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前回に続き、コンピュータプログラムに関するクレーム発明が101条要件を充足するか否かの判断プロセス(Step 1, 2A, 2B)を説明する為にUSPTOの審査基準に示された具体例のうち、適格性の認められない (101条要件を満たさない) 3番目の具体例を紹介する。
原文(引用元)はこちら(17ページ目です)⇒
Abstract Idea Examples (January 2015)本例もまた、特許侵害訴訟において、クレームが101条要件を満たしているか否かが実際に裁判所で争われた事例 (buySAFE, Inc. v. Google, Inc., 765 F.3d 1350 (Fed. Cir. 2014)) で問題となったクレームである。上記事件で問題になったクレームについて、裁判所は、101条要件を満たさないと判断している。
本件で問題となったクレーム発明は、電子商取引(eコマース)環境における信頼性の高い取引の方法に関する。より具体的には、システムとしての取引の信頼性を保証する方法に関する。サービス提供者が第一の顧客から取引の確実性を保証するサービス(保険)の申込みを受け取った場合、当該サービス提供者は当該第一の顧客に対し保証の確約を行う。この保証の確約処理が第一の顧客によるオンライン上での取引に連動することにより、当該第一の顧客がオンライン上で第三者と取引を行う際、当該第一の顧客の信頼性が保証される。つまり、第一の顧客による電子商取引について自動的に保証人が付くことになる仕組みである。
問題となったクレームのうち代表的なもの:
1. A method, comprising:
receiving, by at least one computer application program running on a computer of a safe transaction service provider, a request from a first party for obtaining a transaction performance guaranty service with respect to an online commercial transaction following closing of the online commercial transaction;
processing, by at least one computer application program running on the safe transaction service provider computer, the request by underwriting the first party in order to provide the transaction performance guaranty service to the first party,
wherein the computer of the safe transaction service provider offers, via a computer network, the transaction performance guaranty service that binds a transaction performance guaranty to the online commercial transaction involving the first party to guarantee the performance of the first party following closing of the online commercial transaction.
上記のクレームが101条要件を満たすか否かの判断プロセスは以下の通り。
Step 1:
上記クレームは、その構成要素として、取引の確実性を保証する為の複数の工程又は手順を含んでおり、プロセス(process)としてのカテゴリーに属するための十分条件を満たす。⇒Step 1の判断は“YES”
Step 2A:
それでは、上記クレームは、非法定の(i) 自然法則、(ii) 自然現象、(iii) 抽象概念の何れかを対象とする法的例外 (judicial exception) であるか?
当該クレームは、契約を成立させるための方法に関し、特に、取引の信頼性を保証を確約するという契約の申込みの手順と、その申込みに対し保証を確約するという手順とからなる。これは、ビルスキ事件 (Bilski v. Kappos (Supreme Court 2010)) で問題となった基本的な経済活動の実践に似ており、特定の関係者間における商業的な取引、又はそのような商業的な取引の一部と言うことができる。これは抽象概念に他ならない。従って、当該クレームは、法的例外 (judicial exception) を対象としている。⇒ Step 2Aの判断は“YES”
Step 2B:
では、クレームに「追加の限定事項(additional limitation)」が記載されており、その追加の構成要素が、クレームを、「全体として」、法的例外 (judicial exception) を「有意に越えるもの」(“significantly more”)に変えていると言えるか?
問題となったクレームには、そのような追加の限定事項は記載されていない。上記の手順を(一般的な)コンピュータ及びコンピュータネットワークを通じて実行する手順が記載されているにすぎない。⇒ Step 2Bの判断は“NO”
従って、同クレームに、法の保護対象としての発明の適格性の認められない。
私見:
通常のコンピュータやコンピュータネットワークを通じて行う事を前提として、ビジネス上の取引の手順やルールを記載しただけのクレーム構成では、101条の要件を満たすことは難しいという事であろう。この点については、ビルスキ事件最高裁判決 (2010年) で示された考え方の通りだ。クレームに記載されたビジネス上の取引の手順やルールがどれだけ特殊なものであっても結論は同じだろう。またこれに、通常のコンピュータの構成要素や通常のコンピュータネットワークの構成要素を付加しても、現行の裁判所の判断やUSPTOの審査基準の下では、101条の要件を満たす事にはならないと考えるしかなさそうだ。
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