米国の一地方都市で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

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明細書の実施可能要件、サポート要件

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先日、勤務先の事務所の同僚(米国人実務者)から日本の実務に関する相談を受けたのだが、むしろその質問自体、私にとっても、日米の特許実務の勘所の違いを考えるという意味で、とても新鮮な気づきになったので、今回はその話をさせていただきたい。

日本の特許法には、明細書の記載要件として、以下の通り、「実施可能要件」及び「サポート要件」というものがあるのはご存知と思う。

(1)「実施可能要件」
発明の詳細な説明は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」(特許法36条第4項第1号)

(2)「サポート要件」
特許請求の範囲の記載は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」(特許法第36条第6項第1号)

米国特許法にも、これらに似た規定はある。

明細書記載要件(米国特許法112条(a)項(旧法:112条第1段落))
明細書は、完全、明瞭、簡潔且つ正確な用語によって、発明及びその発明を製造、使用する手法及び方法の説明を含み(記述要件)、当業者がその発明を製造し、使用することができるように作成されなければならない(実施可能要件)。

概ね、日本特許法の「サポート要件」が米国特許法の「記述要件」に対応し、日本特許法の「実施可能要件」と米国特許法の「実施可能要件」とが相互に対応している。厳密には、米国特許法112条(b)項(旧法:112条第2段落)に規定される「クレームの明確性要件」も日本特許法の「サポート要件」に関連が深いと思うが、今回の話の本質からズレるので割愛する。

サポート要件(記述要件)にしても、実施可能要件にしても、要は、クレームに記載された発明が明細書本文によってしっかりカバーされているか否かという事が問題になり、その点においては両国で共通するのだが、その考え方の根本的な部分に、日本と米国で結構大きな違いがあるように思う。特に、特定の技術分野においてはその違いがかなり顕著に表れる。

特に化学の分野で、例えば、薬剤としての混合物の発明クレームにアルコール類という要素が含まれている場合、例えば、明細書の実施例において、エタノール及びブタノールしか例示がなかった場合、明細書の実施例として記載されたエタノール及びブタノールは、果たしてクレームの構成要素としてのアルコール類に対し、サポート要件(記述要件)や実施可能要件を満たしていると言えるのか。

一概には言えないが、米国なら多くの場合問題なし(要件は満たされている)、日本なら事案によって異なるかなり微妙な問題であると思う。

例えば日本の場合、大雑把に言えば、クレーム発明の構成要素である「アルコール類」が、「発明が解決しようする課題」に、又は、「課題を解決するための手段」として、どのような役割を担っているが鍵になる。例えば、発明の構成要素である「アルコール類」として、エタノールやブタノール以外の、例えばメタノールを使用した場合、それでも発明が解決しようとする課題を解決することができるのか、という点が問題になる。

という事で、上記のような場合、明細書本文において、発明が解決しようとする課題や手段として、どのような説明がなされているかが非常に重要になる。言い換えると、日本の場合、上位概念のしてのクレーム発明、下位概念としての実施例の関係が確立するか否かは、クレーム発明及びその実施例の何れもが、「発明が解決しようとする課題」を解決できるか否かに依る。ある意味、当たり前の事である。少なくとも、多くの日本の実務家にとっては素直に受け入れられる理屈であると思う。

一方、米国の場合、一般に、化学物質における上位概念、下位概念は、多くの場合、あくまでもその化学物質の分類上の属や種によって決まる。例えば、エタノールやブタノールにとって、その上位の属名(genus)であるアルコール類は、有無を言わさず上位概念であり、これをクレームに記載した場合に、審査官が記述要件や実施可能要件の問題を指摘する可能性は非常に低い。そもそも、米国では、発明を特定する上で、当該発明が解決しようとする課題を考慮に入れるという意識が希薄なのだ。

このように、日本と米国において、明細書の記載要件に関する考え方には本質的な部分においてかなり大きな違いがあり、この事には、両国における発明の捉え方に関する根本的な違いが関わっていると思う。

米国の実務家からすると、特に化学分野において、例えば実施の形態として例示した化合物が、必ずしもクレームに記載された化合物の属全体をカバーしていないという理由で、サポート要件(記述要件)や実施可能要件違反を根拠に拒絶理由通知を受ける事例が意外に多く、合点がいかないのだとか。

この日米間の実務における感覚的な違いについて、それが、発明そのものをどう捉えるかという両国の特許法の土台にも関連する問題であると気づき、とても興味深く感じた次第です。

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プロフィール

中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

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