米国の一地方都市で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

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Alice v. CLS Bank事件 (2014年最高裁判決) を踏まえたUSPTOの予備審査指針(3)

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 題意から少し外れるかもしれないが、Mayo v. Prometeus事件の最高裁判決(2011年)の要旨(syllabus)を和訳してみた。3年前の判決であり、今となってはちょっと古いかもしれないが、Alice v. CLS Bank事件の最高裁判決が今後の米国特許出願の審査に及ぼす影響を考える上で、Bilski v. Kappos 事件 (2010年)(同事件の最高裁判決のsyllabusの和訳はこちら)と並び重要な最高裁判決である。

 判決の趣旨を分かり易くするため(というのは言い訳で、翻訳技術が未熟な為(^^;)、かなり多くの部分が意訳で、一言一句正確に訳したものではありませんが、そこはどうかご容赦を。

[Syllabus]

 “自然法則、自然現象、及び抽象的な概念” は特許法101条に規定された特許可能な主題ではないが、“自然法則を…既知の構造又はプロセスに応用したものは、特許としての保護対象たり得る” (Diamond v. Diehr 事件最高裁判決 (1981) より引用)。

 しかし、特許可能でない自然法則を、自然法則を応用したものに変形し、特許可能なものとする為には、単に、そのような自然法則に”それを応用する”という文言を追加するだけでは足りず、何かそれ以上の実体がなければならない (Gottschalk v. Benson 事件最高裁判決 (1972) を参照)。それは、自然法則に対し、特に、何らかの独創性を含んだ応用 (inventive application) でなければならない。

 本事件の被告であるPrometheus 社は、問題となった2つの特許(自己免疫疾患を治療する為のチオプリン薬に関する)の唯一の独占的実施権者(専用実施権者)である。

 この薬は、摂取され、体内で代謝されることにより、血中に代謝産物を生成する。この薬は、それを摂取した患者(の特性)により、代謝のされ方が異なるので、医師にとって、患者毎に、有害な副作用を起こす事なく、且つ、十分な薬効を発揮する適度な投薬量を決める事が困難であった。問題となった特許は、研究者が、代謝産物のレベルと有害な副作用、又は代謝産物のレベルと薬効の相関関係を正確に把握できるようにするプロセスに関する。各クレームには、(1) 患者に薬を投与するよう医師に指示を出す「投与工程」と、(2)患者の血中における代謝産物のレベルを測定するよう医師に命じる「決定工程」と、(3)有害な副作用を生じさせない代謝産物の濃度の上限値と、薬効が現れる代謝産物の濃度の下限値とを示す工程、そして、薬の投与量を減らす、又は増やす「必要の有無を示す」(判断基準としての)前記上限値又は下限値を医師に知らせる工程と、が記載されていた。

 原告である Mayo 社は、Prometheus 社の特許に係る診断テストを購入し、使用していた。しかし、2004年、Mayo 社は、Prometheus 社のものとは若干異なる独自の診断試験の営業販売を始めると公表した。これに対し、Prometheus 社は、Mayo社の試験方法は Prometheus 社の特許を侵害すると主張し、Mayo社に対する訴えを提起した。地方裁判所は、Mayo社の試験方法は Prometheus 社の特許を侵害するが、同特許は自然法則又は自然現象、すなわち、チオプリンの代謝産物のレベルと、チオプリン薬の毒性及び効能との間に見られる相関関係を実用的なものとしてクレームしているにすぎず、特許の適格性を有しない、という趣旨の略式判決を下した。連邦巡回控訴裁判所 (CAFC) は、“machine or transformation test” による判断基準に従い、Prometheus 社のプロセスクレームは特許の適格性を有すると判断し、地方裁判所の判決を覆した。最高裁判所は、“machine or transformation test” は「特許(法の保護対象)の適格性を判断する為の唯一の基準ではない」とする Bilski v. Kappos 事件の最高裁判決を考慮して再考するよう審理の差戻しを命じたが、これを受けた差戻審 (CAFC) は、再度、前回と同じ結論、すなわち「対象クレームは発明の適格性を有する。」という結論を下した。

 これに対する今回の最高裁判決:

(a) Prometheus社のクレーム(プロセス)は特許の適格性を有しない。

 Prometheus社のクレームに記載された自然法則、すなわち「血中における特定の代謝産物の濃度と、チオプリン薬の毒性又は薬効の推定値との関係」は、それ自体としては特許の適格性を有しないので、クレームに記載されたプロセスが特許の適格性を有する為には、単にそのような「相関関係の利用」を市場において独占することを意図するものとならないよう、それ以上の何か「自然法則を利用した」と言える工程が付加されなければならない。実際のクレームに記載されているその他3つの工程は、どれも「自然法則」自体であり、クレームに記載された「自然法則」を何かに変形 (transform) させたとまでは言えない。

  「投与する工程」 (“ad¬ministering” step) というのは、単に、上記の相関関係に関心を持つ者たちのグループ、すなわち、チオプリン薬を使用して自己免疫疾患の患者を治療する医師たちの存在の確認にすぎない。医師たちはこの特許が発行されるよりずっと以前から、同じ目的でこの薬剤を使用してきた。そして、特定の数式の使用を特定の技術が利用される状況に限定する事により、「抽象的な概念に対し特許を付与することはできないという禁制」(Bilski v. Kappos 事件最高裁判決より引用)を回避することはできない。

 問題となったクレームにおける “wherein” 節は、医師に対し、単に当該プロセスに関連する自然法則を教示するか、せいぜい、治療に関する決定を行うに際して試験結果を考慮するよう示唆を与えるにすぎない。決定工程は、医師が採用を望むプロセスによって患者の代謝産物のレベルを測定するよう同医師に促す。そのような決定を行う方法はこの種の技術分野において既知のものでるから、この決定工程は、医師に対し、単に、この主の技術分野における科学者たちにとって、既知で且つ従来ルーチンとして実施されてきた手順にすぎない。本来、そのような手順をもって、特許の適格性を有しない自然法則を、そのような自然法則を応用したものとして、適格性を有するものに変化させたとは言えない(Parker v. Flook,事件最高裁判決より引用)。

 最後に、クレームに記載された3つの工程を一連の工程の組合せとして捉えても、各工程において別々に示された自然法則以上の何かが全体として教示されることにもなっていない。

(b)下記の判例をより詳細に検討することにより、本件の結論はより確定的なものになった。

 (1) Parker v. Flook 事件 及び Diamond v. Diehr事件では、自然法則の如く、それ自体は特許の適格性を有しない数式を利用したプロセスが問題となった。Diamond v. Diehr事件では、問題となったプロセスクレームにおいて、複数の追加工程により、数式がプロセスに一体として組み込まれる態様が評価され、プロセス全体として特許の適格性が認められた。これら追加工程は、クレームに係るプロセスを数式を応用して特許性のあるものにまで変化させたと言える。しかし、Parker v. Flook 事件で問題になったプロセスクレームでは、(数式を含んだ)追加工程によってクレームに特別な応用がなされたとは言えず、問題となった化学プロセスは既知で、クレームはそのような既知の化学工程に数式を追加したという程度のものであり、同数式をクレーム(プロセス)に適用することについて、発明たり得るようなコンセプトは認められなかった。

 本件で問題となったクレームは、Diamond v. Diehr事件で「特許の適格性を有する」と認定されたものよりも適格性が低く、Parker v. Flook 事件で「特許の適格性を有しない」と認定されたものと比べても適格性が高いとは言えない。本件で問題となったクレームに含まれる3つの工程は、当業者にとって、既知で且つ従来ルーチンとして実施されてきた手順にすぎず、自然法則に何ら特別なものを加えるものではない。

(2) 上述の如く既知の工程を単に追加することのみによって特許の適格性を得ることはできないという見解に加え、より高次元の一般論という観点から、自然法則、自然現象、及び抽象的な概念に、特許を付与することはできないという見解が主要な判例によって与えられている(O’Reilly v. Morse事件最高裁判決 (1953)、Neilson v. Harford事件判決(1841:英国)、Bilski v. Kappos 事件最高裁判決、Gottschalk v. Benson 事件最高裁判決)。

(3) 最高裁は、自然法則等の利用と不適切に結び付けることで新たな発見が保護されるのを特許法が抑制していない事に対し、懸念を繰り返し強調してきた (Gottschalk v. Benson 事件最高裁判決 (1972) を参照)。自然法則を発見した者に対する特許という褒賞の付与は、そのような発見の奨励になるかもしれない。しかし、そのような法則や原理は、「科学技術を活用する為の基本的なツール」であるため、そのような法則や原理の利用と結びついた特許を付与するとすれば新たな技術革新が抑制されてしまう危惧が生じる。また同じ理由で、特許を付与されたプロセスが「自然法則を利用する」一般的は手順にすぎない場合、原理の発見が正当に評価される事以上に、新たな発明の創造が阻害されてしまう危惧が生じる。

 本件で問題になっている特許のクレームはそのような懸念を抱かせるものである。代謝産物のレベルを測定するよう医師に指示し、測定結果をその測定結果から求められる相関関係と照らし合わせて考慮させるということは、同医師が、その相関関係を利用した推測に基づき投与を変更するか否かに関わらず、同医師によるその後の処置に関する決定が特許に触れてしまうことを意味する。そしてその事により、Prometheus社の特許クレームに記載された相関関係と将来の新たな発見とを組み合わせて高度な処置へ発展させることに対し、これを妨げる脅威になってしまうだろう。このような懸念も、過去の判例に反する結論へ導く議論を排除し、「問題となったプロセスは特許の適格性を有しない」という本件の結論を支えている。

(c) Prometheus社の主張を支えるその他の議論、すなわち、「問題となったプロセスは“machine or trans¬formation test”に基づき特許の適格性を有すると判断される」、
「問題となった特許のクレームに係る自然法則は、特殊なもので、これがカバーする範囲も狭く、特許として成立すべきものである」、「クレームの範囲が広すぎるという事を101条違反の根拠にすべきではなく、それは他の特許要件として判断されるべきものである」、といった主張も、本裁判所の結論を覆すに足るものではない。

以上

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プロフィール

中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

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