新事務所“Nakanishi IP Associates, LLC”開設のお知らせ(完全日本語対応によるきめ細やかなサービスで米国における強い特許の取得をお手伝い致します。)前回まで、クレームに記載された発明の本質的な部分がコンピュータプログラムに関するものである場合、これが101条要件を充足するか否かの判断プロセス(Step 1, 2A, 2B)を説明する為にUSPTOの審査基準に示された具体例のうち、適格性が認められる具体例を紹介してきた。
今回は、適格性の認められない (101条要件を満たさない) 具体例を紹介する。
原文(引用元)はこちら(13ページ目です)⇒
Abstract Idea Examples (January 2015)本例は、特許侵害訴訟において、クレームが101条要件を満たしているか否かが実際に裁判所で争われた事例 (Digitech Image Tech., LLC v. Electronics for Imaging, Inc., 758 F.3d 1344 (Fed. Cir. 2014)) で問題となったクレームである。上記事件で問題になったクレームについて、裁判所は、101条要件を満たさないと判断している。
例えば、デジタルカメラやカムレコーダのように画像データを生成する第1のデバイス(ソースデバイス)から、モニタやプリンタのように画像データを元に画像を再生(出力)する第2のデバイス(送り先デバイス)に画像データを送り、送り先デバイスによって画像を出力すると、両デバイスの機能や特性の違いから、第1のデバイスで出力される画像とは異なる画質(色彩や空間特性)の画像が第2のデバイスで出力されてしまうことがある。本発明は、このような課題を解決するためのもので、2つのデバイスの特性(各々のデバイスが出力する画像の特性)に関するデータを生成する工程と、それら2つのデータを組み合わせる工程とからなる(下記の図面を参照)。

問題となったクレームのうち代表的なもの:
10. A method of generating a device profile that describes properties of a device in a digital image reproduction system for capturing, transforming or rendering an image, said method comprising:
generating first data for describing a device dependent transformation of color information content of the image to a device independent color space through use of measured chromatic stimuli and device response characteristic functions;
generating second data for describing a device dependent transformation of spatial information content of the image in said device independent color space through use of spatial stimuli and device response characteristic functions; and
combing said first and second data into the device profile.
(日本語訳)
10. 画像の取得、変換、及び表示を行うデジタル画像再生システムに含まれるデバイスの特性を示すデバイスプロフィールを生成する方法において、
測定された色刺激とデバイス応答特性関数とを用いて、デバイスインディペンデントカラー(デバイスに依存しない色)空間に対する、前記画像の色彩情報コンテンツのデバイス依存の変質を、表現する第1のデータを生成する工程と、
空間刺激とデバイス応答特性関数とを用いて、前記デバイスインディペンデントカラー(デバイスに依存しない色)空間における前記画像の空間情報コンテンツのデバイス依存の変質を、表現する第2のデータを生成する工程と、
前記第1のデータと前記第2のデータとを組み合わせたデバイスプロフィールを生成する工程と、
を有する方法。
上記のクレームが101条要件を満たすか否かの判断プロセスは以下の通り。
Step 1:
上記システムのクレームは、その構成要素として、データの生成(工程)を含んでおり、プロセス(process)としてのカテゴリーに属するための十分条件を満たす。⇒Step 1の判断は“YES”
Step 2A:
それでは、上記クレームは、非法定の(i) 自然法則、(ii) 自然現象、(iii) 抽象概念の何れかを対象とする法的例外 (judicial exception) であるか?
当該クレームは、数学的な技術を用いて第1のデータと第2のデータとを生成し、これらをデバイスプロフィールとして組み合わせる方法を記載したにすぎない。従って、当該クレームは、法的例外 (judicial exception) を対象としている。⇒ Step 2Aの判断は“YES”
Step 2B
では、クレームに「追加の限定事項(additional limitation)」が記載されており、その追加の構成要素が、クレームを、「全体として」、法的例外 (judicial exception) を「有意に越えるもの」(“significantly more”)に変えていると言えるか?
問題となったクレームには、そのような追加の限定事項は記載されていない。⇒ Step 2Bの判断は“NO”
従って、同クレームに、法の保護対象としての発明の適格性は認められない。
私見:
問題となったクレーム(方法クレーム)は、暗に、画像処理用のプロセッサを含む2つのデバイスの存在と、2つのデバイスによる処理の特性或いはその処理によって(生成)される画像の特性に関するデータを組み合わせる方法を実行するプロセッサの存在を前提としている。つまり、2つのデバイスと、それらデバイスによる画像処理の特性を反映するデータを処理するプロセッサとの関連をクレームしているように見えなくもない。そうすると、一見、特許発明として適格性(101条要件)を満たすようにも思える。しかし、結局のところ、クレームに含まれる工程は、単に、2種類のデバイスによって生成される画像特性に関するデータを数学的な手法を使って加工するという以上のものを含んでいない。結果として、「2種類のデータを数学的に処理するだけ」、という解釈になるようだ。別の言い方をすれば、結局、通常のPCにインストールして実行できる(発明者の意図する機能を発揮できる)コンピュータプログラムでしかない、という解釈になるのかもしれない。
ちなみに、本事例で取り上げられたクレームが問題となった実際の判例 (Digitech Image Tech., LLC v. Electronics for Imaging, Inc., 758 F.3d 1344 (Fed. Cir. 2014))において、問題となった特許には、上記のような方法のクレームの他、複数のシステムクレーム(装置クレーム)が含まれており、それら装置クレームは無効になっていない。上記方法クレームとの大きな違いとして、システムクレームには、ごく形式的にだが、上記方法クレームに記載されているような工程によって生成された「デバイスの特性(デバイスプロフィール)を使用して画像のキャプチャ、加工、又は表示を行う」(“using a device profile for describing properties of a device in the system to the system to capture, transform or render an image”)システムである旨が、クレームに記載されていた。見方を変えると、もし、「デバイスの特性(デバイスプロフィール)を使用して画像のキャプチャ、加工、又は表示を行う」工程が含まれていたら、上記の方法クレームも101条要件を満たす事になるのかもしれない。個人的にはその可能性が高いと思う。
(次回に続く)
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