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米国カリフォルニア州で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が、日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

AIA施行後のADSの役割 (3)

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前回、米国特許法改正(AIA)の新102条、103条施行開始後に採用されているADSの” Statement under 37 CFR 1.55 or 1.78 for AIA (First Inventor to File) Transition Applications”という欄について説明した。

すなわち、以下のstatement(供述)について、当該米国特許出願がこの供述内容に該当する場合には、チェックをするようになっている。

”This application (1) claims priority to or the benefit of an application filed before March 16, 2013 and (2) also contains, or contained at any time, a claim to a claimed invention that has an effective filing date on or after March 16, 2013.”

(和訳)
「本願は、(1)2013年3月16日より前になされた出願に基づく優先権を主張するか又は利益を伴う出願であり、且つ、(2) 2013年3月16日以降の有効な出願日を有するクレーム又はクレーム発明を含む又はある時点で含むようになった出願である。」

そして、それでは実際どのような場合に、同欄にチェックをするべき、又はしないべきなのかという問題を提示させていただいたのだが、その回答として、今回、私の個人的な見解を述べさせていただきたい。

米国内外(日本を含む)において2013年3月16日より前になされた基礎出願が存在し、当該基礎出願に基づく優先権を主張して2013年3月16日以降になされた米国特許出願(例えば、日本出願を基礎としてパリ条約上の優先権を主張する米国特許出願、日本特許庁を受理官庁とするPCT出願を親出願とした米国へのバイパス出願や、優先権主張を伴うPCT出願の米国への国内移行出願)を想定する。

(1)先ず、基礎出願の内容と、当該米国出願の内容を比べた場合、クレーム、明細書、図面が全く同一の場合(例えば基礎出願が日本語で書かれていた場合であって、米国出願の内容が基礎出願と実質的に同一内容の翻訳である場合も含む)。

この場合は、文句なしで、同欄にチェックを入れる必要はなく、実際、入れるべきではないと考えられる。

(2)基礎出願の内容と、当該米国出願の内容を比べた場合、当該米国出願において、クレームが追加又は修正されているが、追加、修正クレームは、基礎出願の開示内容(明細書、図面、クレームの何れか)によってサポートされていると考えられる場合。

この場合も、同欄にチェックを入れる必要はないと考えられる。

(3)基礎出願の内容と、当該米国出願の内容を比べた場合、当該米国出願において、クレームの追加や修正はないが、明細書や図面の修正(例えば、実施例の追加や図面の追加)がある。

このような場合であっても、当該米国出願のクレームが基礎出願の内容によってサポートされていると考えられ、明細書や図面の修正が単なる実施例のバリエーションの拡充である場合や、誤記の訂正にすぎない場合、同欄にチェックを入れる必要はないと考えられる。

こうしてみると、同欄にチェックを入れるべきケースというのは、実務上、非常に少ないのではないかと思う。
では、どのような場合、同欄にチェックを入れるべきなのだろうか。

基礎出願の内容と、当該米国出願の内容を比べた場合、基礎出願の何処にも含まれていなかった発明が当該米国出願において、修正クレーム又は追加クレームとして加わった場合、というのがその答えになると思う。この事は、当該米国出願が、たとえ一部継続出願(CIP:continuation-in-part application)であっても同様であると考えられる。例えば、(3)の事例では、基礎出願(親出願)が米国出願である場合、子出願としての当該米国出願は当然CIPになる。

なお、同欄にチェックを入れるか否か、すなわち、当該米国出願が、基礎出願の内容に含まれていなかったクレーム又はクレーム発明を含んでいるか否か、というのは、あくまでも出願人の主観を問うているにすぎない為、審査官の見解がそれと異なれば、審査過程において争いになるかもしれない。しかし、出願人が主観的にどのように判断するかは、例えば、Duty of Candor(誠実義務)の履行とは別の話であり、出願人の主観に誤りがあったと後で判明しても、これをもって誠実義務違反にはならない事を付言しておきたい。

結局、出願人の立場としては、「基礎出願の何処にも含まれていなかった発明を、当該米国出願に修正クレーム又は追加クレームとして加えた。」という意図がある場合のみ、同欄にチェックを入れる必要があると考えて差し支えないと思う。

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プロフィール

中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

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