新事務所“Nakanishi IP Associates, LLC”開設のお知らせ(完全日本語対応によるきめ細やかなサービスで米国における強い特許の取得をお手伝い致します。)米国特許出願のクレームドラフティングにおいて、クレームの構成要素を明確にすることが非常に重要である点については、これまでも繰り返し説明してきた。その前提に立って、wherein 節は、非常に便利で使い勝手の良い表記法であるとは思う。
例えば、
An controling apparatus comprising:
a device (A);
a device (B),; and
a device (C),
wherein the device (A) is ….
と言った具合に、一旦、クレーム発明の装置が、device (A)、device (B)、device (C)という3つの構成要素を備えることを明確にした上で、特定の構成要素(例えばdevice (A))の特徴を、wherein節を使って説明することができる。このようなクレーム構成は、われわれのように英語がネーティブでない人間にとってもわかり易く、また、英語がネイティブの人間が読んでも理解しやすい構文になる(と思う)ので、クレームの解釈に疑義が生じ難い。
また、ケースバイケースではあるが、例えば、device (A) to detect ….やdevice (A) for detecting …のように、不定詞や動名詞を用いて構成要素 (A)の特徴を説明しようとすると、後続する構成要素(A)の特徴を単なる機能(予定される機能)と解釈され、同構成要素 (A)をミーンズプラスファンクションと解釈され不利な取り扱いを受ける可能性が高いのに対し、wherein the device (A) detects …という表現により、後続する構成要素(A)の特徴が単なる機能(予定)ではなく、実際の動作であるという主張がし易くなる。今回、詳しい説明は割愛するが、米国特許のクレーム解釈において、構成要素の特徴が、予定される機能(function)と解釈されるか、実際の動作(act)と解釈されるか、その違いは意外に重要なのだ。さらに、wherein 節には時制を明確にできるというメリットもある。
しかし、その一方、例えば、
An controling apparatus, wherein a device (A) receives a instructions from a device (B) and actuates a device (C).
のような使い方をしてしまうと、米国の実務家が見た場合、非常に違和感のあるクレーム構成になってしまう。
なぜかというと、上記のようなクレーム構成では、(A)、(B)、(C)という3つの装置について、それらがクレーム発明の構成要素であるか否かを明確にすることなく、いきなり、装置(A)、(B)、(C)の配置や機能の説明をしているので、米国実務において、最も重要なクレームの構成がはっきりしないのだ。言い換えれば、唐突に装置(A)、(B)、(C)の配置や機能の説明をされても、装置(A)、(B)、(C)が果たして発明の構成要素なのか否か、さっぱりわかないという事になる。
実際、日本の特許出願においては、「装置(A)が装置(B)から指令を受けて装置(C)を駆動する制御装置」のようなクレームの構成をしばしば見かけるので、これを素直に英訳しようとした場合、wherein節という便利な表記法を用いて上記のような原文に非常に忠実な英文をクレームを作成することができてしまう。しかし、結果として、米国実務に照らせば最悪のクレーム構成になってしまうのだ。また、ここでの詳細な議論は割愛するが、このようなクレームの書き出しは、前置句(preamble)の解釈という観点からも感心できない。
つまり、wherein節は、例えば、日本語で書かれたクレームの記載内容を、原文に忠実に表現するという点において、非常に便利な表記法ではあるが、裏を返せば、(英語として、という事ではなく)米国特許実務に照らした場合にあまり好ましくない日本語独特の構文を、そのまま英語に変換できてしまう性質を持っているので、十分注意する必要がある。
ところで、米国の実務を非常に熱心に勉強され、今回指摘させていただいたwherein節の問題も含め、日本語のクレームを英語に変換する際の問題点を良く理解されている優秀な翻訳者が数多くおられるのを知っている。しかし、たいていの場合、できるだけ原文に忠実に日本語を英語に変換するのが翻訳者に課された最も重要な役割になるので、彼らとしては、上記のような問題に気づいても、もどかしい思いをしながらも、彼らにとって最も重要な役割の遂行(正確な翻訳)に注力せざるを得ない事は想像に難くない。
やはり、これはもちろん容易な事ではないけれど、日本出願において本来権利化を意図した発明の保護範囲を米国特許出願にも十分反映させる為には、企業知財部や特許事務所(日本、米国、両国の代理人を含む)、翻訳者、更には原出願である日本出願の明細書作成者の密な連携、つまりチームワークがとても重要なのだと思う。
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