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米国カリフォルニア州で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が、日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

MPEP改定(第9版) ミーンズプラスファンクションクレームの認定基準への影響 (2)

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前回のMPEP改定の話、詳しくはMPEP2181におけるミーンズプラスファンクションクレームの認定条件に関する話の続きです。以下、あくまでも私の個人的な見解、というか考察であり、規定に対する解釈が間違っている可能性もあるの予めご了承ください。或は、ケースバイケースであり、事例ごとに裁判所で判断されるような微妙な問題かもしれません。

前回説明したように、MPEPには、審査官が対象となるクレーム要素をミーンズプラスファンクションと認定するための3つの認定条件(必要十分条件)が規定されている。

今回着目するのは、その一つ、「“means for”、“step for”、又は一般的な代用語が特定の機能を達成するために十分な構造、材料、又は動作を伴っていないこと」(MPEP改定後)、という条件である。

ちなみに、改定前においては、「“means for”、“step for”、又は 非構造用語のフレーズが特定の機能を達成するために十分な構造、材料、又は動作を伴っていないこと」と規定されており、改定前後で実質的に大きな変更はない。

ここでは、対象となるクレーム要素、すなわち(1)“means for”、(2)“step for”、又は(3)一般的な代用語(非構造用語)が、(i) 十分な構造(structure)、(ii)材料(material)、又は(iii)動作(act)を伴っていない場合、(他の要件を満たすことを条件として)審査官は、対象となるクレーム要素をミーンズプラスファンクション又はステッププラスファンクションと認定する、と言っているわけだ。

言い換えれば、(1)“means for”、(2)“step for”、又は(3)一般的な代用語(非構造用語)が、(i) 十分な構造(structure)、(ii)材料(material)、又は(iii)動作(act)を伴っている場合、審査官は、対象となるクレーム要素をミーンズプラスファンクション又はステッププラスファンクションと認定できない、と言うことになる。

ここで、 (3) 一般的な代用語(非構造用語)というのが、(1)“means for”及び(2)“step for”の双方の代用語を指しているのは明らかである。

従って、上記の文節において、(1)“means for”、(2)“step for”、及び(3)一般的な代用語(非構造用語)という3つの主語は、(i) 十分な構造(structure)、(ii)材料(material)、及び(iii)動作(act)という3つの目的語に対し、各々が一対一で対応しているのではなく、三対三で対応していると解釈して良いのではないかと思う。文脈上そう解釈せざるを得ない。

そうすると、特に、(1)“means for”又は(3)その代用語(例えばa unit for)が、(iii)動作(act)を伴っている場合、審査官は、対象となる用語をミーンズプラスファンクションと認定することはできない、という理屈になる。

例えば、以下のような例が考えられる。

クレームの構成要素として、金属を加熱するための手段(means for heating metal)、又は金属を加熱するためのユニット(a unit for heating metal)という表現では、上記ミーンズプラスファンクションと認定される条件を満たすことになるだろう。

しかし、下記のような限定をつければどうだろう。

「金属を加熱するために赤外線を発生する手段(means that generates infrared light, for heating metal)又は金属を加熱するために赤外線を発生するユニット(a unit that generates infrared light, for heating metal)」

つまり、「当該手段(又はユニット)は、金属を加熱するという機能(function)を達成する為に、赤外線を発生するという動作(act)を行う」という趣旨である。

もっとも、”means for”という表現は、それを使うだけで対象となるクレーム要素がミーンズプラスファンクションであるという強力な推定を働かせるので、この表現は避け、金属を加熱するために赤外線を発生するユニット(a unit that generates infrared light, for heating metal)という表現を用いるのが適切であるとは思うが。

何はともあれ、少なくとも、金属を加熱するために赤外線を発生するユニット(a unit that generates infrared light, for heating metal)のような表現に対し、審査官がこれをミーンズプラスファンクションと認定する根拠は見当たらないように思う。もちろん、裁判所はまた違った見解を示すのかもしれないが。

実際、例えば112条(f)項(pre-AIA 112条第6段落)の規定からも明らかなように、米国特許法上、機能(function)と動作(act)は明確に区別されており、特に方法クレームにおいては、特定の機能を達成するための動作(作用や工程と言ってもよいと思う)を示すことにより、ステッププラスファンクションの認定を免れると明確に判じたケースも少なくない(例えば O.I. Corp. v. Tekmar Co.(CAFC (1997))。

クレームドラフティングにおいてミーンズプラスファンクションの認定を免れる方策としては、構造的な特徴を明記するという方策に目が向きがちだが、上記のように、一つのクレーム要素について、機能と動作の二段階構成を採用するというやり方も、一考に値するかもしれない。

但し、少なくとも米国のプラクティスにおいて、装置クレームは構成要素の構造的な特徴によって先行技術との差異を明確するのが王道であり、その機能に特徴を有する発明については方法クレームで権利化を図るのが米国法の意図である。。。ような気がする(それが特許法の正しいあり方と個人的には思わないが)。この事は、私見としてこれまでも何度か述べた通りである。

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プロフィール

中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

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