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米国カリフォルニア州で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が、日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

Alice v. CLS Bank事件 (2014年最高裁判決) を踏まえたUSPTOの予備審査指針(5)

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Alice v. CLS Bank事件 (2014年最高裁判決)の要旨(syllabus)を和訳してみました。いつもの如く、判決の趣旨を分かり易くするため(というのは言い訳で、翻訳技術が未熟な為(^^;)、かなり多くの部分が意訳で、一言一句正確に訳したものではありませんが、そこはどうかご容赦を。


[Syllabus]

上訴人であるAlice 社は、「『決済リスク』、詳しくは、取引者双方による合意済みの金融取引について、一方の取引者のみが債務を履行するリスクを低減するためのスキーム」に関する複数の特許の権利者である。これら特許のクレームは、特に、第三者仲介媒体としてのコンピューターシステムを用いることにより、当事者である二者間における金融債務の交換(取引)を容易にするようなスキームが記載されている。

問題となったクレームは以下のようなものである。

(1) 金融債務を交換する方法。
(2) 金融債務の交換方法を実行するためのシステム。
(3) 金融債務の交換方法を実行するためのプログラムコードを含む、コンピュータによって読み取りが可能な記録媒体。

事件の被告であるCLS Bank 社は、通貨取引を容易にするためのグローバルネットワークを運用している会社であり、本件の上訴人に対し、本件で問題となっている特許のクレームが無効であるか、権利行使不能であるか、又は、同社の実施は当該特許に対し非侵害である、と主張する訴えを提起した。これに対する反訴として、上訴人は、特許侵害訴訟を提起した。Bilski v. Kappos 事件の最高裁判決後に、地方裁判所は、本件で問題となって全てのクレームについて、特許法 101 条違反を根拠とする無効の判断を下し、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)の大法廷 (en banc) も地裁の判断を支持した。

判決:問題となったクレームは、特許の適格性を有しない「抽象的な概念」であり、特許法 101 に規定される特許の対象ではない。

(a) 本裁判所(最高裁判所)は、特許の保護対象となり得る主題 (subject matter) を定義する規定としての特許法 101 条が、黙示的に「自然法則、自然現象、及び、抽象的な概念」を例外とみなしている、と解釈してきた (As¬sociation for Molecular Pathology v. Myriad Genetics, Inc.事件、Mayo Collaborative Ser¬vices v. Prometheus Laboratories, Inc.事件)。

(b) 本件で問題となったクレームが特許の適格性を有するか否かについても、先ずは、このフレームワークに従って判断しなければならない。その前提で、本裁判所は、対象となるクレームの構成要素を「個別」に、また、「一連の組合せ」として見たときに、「クレームの特徴」が特許の適格性を有するように応用したものへ変換されている否かを問うた。

(1) 問題となったクレームは、「仲介媒体の介在によって行われる決済に関する『抽象的な概念』」であり、特許の適格性を有しない概念にあたる。「概念自体は特許の対象ではない」という長年に亘り採用されてきた判断基準 (Gottschalk v. Ben-son事件最最高裁判決より引用) の下、本裁判所は過去に、二進コード化された十進数を変換するアルゴリズムを含むクレーム (Gottschalk v. Ben¬son事件) 、触媒反応プロセス中におけるアラームの発動基準を計算する為の数式 (Parker v. Flook)、そして、価格変動による金融取引のリスクを回避 (ヘッジ) する為の方法 (Bilski事件) は、特許の適格性を有しないという判断を下した。これらの判例、特にBilski事件の判決に従えば「抽象的な概念」に関するものである。本件で問題となったクレームは、見たところ、仲介媒体を通じた取引、つまり、「取引のリスクを低減する為の第三者機関の利用」という概念に通じる。Bilski 事件で問題になったリスク回避方法のように、「取引における仲介媒体の利用」は「商取引の仕組みの一部として古くから知られた基本的な経済活動の実践」であり、第三者仲介機関 (または「手形交換所 (clearing house)」) の利用は、近代経済の基本要素である。従って、仲介媒体を通じた取引は、リスク回避 (ヘッジ) と同様、特許法101条に規定される法の保護範囲から外れた「抽象的な概念」である。

(2) Mayo事件における裁判所のフレームワークの第2段階に目を向けると、単に、一般的なコンピューターによる処理の実行を要求するだけの方法クレームでは、抽象的な概念を特許の適格性を有するものに変換したとは言えない。

(i) 「発明の技術分野において公知」の方法に「ごく一般的なレベルの利用を前提とした既知の処理工程を単に追加」しただけでは、特許の適格性を有するものへの「変換」(transform)と呼ぶに足るような「独創性を含んだ概念」 (inventive concept) を加えたことにならない (Mayo 事件 最高裁判決)。コンピューター をクレームに追加しても結論は同じである。抽象的な概念に「『適用する』(apply it)という文言を追加」しても(Mayo 事件 最高裁判決)、抽象的な概念を「特定の技術分野において利用する」ようにしても(Bilski最高裁判決)、特許の適格性を獲得するに十分とは言えない。抽象的な概念に「コンピューターを使って適用する (apply it)」という文言を追加することは、抽象的な概念の適用及びコンピューターの使用という2つの手順を組み合わせたにすぎず、不完全な結果を得ることに何か変化をもたらす事にならない。全く一般的なコンピューターの処理工程は、概して、抽象的な概念自体の独占を図ることを目的とする以外、実益を与えるような「さらなる特徴」には該当しない (Mayo 事件 最高裁判決)。

(ii) ここで、本件で問題となった特許の代表的な方法クレームは、単に、発明の実施者に対し、一般的なコンピューターを使って仲介媒体を通じた取引の抽象的な概念を実践するよう教示を与えるにすぎない。同クレームの構成要素を個々に見た場合、各工程においてコンピューターによって実行される機能、すなわち、「シャドー」 (shadow) 口座を生成し、データを取得し、口座の残高を調整し、自動的に指示を発行する、という機能は、どれも従来実施されていたものである。「一連の工程の組合せ」と考えられるこれらコンピューターのプログラム要素は、これらの工程を個別に検討した場合、真新しいものは何もない。クレームを全体として評価しても、これらの方法は、単に、仲介媒体を通じた取引の概念を、一般的なコンピューターによって実行されるものとして、記載しているにすぎない。それらは、例えば、コンピューター自体の機能を改善したり、他の技術又は技術分野の改善や進歩を図るような効果を狙ったものではない。本件で問題になったクレームは、何ら特別なものではない一般的なコンピューターを用いて仲介媒体を通じた取引に関する抽象的な概念を利用するよう教示しているにすぎず、これらは、抽象的な概念を特許の適格性を有するものに変換したと言うには十分でない。

(3) 上訴人のシステム及び媒体のクレームは、同クレームに内在する抽象的な概念になんら本質的なものを加えるものではなく、これらもまた、特許法101条に照らし、特許の適格性を有しない。上訴人は、本件で問題になった特許の媒体クレームが、方法クレームと一体の関係にあるか、または、その範囲内にあることを認めている。また、システムクレームと方法クレームとの間に本質的な違いはない。方法クレームは一般的なコンピューターによって実行される抽象的な概念を記載したものであり、システムクレームは同じ概念を実行するように構成された一般的なコンピューターの構成要素の集合を記載したものである。本裁判所は、長い間、特許法101条を、単に文章構成術に拠って特許の適格性が決まってしまうように解釈する事があってはならないと、警告してきた (Mayo事件最高裁判例より引用)。本件においてシステムクレームについて特許の適格性を認めるとすれば、まさにそのような結果を招くことになる。

以上

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プロフィール

中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

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