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米国カリフォルニア州で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が、日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

米国特許法101条 (発明としての適格性) に関するUSPTOの判断基準 (適格性を有する具体例1)

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昨年 (2014年) 6月のAlice Corp. v. CLS Bank 事件の最高裁判決以降、101条 (発明としての適格性) の判断基準について、USPTOの審査基準にかなりの修正が加わった事は周知の通りである。一応の方向性が定まったようなので、特にコンピュータプログラムを含むクレームの取り扱いに関する現行の審査基準 (2015年3月現在) について解説する。前回の解説と重複する部分もあるがその点についてはご容赦を。

先ず、審査対象のクレームが101条要件を充足するか否かの判断プロセスは、2つの主要なステップ(2015年3月現在)に従って判断する。このうち、Step2は、さらに2つのステップ(Step 2A, 2B)に分かれるので、判断プロセスは、実質的には3つのステップに分かれると言える。

USPTOが公表している判断プロセスのフローチャートはこちら(3ページ目です)

Step 1
先ず、最初のStep 1では、クレームに記載された発明が101条に規定された4つのカテゴリー(Process(方法・工程), Machine(装置), Manufacture(製造物・製造品), Composition(組成物))のうち何れかに該当するか否かを判断する。このStep 1での判断が“NO”であれば、有無を言わさず101条違反が確定する。ちなみに、コンピュータプログラム自体は、4つのカテゴリーの何れにも該当しないので、このStep 1で101違反と判断される(MPEP2106(I))。しかし、例えば当該プログラムを含む非一時的な記録媒体(non-transitory recording medium)とか、当該プログラムの各工程を実行する方法等のように、形式的に記載を変えるだけで、このStep 1をクリアすることはできる。

問題はこの先、つまりStep 2A, 2Bである。

Step 2A
Step 2Aでは、クレームに記載された発明が101条に規定された4つのカテゴリー (Process (方法・工程), Machine (装置), Manufacture (製造物・製造品), Composition (組成物)) のうち何れかに該当するという前提で、非法定の(i) 自然法則、(ii) 自然現象、(iii) 抽象概念の何れかを対象とするもの(judicial exception)であるか否かを判断する。何れにも該当しなければ特許の適格性有りと判断する。その一方、何れかに該当すれば、Step 2Bに進む。
Step 2B
Step 2Bでは、クレームに記載された発明が非法定の (i) 自然法則、(ii) 自然現象、(iii) 抽象概念の何れかを対象とするものであっても、クレームの構成要素又は構成要素の組合せが、クレームを、全体として、非法定のもの(例えば抽象概念)を「明確に越えるもの」(“significantly more”)に変えているか否か、を判断する。この問いに対する答えが“YES”であれば、対象クレームは101条の要件を満たすと判断される。一方、“NO”であれば、対象クレームは101条の要件を満たさないと判断される。

ここで、クレームに記載された発明の本質的な部分がコンピュータプログラムに関するものである場合、Step 2Aにおいてクレームが抽象概念と認定されるか否か、また、もしそうなった場合、Step 2Bにおいて、クレームが全体として、非法定のもの(抽象概念)を「明確に越えるもの」(“significantly more”)であるか否かが問題になる。かなりグレーな部分の判断になると思うが、USPTOでは、その判断基準についていくつかの具体例を挙げて説明している。

原文(引用元)はこちら⇒Abstract Idea Examples (January 2015)

適格性を有する具体例1:
1. A computer-implemented method for protecting a computer from an electronic communication containing malicious code, comprising executing on a processor the steps of:
receiving an electronic communication containing malicious code in a computer with a memory having a boot sector, a quarantine sector and a non-quarantine sector;
storing the communication in the quarantine sector of the memory of the computer,
wherein the quarantine sector is isolated from the boot and the non-quarantine sector in the computer memory, where code in the quarantine sector is prevented
from performing write actions on other memory sectors;
extracting, via file parsing, the malicious code from the electronic communication to create a sanitized electronic communication, wherein the extracting comprises scanning the communication for an identified beginning malicious code marker,
flagging each scanned byte between the beginning marker and a successive end
malicious code marker,
continuing scanning until no further beginning malicious code marker is found,
and
creating a new data file by sequentially copying all non-flagged data bytes into a new file that forms a sanitized communication file;
transferring the sanitized electronic communication to the no
n-quarantine sector of the memory; and
deleting all data remaining in the quarantine sector.

上記のクレームは、USPTOが用意した仮想のクレームであり、一言で言えば、通信情報(データ)から悪質なコード(例えばコンピュータウイルス)を隔離し、取り除く為のコンピュータプログラムの実行プロセスに関するものである。USPTOは、発明(クレーム)のポイントは概ね下記のようなプロセスであると説明している。

(1) 悪意のあるコードに特有の始端マーカを検出するよう通信情報を走査し、
(2) 始端マーカ及び終端マーカの間にある各バイトにフラグを立て、
(3) 未検出の始端マーカが無くなるまで走査を続け、
(4) フラグの立っていない全てのデータバイトを新しいデータファイルに順次コピーして、浄化された通信ファイルを形成し、新しいデータファイルを作成する。

その前提で、USPTOの説明によれば、上述の3つのステップ(Step 1, 2A, 2B)に沿った判断基準に従い、上記のクレームは、発明としての適格性を有すると認定される。具体的には以下の通り。

Step 1:
具体的には、先ず、クレームは、悪意のあるコードを含む通信情報からコンピュータを保護する為の一連の動作を含む方法であり、プロセスのクレームのカテゴリーに属すると言える。⇒ Step 1の判断は“YES”

Step 2A:
それでは、上記クレームは、非法定の(i) 自然法則、(ii) 自然現象、(iii) 抽象概念の何れかを対象とするもの(judicial exception)であるか?

当該クレームは、通信情報に含まれる悪意のあるコードを隔離し、取り除く為のソフトウエア技術に関する。同クレームは、メモリセクタ上の通信情報を物理的に隔離し、その通信情報から悪意のあるコードを取り除き、新しいデータファイル上に浄化された通信情報を作成する。このような動作は、抽象的な概念(an abstract idea)、或いはそれに似た概念として裁判所が非法定であると判断したもの(a fundamental economic practice, a method of organizing human activity, an idea itself, or a mathematical relationship)に該当しない。

⇒ Step 2Aの判断は“NO”

以上より、上記のクレームは発明としての適格性を有する(米国特許法101条の要件を満たす)。

私見:
本例のポイントは、コンピュータプログラムによって、物理的にデータ上の配列を書き換えたり、取り除いたり、そのような作業により新たなデータ配列を作成する工程を含む方法(又は、そのようなプログラムを記憶したシステムや記録媒体)は、米国法上の発明として適格性を有する(101条の要件を満たす)。

(次回に続く)

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プロフィール

中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

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