今回、紹介するのは、
“In re: Ray Smith, Amanda Tears Smith事件” CAFC (連邦巡回区控訴裁判所) の判決で、日本で言う拒絶査定不服審判の審決に対する審決取消訴訟の知財高裁判決に相当する。
ゲーム用のカードを使った賭けゲームの方法に関する米国特許出願No.12/912,410(’410出願)が、発明の適格性(特許法101条要件)違反を根拠に拒絶され、審判を経て、CAFCに訴えを提起するに至った事件だ。CAFCは、米国特許商標庁(USPTO)を判断を指示し、問題となったクレームは特許法101条の要件を満たさず拒絶されるのが妥当と判断された。
判決自体については、裁判所が驚くような見解を出したわけではなく、概ねAlice Corp. v. CLS Bank事件やMayo Collaborative Servs. v. Prometheus Labs., Inc.事件の最高裁判決での判断を踏襲する内容と思える。
問題となったクレーム(claims 1-18)には、本願発明がソフトウエアに関するものではなく、物理的な実体を有するカードの束(デッキ)と、シャッフルの工程を含む事が明記されている。同クレームには、物理的な実体を有するカードを使って行う賭けゲームの手順(ルール)の他、ゲームの開始に先立ちゲームデッキを使ってカードをシャッフルする工程が記載されている。
「クレームに記載された発明は、経済活動(商取引)のような抽象的な概念であり、米国特許法101条の要件(発明の適格性)を満たさない。」というのが本事件における裁判所見解の要旨である。
出願人としては、本事件で問題になったクレーム発明は、「実際のカードを使ってゲームを行う手順である事、それから、同クレーム発明がカードの束(デッキ)のシャッフルという工程を構成要素として含む事から、抽象的な概念とは言えない」といった趣旨の主張をしている。
これに対し、裁判所は、「クレームに記載されたシャッフルやデッキの扱いについては、カードゲームにおいて従来より使われている手法であり、これらの構成要素よってクレーム発明が抽象的な概念から、そのような抽象的な概念が発明の適格性を有するものに変換されたとまでは言えない。」といった趣旨の見解を示している。101条要件の判断については、クレーム発明の実体だけに着目し、形式的な構成要素は排除した上で判断される点をかなり明確にしているように思える。
少々私見が入るが、これまでの他の判例における裁判所見解を勘案すると、本件におけるデッキ(ハードウエア)やその取り扱いが形式的な構成要素では無いと解釈される為には、そのハードウエア自体に新規性や非自明性があるか、上述したクレーム発明の実体部分とそのハードウエアとの連携が何らかの形で特殊な技術的効果を生むことが条件になると考えて差し支えないと思う。技術的効果というのは、例えばコンピュータウイルスの効率的な排除とか、画像装置における画質の向上とか、そう言う類のものである。そのような意味で、本事件における裁判所の見解に、何か特筆すべき内容が含まれているという事はなさそうに思う。
一方、面白いことに(面白いと思うのは私だけかもしれないが)、本事件で問題となった特許出願において、審査段階で特許許可を受けているクレームがある。Claim 20, 21である。
ちなみに、同出願のClaim 20, 21は、本質的には、101条違反が問題になったClaim 1, 2に記載されたゲーム内容をソフトウエアを通じて仮想的に実行する(させる)方法の発明であり、プロセッサー、ビデオディスプレイ、プレーヤー用の入力制御装置が、各工程において所定の機能を担うよう、クレーム構成要素として付加されている。
Claim 20, 21は、’410出願の中間処理の段階で最初のオフィスアクション(拒絶理由通知)後、補正によってNew claimsとして新規に追加されたクレームだが、USPTOの審査官からすんなりと特許許可 (allowed)の認定を受けている。正直、よく101条要件をクリアできたなあ、という印象を受けた。
(次回に続く)
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