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米国カリフォルニア州で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が、日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

デザイン特許と限定要求 ちょっと怖いこと (その2)

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前回の続きで、「Pacific Coast Marine Windshields Ltd. v. Malibu Boats, LLC」事件の説明です。少し長くなりますが、米国における意匠及び特許出願について、事件の詳細と共に、本件から読み取れる出願実務の教訓を、私見として述べさせていただきます。

[事件の経緯]

ボートのフロントガラスに関する米国デザイン特許D555,070 (’070特許) の保有者であるPacific Coast Marine Windshields Limited (P社)は、当該’070特許の侵害を理由に、Maribu Boats, LLCその他 (M社)に対する訴えを提起した。

本件の争点に関連する重要な事実として、’070特許は複数の実施例を含んでいた(米国のデザイン特許(意匠)出願又は登録では、複数の類似した意匠を、複数の実施例として、一出願又は登録に含めることができる。)。出願当初の図面には、フロントガラスのフレーム部分に「4つの穴を含むデザイン」、「2つの穴を含むデザイン」、「穴を含まないデザイン」について、計5つの実施例(図面)を含んでいた。審査官は、「これら図面に表わされた実施例は、5つの異なるデザイン(five “patentably distinct groups of designs)であるから何れか1つの意匠を選択せよ」との限定要求を発行した。この限定要求に対し、出願人(権利譲受人のP社)は、「4つ穴のデザイン」のみを選択し、意匠権(’070特許)を取得した。さらにP社は、「穴を含まないデザイン」についてのみ分割出願を行ない、デザイン特許D560,782(’782特許)を取得した。なお、被告(M社)の実施品は、「3つ穴を含むデザイン」を採用していた。

フロリダ州中部地区連邦地裁(一審)は、原告(意匠権者)による意匠権侵害の主張は放棄された (surrendered) 効力範囲についての権利行使にあたり、出願経過禁反言の法理(prosecution history estoppel)に反するという理由で、非侵害の判断を下した。連邦控訴裁判所(二審:CAFC)は、2つ穴の意匠に関する意匠権は確かに放棄されたと認められるが、原告(意匠権者)の主張が出願経過禁反言(prosecution history estoppel)に反するとは認められないとして、審理を一審へ差戻した。

[連邦控訴裁判所(二審:CAFC)の見解]
CAFCは、「原告(意匠権者)による意匠権侵害の主張は放棄された (surrendered) 効力範囲についての権利行使にあたり、出願経過禁反言の法理(prosecution history estoppel)に反する」という一審の判断が妥当と言える為には、以下の3つが要件になる、という見解を示した。

(1)出願人による放棄 (surrender) という行為(又は意思?)が存在したこと
(2)その放棄という行為(意思)が特許性に関連すること(特許性を担保する為のものであったこと)
(3)権利行使の対象(侵害品)が当該放棄 (surrender) の対象であること

CAFCは、「本件の場合、上記要件のうち(1)及び(2)は満たされているが、(3)は満たされていない。従って、自社の意匠権、すなわち’070特許をM社が侵害しているというP社の主張が出願経過禁反言の法理 (prosecution history estoppel) に反する、とは言えない。」と判じた。

CAFCが要件(3)不成立と判断した根拠は、以下の通りである。

そもそもP社は、M社の実施品 (3つ穴のデザイン) が、「4つ穴のデザイン」に関する意匠権(’070特許)の効力範囲にあると主張したわけで、放棄 (surrender) の対象である「2つ穴のデザイン」の類似範囲にある主張しているわけではない。従って、「権利行使の対象(侵害品)が当該放棄 (surrender) の対象である」という要件(3)は成立しない。

[コメント]

先ず、P社が差戻審でこのまま裁判を続行する場合、M社の実施品である「3つ穴のデザイン」が、登録意匠である「4つ穴のデザイン」には類似しているが、放棄 (surrender) の対象である「2つ穴のデザイン」には類似していないという主張を通す必要があると思われる。裁判所から侵害の認定を得るのは非常に難しいと思う。

前回説明したように、「親出願の際に除外された実施形態に対応する権利範囲は、分割出願により別途権利化を図る機会があったにも関わらず、そのような分割出願を行なわず、デザイン特許の権利者が(積極的に?)権利取得を放棄したものであるから、当該デザイン特許の効力は及ばない」というのは仕方のない事かもしれない。

とはいえ、本件におけるCAFCの見解について、一つ興味深い点として、意匠権者であるP社は、親出願において選択した「4つ穴のデザイン」に関する意匠権の他、分割出願によって「穴を含まないデザイン」について意匠権を取得しているので、両デザインの中間に位置付けられるデザインについても広く保護を受けられると考えたふしがある。

しかし結果として、親出願に含まれていながら、審査官からの限定要求に対し非選択とし、更に分割出願による権利化を図ることもしなかった「2つ穴のデザイン」については、ある意味、出願者自ら(恐らくはその類似範囲を含めて)権利化を諦めたものと裁判所 (CAFC) から判断されてしまった。

もう一つ興味深い点として、CAFCは、本件を特許(意匠ではない通常の発明)のケースと対比する中で、特許権及び意匠権について基本的には同様の考え方が適用される旨の見解を示している。

特に、均等論の適用範囲に関する有名な判例 (特許侵害事件) であるFesto事件 (Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiki Co. (Supreme Court 2002)) を引用し、特許の保護を得る為 (in order to secure the patent) にした行為 (手続) により、放棄された (surrendered) ことになると判じている。

実際のところ、上記Festo事件では、出願段階における中間処理等で引例として挙げられた「先行技術に対するクレーム発明の特許性(新規性・進歩性)を主張するために」補正で付加されたクレームの限定要素については、その限定が厳格にクレーム解釈を縛り、均等論の適用を受ける事ができない判断されている。ことFesto事件においては、「先行技術に対するクレーム発明の特許性(新規性・進歩性)を主張するために」というのが“ in order to secure the patent”を意味する。

本件においてCAFCは、先ず、意匠権の効力範囲についても、特許権の効力範囲とほぼ同様の考え方が適用され、「放棄」(surrender)が存在すれば、「放棄された」(surrendered) デザインについては、その意匠権について効力範囲が制限されることが明確にされた。

またCAFCは、特許の保護を得る為 (in order to secure the patent) の行為 (手続き) には、限定要求に対する選択 (権利対処の一部を選択し、その他を非選択として切り捨てる行為又は手続き) も含まれるという見解を示した。

そうすると、例えば以下のような場合はどのように考えれば良いのだろう。

デザイン特許ではなく(通常の?)特許出願において、装置や物のクレームと方法のクレームとが含まれていて、何れか一方のカテゴリー(クレーム群)を選択するよう審査官から限定要求を受け、何れか一方を選択したとする。そして、非選択としたクレーム群については、分割出願を行なうこともなく親出願について特許が発行され、権利拡張を目的とする再発行出願の機会も過ぎてしまったとする。

非選択のクレーム群が、選択されたクレーム群の特許の権利行使に影響を与えることはあり得るだろうか。

その解答を出すのは、簡単ではないように思う。特許出願の場合、限定要求には多くのバリエーションがあり、選択されるクレーム群と非選択のクレーム群との間で、種々の関係が考えられるからだ。

気にしだすときりがないとも思うのだが、限定要求における選択、非選択としたクレーム群のその後の取扱い(分割出願の要否)についての判断次第で、権利行使の際、思わぬ形で足をすくわれる可能性があるのかも。。。しれない。

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プロフィール

中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

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