米国の一地方都市で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

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米国特許法101条 (発明としての適格性) に関するUSPTOの判断基準 (適格性を有する具体例3)

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前回に続き、クレームに記載された発明の本質的な部分がコンピュータプログラムに関するものである場合、これが101条要件を充足するか否かの判断プロセス(Step 1, 2A, 2B)を説明する為にUSPTOの審査基準に示された3番目の具体例(適格性を有する具体例)を紹介する。

原文(引用元)はこちら(7ページ目です)⇒Abstract Idea Examples (January 2015)

これは、特許侵害訴訟において、クレームが101条要件を満たしているか否かが実際に裁判所で争われた事例 (Research Corporation Technologies Inc. v. Microsoft Corp., 627 F.3d 859 (Fed. Cir. 2010)) で問題になったクレームを、101条要件の判断基準が分かり易くなるよう、USPTOが独自に修正したものである。上記事件で問題になったクレームについて、裁判所は、101条要件を満たすものと判断している。USPTOによれば、修正版のクレームも101条要件を満たす。

問題となったクレーム(USPTOによる修正版):
1. A computer-implemented method for halftoning a gray scale image, comprising the steps of:
generating, with a processor, a blue noise mask by encoding changes in pixel values across a plurality of blue noise filtered dot profiles at varying gray levels;
storing the blue noise mask in a first memory location;
receiving a gray scale image and storing the gray scale image in a second memory location;
comparing, with a processor on a pixel-by-pixel basis, each pixel of the gray scale image to a threshold number in the corresponding position of the blue noise mask to produce a binary image array; and
converting the binary image array to a halftoned image.

クレームの内容を要約すると下記のようなものになると思う。
「コンピュータにより実行されるグレイスケール画像のハーフトーン処理方法であって、
プロセッサーによりブルーノイズマスクの生成する工程と、
前記ブルーノイズマスクの第1のメモリへ記憶する工程と、
ブルースケール画像の受取(取得)及び当該画像の第2のメモリへ記憶する工程と、
所定のピクセル×ピクセル画像を前記ブルーノイズマスクと比較し、二値画像配列を生成する工程と、
前記二値画像配列をハーフトーンに変換する工程と、
を含む方法。」

上記クレームの他、実質的に同じ処理内容を含む「コンピュータに読み取り可能な記録媒体」、「グレイスケール画像のハーフトーン処理するシステム」という、主体が異なるクレームが例示されている。結論から言うと、USPTOの説明によれば、例示された3つのクレームは、何れも法上の発明としての適格性を有する(米国特許法101条の要件を満たす)。

その理由を一言で言えば、「クレームには、抽象概念(abstract idea)と、その抽象概念を有意に越える(amount to significantly more than the abstract idea)プラスαの構成要素と、が含まれていて、それらプラスαの構成要によりコンピュータ自体の機能と、他の技術又は他の技術分野における改善が図られる為」である。

具体的な判断プロセスは以下の通り。

Step 1:
上記方法クレームについて、同クレームは、ブルーノイズマスクを生成し、生成したブルーノイズマスクを使ってグレイスケール画像のハーフトーン処理を行うという一連の工程を記載したものである。したがって、同クレームは、プロセス発明のカテゴリーに属する。
⇒Step 1の判断は“YES”

Step 2A:
それでは、上記クレームは、非法定の(i) 自然法則、(ii) 自然現象、(iii) 抽象概念の何れかを対象とするもの (judicial exception) であるか?

当該クレームは、背景技術で定義されているように、数学的な計算を繰り返すことによって生成されるブルーノイズマスクの生成工程を記載したものである。数学的な関係は多くの場合、非法定の抽象概念とみなされる。従って、ブルーノイズマスクを生成するという数学的な処理を記載した同クレームは、非法定の抽象概念を対象とするものである。
⇒ Step 2Aの判断は“YES”

Step 2B:
続くStep 2Bでは、クレームに記載された発明が非法定の (i) 自然法則、(ii) 自然現象、(iii) 抽象概念の何れかを対象とするものであっても、クレームに「追加の限定事項(additional limitation)」が記載されており、その追加の構成要素が、クレームを、「全体として」、数学的な処理を「有意に越えるもの」(“significantly more”)に変えているか否か、を判断する。

上記クレームには、追加の限定事項が幾つか記載されている。

先ず、上記クレームには、「ブルーノイズマスクを生成するのにプロセッサを使用する事」、それから、「ブルーノイズマスクを第1のメモリへ記憶する工程と、グレイスケール画像を第2のメモリへ記憶する工程」が記載されている。すなわち、上記クレームは、「数学的な処理を行い、データを受け取り、記憶するという工程を実行する為のプロセッサ及びメモリ」を追加の限定事項として含んでいる。しかし、そのような工程を実行する為に単にコンピュータの一般的な構成要素をクレームに追加したという事だけでは、クレームを、「全体として」、数学的な処理を「有意に越えるもの」(“significantly more”)に変えた事にならない。

しかしながら、上記クレームは、更に、下記の追加工程(追加の限定事項)を含む。
「ブルーノイズマスクとグレイスケール画像とを比較し、当該グレイスケール画像を二値画像配列に変換する工程と、当該二値画像配列をハーフトーン画像に変換する工程」
(comparing the blue noise mask to a gray scale image to transform the gray scale image to a binary image array and converting the binary image array into a halftoned image)
上記の追加工程は、数学的な処理(ブルーノイズマスク)と、デジタル画像を処理するというプロセッサーの能力とを、結び付けるものである。

これらの工程は、ブルーマスクの生成という抽象的な概念に、意義のある限定事項を追加したものであり、すなわち、単なるコンピュータの動作を越え、抽象的な概念を越えた有意なものを追加したものである。
また、クレームの各構成要素を一連の処理として捉えた場合、それは、従来のマスク処理に比べて要求されるメモリ容量を減らすことができる点において、クレームにかかる処理を実行するコンピュータの処理機能を改善することにもなっている。これにより、従来の処理に比べ、生成画像の質を落とすことなく処理速度を高めることができ、より質の高いデジタル画像を生成することも可能になる。これは、デジタル画像処理という技術の改善にあたる。
⇒Step 2Bの判断は“YES”

以上より、上記のクレームは法上の発明としての適格性を有する(米国特許法101条の要件を満たす)。

私見:この事例において、USPTOは、判例に照らし、一般的なコンピュータで処理可能な工程と、一般的なコンピュータの構成要素(プロセッサ、メモリ等)を組み合わせただけでは、101条の要件を満たす事はできないと明言している。
この事例で取り上げられたクレームは、それだけでは101条の要件を満たさない構成要素(プロセッサ、メモリ、それらによる処理工程)に加え、「ブルーノイズマスクとグレイスケール画像とを比較し、当該グレイスケール画像を二値画像配列に変換する(二値画像配列を生成する)工程と、当該二値画像配列をハーフトーン画像に変換する(ハーフトーン画像を生成する)工程」(comparing the blue noise mask to a gray scale image to transform the gray scale image to a binary image array and converting the binary image array into a halftoned image)という構成要素を含むことにより、クレームに記載された処理を実行する上で、コンピュータの機能を向上させ、且つ、画像処理(画像生成)という技術を向上させる工程(追加の限定事項)を含むという理由で、101条要件を満たすと判断されている。デジタル画像という可視的なものをアウトプットする工程を含む点が、101条要件を満たすと判断された一つの決め手となっているような気がする。

(次回に続く)

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プロフィール

中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

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