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米国カリフォルニア州で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が、日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

クレーム発明の主題に関する表現(コンピュータプログラム)

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米国特許出願において、クレームに記載された発明の主題がコンピュータプログラムである場合、これは明確に特許法101条(35 U.S.C. 101)違反となり、審査官から拒絶理由の通知を受ける。

米国特許商標庁(USPTO)の特許審査便覧(MPEP)にも、法的な保護対象にならない発明の具体例(Non-limiting examples of claims that are not directed to one of the statutory categories)として、コンピュータプログラム自体(a computer program per se)、というのが明記されている(MPEP2106) 。これは、最高裁の判例(Gottschalk v. Benson, 409 U.S. at 72) に基づく指針でもある。

にもかかわらず、経験上、クレームに記載された発明が、少なくとも形式的にはプログラム自体と思えるようなものであっても審査を通る事がある。

実際、USPTOのWebsiteにある特許検索システムを使って、発行特許のクレームを検索してみると、以下のような表現のクレームを見つけることができる。

(1) A computer program product comprising a storage media…
(2) A computer program product for processing an image comprising: a non-transitory computer readable program medium; and a computer program stored on the non-transitory computer readable medium…
(3) A non-transitory computer-readable recording medium in which a computer program is stored,…
(4) A program stored in a non-transitory computer readable storage medium…
(5) A computer readable stereo image processing program that is stored in a machine readable electronic memory…

これらのうち(1), (2),(3)については、実際には、クレーム発明はコンピュータプログラムプロダクト(コンピュータプログラム製品?)又はプログラムを保管した記録媒体であり、プログラム自体という事にはならないだろう。
しかし、(4), (5)は、少なくとも形式上、クレーム発明がプログラム自体であるように読める。

実際、小職も、例えば出願当初、“A program executed by a computer, comprising:..” のように書かれていたクレームについて101条の拒絶理由を受け、職場の米国人弁護士の助言に従い“A program stored in a non-transitory computer-readable recording medium executed by a computer, comprising… ”の如く、(4),(5)のような形式に補正することで、同拒絶理由を解消した経験が何度がある。
ただ、なぜこのような補正によって拒絶理由が解消できるのかが今ひとつ理解できず、何となく釈然としないものがあった。

一方、ほぼ同一の状況で、上記のような形式にクレームを補正しても、審査官が101条違反の拒絶理由を取り下げてくれない場合もある。

この矛盾について、今も完全に理解できたとは言い切れないのだが、最近、少しだけその理屈がわかってきた。。。ような気がしている。

先ず、“A program stored in a recording medium…”と書いた場合、日本語で言えば、「記録媒体に保管されたプログラム」という事になるが、前回の記事でも説明したように、米国特許のクレームに記載された事項は、それが積極的(positive)にクレームされているか否かで、クレーム解釈における位置づけが大きく異なる。

例えば、この場合、上記“A program stored in a recording medium…” というクレーム発明は、(A) “ A program to be stored in a recording medium”のような意味合いにも、(B) “A program that is stored in a recording medium”(或いは“A program, wherein the program is stored in a recording medium”)のような意味合いにも解釈する事ができる。

そして、(A)と(B)とでは、特にクレーム発明における “a recording medium”の位置づけが全くと言っても良いほど異なるのだ。

(A)の解釈によれば、記録媒体(recording medium)はクレーム要素として積極的(positive)にはクレームされておらず、実質的にクレームの主題に関係しないという事になる。この解釈によれば、クレーム発明は「プログラム自体」である事になり、確かに101条違反に該当する事になるだろう。

一方、(B)の解釈によれば、記録媒体(recording medium)はクレーム要素として積極的(positive)にクレームされており、実質的にクレームの主題(の一部)をなすという事になる。この解釈によれば、クレーム発明は「プログラムと記録媒体の組合せ」というイメージになるので、101条違反には該当しないと言える。

つまり、審査官が“…stored in a recording medium”の意味合い(位置づけ)をどのように解釈するかによって、当該クレームが101条違反として拒絶されたり、されなかったりしたのではないかと言う事だ。

ということは、上記“A program stored in a recording medium…”というクレーム(表現)について101条違反を主張する審査官に対しても、“A program that is stored in a non-transitory computer-readable recording medium…”とか、“A program, wherein the program is stored in a non-transitory computer-readable computer medium…”のように、発明の主題として記録媒体(recording medium)が積極的(positive)にクレームされている事を明確にすれば、101条違反は解消できるのかもしれない。

但し、それならば、記録媒体(recording medium)のみを発明の主体として、“A non-transitory computer-readable computer medium storing a program…”という形式を採用するのが、最も無難に101条違反の回避又は解消策という事になる。実際、それが最善の策なのだろう。権利行使の対象という見地からも、“A program that is stored in a non-transitory computer-readable recording medium…”であれ、“A non-transitory computer-readable computer medium storing a program…”であれ、記録媒体(recording medium)がクレーム発明の必須要素になるという立場を取れば、両者の間に実質的な差異はないと思われる。

何れにしても、結局のところ、プログラム関連発明について米国特許出願を行う場合、クレームの形式としては、方法、記録媒体、装置の発明が選択肢、と言う事になるのだろう。もっとも、装置クレームについては、別のやっかいな問題があるのだが、それについてはまたの機会に。

少しとりとめのない話になってしまいましたが、悪しからず。

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プロフィール

中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

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