Speed Technologies(Cuozzo社)の特許(US6778074('074特許))が特定の先行技術文献に基づき自明(103条違反)であるか否かが争われた。

事件の経緯は以下の通りである。

Cuozzo社の'074特許に対し、Garmin International, Inc. 及びGarmin USA, Inc.(Garmin )は、米国特許商標庁(USPTO)に当事者系レビュー(Inter Partes Review:IPR)を請求し、非自明性要件(米国特許法103条)の欠如を根拠にクレーム17の無効を主張した。

IPRにおいて、USPTOの審判部(PTAB)は、 上記のクレーム17及びクレーム10,14 について、これらクレームは非自明性の要件を満たしておらず無効である審決を下した。ちなみにクレーム10は独立項であり、クレーム14はクレーム10に従属する従属項、クレーム17はクレーム14に従属する従属項であった為、クレーム17について非自明性要件違反の無効理由の主張は、暗にクレーム10,14の無効理由の主張(審判部に対するレビューの請求)を意味すると解釈した。

IPRは、日本で言う無効審判に相当する。これに近い制度として元々あった当事者系再審査(Inter Partes Reexamination)に代わり、AIAで新たに導入された制度でもある。

IPRの審決を不服として、Cuozzo社は、連邦控訴裁判所(CAFC)に訴えを提起した。CAFCはIPRの審決(USPTOの判断)を支持した。Cuozzo社は、これを不服として上訴し、今回の最高裁判所による判決に至った。

最高裁における主な争点は以下の2点である。

1.「『IPRの審理においては、審判官の合議体は、対象特許のクレームの文言について、平易で一般的な意味に解釈するよりも、可能な限り広い意味(broadest reasonable interpretation)に解釈するべきという考え方に従い、その解釈を行ってよい』と判じた控訴裁判所の判断に誤りはなかったか?」という点。

2.「『審判官の合議体が、その法的な権限を越えてIPRの審理を行った(開始した)としても、IPRの審理を行った(開始した)という判断について、裁判所が再審理を行うべきではない』と判じた控訴裁判所の判断に誤りはなかったか?」という点。

結論として、争点1, 2共に、最高裁は控訴裁判所の判断を支持した。

クレームにおける文言の解釈については、有名な判例も多く、議論のネタが尽きないが、特に本件の場合、出願・中間処理の実務の観点から、クレームに記載された文言はどのように解釈されるのかという事はもちろん、それのみならず、審査官によるクレームの解釈と、審判や裁判におけるクレームの解釈との間で、どの程度の乖離が予想され得るのか等を考える上で、とても興味深い判例であると、個人的には思う。


ちなみに、最高裁が論じた本事件の争点とはあまり関係がないのだが、以下、本事件で問題なった代表的なクレームと先行技術との関係について少し具体的に説明させていただく。

以下、'074特許の代表的なクレーム(Claim 10)

10. A speed limit indicator comprising: a global positioning system receiver; a display controller connected to said global positioning system receiver, wherein said display controller adjusts a coloredひょう display in response to signals from said global positioning system receiver to continuously update the delineation of which speed readings are in violation of the speed limit at a vehicle's present location; and a speedometer “integrally attached” to said colored display.

(和訳)
10.スピード制限表示装置において、
GPS受信機と、
前記GPS受信機に接続されたディスプレイ制御装置であって、
前記GPS受信機からの信号に応じてディスプレイ上の色(カラー表示)を調整して、実速度が現在位置における車両の制限速度に違反している事を示す表示を更新し続けるディスプレイ制御装置と、
前記カラー表示に「組み込まれた」スピードメータと、
を備えるスピード制限表示装置。

'074特許の明細書本文の説明及び図面によれば、本発明の装置では、例えば円盤の内周に沿って速度が振ってあり、実速度を回転針で示す時計のようなアナログ式のスピードメータにおいて、一般の法定制限速度を超える部分と、そうでない部分の背景が色分けしてあり、これとは別に回転可能な赤いフィルタディスクによって、現在位置における制限速度を超える範囲を示すようになっている。本発明では、GPSからの信号に応じてこの赤いフィルタが回転し、車両が現在位置における制限速度を守っているかどうかが分かるようになっている。

本事件では、クレーム記載された“integrally attached”(カラー表示に「組み込まれた」スピードメータ)という文言の解釈が問題になった。

この文言について、Cuozzo(特許権者側)は、明細書本文(実施例の説明)において、「組み込まれた」(integrally attached)という文言は使われておらず、実施例の構成に基づいて考えれば、クレームの意味するところは、「カラー表示(赤いフィルタディスク)とスピードメータは、互いに区別される構成要素であるが、一つのユニットとして結合したものである」と主張した。つまり、あくまでも実施例レベルに限定した解釈をすべきと主張した。

本事件では、例えば先行技術の一つに、自動車の運転席のインパネに当該自動車の実速度を表示する速度表示部(スピードメータに相当)と、この速度表示部とは離れた部位に、当該自動車の実速度が特定の速度を超えた場合に点滅する警告灯(カラー表示に相当)とが配置されているものがあった。

Cuozzo(特許権者側)の主張に従えば、この先行技術では速度表示部と警告灯は、互いに離れた部位に、別々に配置されているので、クレーム発明の構成要素であるa speedometer “integrally attached” to said colored display(カラー表示に「組み込まれた」スピードメータ)が開示又は示唆されている事にはならない、という事になる。

Cuozzo(特許権者側)の主張に反し、特許庁(IPR)は、(A)“integrally attached”to(B)とは、部材(A)と部材(B)が各々の属性を失うことなく、一つのユニットの中に共に連結されているという、広い意味合いを持っていると解釈し、裁判所としても、(特許の)専門家たる特許庁の考えを尊重した。

純粋に法律の観点から見た争点をひとまずおいて置けば、個人的には、これが本事件の大筋であるように思える。

本事件において、最高裁は、「クレームの文言について、平易で一般的な意味に解釈するよりも、可能な限り広い意味に解釈するべきという考え方(broadest reasonable interpretation)に従い、その解釈を行う」事を良しとする判断を下した。これはこれで重要な事である。

ただ、それと同等かそれ以上に重要な事項として、最高裁は、上記判断の背景として、立法の決めたルールの解釈について、特許庁は相当な権限をもっているのあって、本件で問題になったクレームの解釈の基準等についても、専門家としての特許庁の考え方を尊重すべきである、という見解を示している。

この判例は、今後の審査(中間処理)にかなりの影響を及ぼすかもしれない。。。そんな気がします(^^;

「クレームの文言について、平易で一般的な意味に解釈するよりも、可能な限り広い意味に解釈するべき」という“broadest reasonable interpretation”の考え方は、これまでも特許庁(の審査官)が採用してきたクレーム解釈の基本的な判断基準ではある。

しかし、例えば、クレームに記載された「単語」が本来持つ「辞書的な解釈」との間で、どこまでつきつめて“broadest reasonable interpretation”を採用するのかは、あくまでもケースバイケースで、必ずしも、判断基準が明確であったようには思えない。少なくとも、中間処理の現場においては、出願人(代理人)にとって、反論が受け入れられる可能性も割りと大きかったように思う(今後もあると信じたいが)。

しかし、今回の最高裁判決によって、この“broadest reasonable interpretation”を含め、クレーム解釈等の判断基準を決める上で、特許庁はある意味、裁判所以上の権限がある(ちょっと言い過ぎかもしれないけれど)とお墨付きをもらった、とも言えるだろう。

そうすると、例えばクレーム発明と引例との差異を議論する上で、クレームの文言をどこまで広く解釈するかについて、平たく言えば、審査官はより強気な議論を行うようになるのではないか、と思う。そして出願人側の立場としては、(審査官による)“broadest reasonable interpretation”の議論に対し、反論し難くなるだろう。

出願時のクレームドラフティングの段階においても、注意が必要。。。かもしれないですね。

以上

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プロフィール

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

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