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米国カリフォルニア州で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が、日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

閑話 -発明の単一性に関する米国ルールの特殊性ー

一般に、米国におけるクレームの単一性要件に関するルールは、日本の実務者にとってかなり分かり難いものと思う。

日本の特許出願の場合、複数のクレームについて、単一性の要件が満たされていないと審査官が判断した場合、特許法37条違反を根拠とする拒絶理由となる。これに相当するものとして、米国の特許出願の場合、限定要求(Restriction Requirement)というものがある。米国における限定要求には、大きく分けて、(1)狭義の限定要求(Restriction Requirement)、(2)選択要求(Election of Species)の2種類がある事はある程度米国実務の経験のある方ならご存知の事と思う。

前者(1)は、実のところ、日本の単一性要件に非常に近い概念と、個人的には思う。

大雑把且つ実務的に言えば、審査官の心証として、特許性があると考えられる共通の技術的特徴(限定)を含む全てのクレームは、単一性要件を満たすと判断され、その共通の技術的特徴を持たないクレームは、単一性要件を満たすクレーム群から除外される、という考え方だ。

日本の単一性要件(特許法37条)の判断と同様、米国における狭義の限定要求は、原則、クレームの内容のみに基づいて判断される。

一方、後者(2)、すなわち選択要求に相当するルールは日本の特許法には無く、少々分かり難い。

選択要求は、クレーム全体を大きな群として見て、各クレームを「明細書本文や図面に記載された個々の実施例に対応する小グループ」にグループ(種)分けをするという考え方を前提とする。

何の為にこのようなグループ分けをするかと言うと、審査官が、独立クレームについて特許性がないという印象を持った場合、複数の従属クレームについて、優先的に審査を行う小グループを予め出願人に選択させる。もし、審査が進む過程で、複数の小グループの共通概念を含むクレーム(Generic Claim:多くの場合、複数の小グループの頭にある独立クレーム)に特許性ありと判断されれば、その下にある複数の小グループは全て特許査定を受けます。もし、Generic Claimが特許性無しと判断され、選択された小グループ又はその一部のクレームのみが特許査定を受けた場合、その他のクレームは全て切り捨てられ、その結果、出願人が審査を望む場合は分割出願を強いられる。要は、この選択要求と限定要求を併用する事により、一つの出願において、共通する技術的特徴を含む一括りのクレーム群について、必要最小限の実施例とこれに対応するクレームの特許性のみを検討すれば良いように審査の道筋を作り、これにより、できるだけ審査官の無駄な労力を省いて審査の効率化を図る、というしくみになっているわけだ。

以下、米国特許における単一性要件の特殊性について、少し興味深い(...と、個人的には思う)話をさせていただきます。

PCT上の国際出願の米国への国内移行出願(バイパス継続出願を含む)について、単一性の判断基準として、規則上は、「PCT国内移行出願においては、単一性の要求(Restriction Requirement:限定要求)の運用は、国内法ではなく、PCT規則に従い、国際出願に基づく優先権主張出願(バイパス出願等)も同様とする。」という事になっている。

1893.03(d) Unity of Invention (米国特許審査便覧)
Examiners are reminded that unity of invention (not restriction practice pursuant to 37 CFR 1.141 - 1.146) is applicable in international applications (both Chapter I and II) and in national stage applications submitted under 35 U.S.C. 371. Restriction practice in accordance with 37 CFR 1.141-1.146 continues to apply to U.S. national applications filed under 35 U.S.C. 111(a), even if the application filed under 35 U.S.C. 111(a) claims benefit under 35 U.S.C. 120 and 365(c) to an earlier international application designating the United States or to an earlier U.S. national stage application submitted under 35 U.S.C. 371.

PCT国内移行(又はバイパス出願)について、国内法の適用を免れるのは、前者(1)についてのみであり、後者(2)については、PCT国内移行(又はバイパス出願)であっても、米国の国内法が適用される。

PCTの単一性のルールが米国の国内移行出願(又はバイパス継続出願等)にそのまま適用される事の例外として、37CFR(米国施行規則) 1.141 - 1.146は除く、と書いてあるが、このうち、37CFR1.146というのが、選択要求に該当する。

経験上、米国の審査官の場合、PCT国内移行(バイパスも同様)出願については、見かけ上はPCT規則の縛りを受けながらも、選択要求を上手く利用して、単一性に関しては、結局、実質的には国内法に近い条件(審査官にとって審査の効率が良い条件)を出願人に課する傾向が強い気がする。

別に文句があるわけではありません。

ただ。。。米国らしいですね(汗)

なかなか、条約の言うこと聞いてくれません。

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プロフィール

中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

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