新事務所“Nakanishi IP Associates, LLC”開設のお知らせ(完全日本語対応によるきめ細やかなサービスで米国における強い特許の取得をお手伝い致します。)IN RE BAXTER INTERNATIONAL, INC.事件(Fed. Cir. 2012)前回からの続きで、特許性の判断に関する行政庁と裁判所の役割について、米国における考え方を、IN RE BAXTER INTERNATIONAL, INC.事件(Fed. Cir. 2012)を例にとって考えたいと思う。
背景として、本件は、医療機器メーカーであるFresenius社が、同社の製造販売する血液透析機器について、特許(U.S. Patent No. 5,247,434 (’434特許))の侵害を主張するBaxter社に対し、’434特許の無効を主張する確認判決訴訟(Declaratory Judgment action)を提起した。
確認判決訴訟とは、例えば特許侵害の警告を受け取った会社が、対象特許の無効や非侵害の確認を裁判所に求める訴訟である。日本では、このような場合、特許無効審判を請求するのが特許権者に対する通常の対抗措置であるの対し、米国ではこのような確認判決訴訟を提起するケースが多い。
一審のカリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所は、当該特許を無効と判断する十分な証拠(clear and convincing evidence)がないとしてFresenius社の訴えを退け、控訴審である連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)も地裁の判断を支持した。
その一方、Fresenius社は、上記確認判決訴訟の提起後、同訴訟と併行して米国特許商標庁(USPTO)に’434特許の再審査(Ex Parte Reexamination)を請求していた。
再審査において、USPTOの審査官は、’434特許のクレーム発明は従来技術文献に基づき自明であり、同特許は無効であるという判断を下した。これを不服として、Baxter社はUSPTOの審判インターフェアレンス部(BPAI)に再審査の結論を取り消すよう審判を請求した(米国においては、日本の無効審判に近い制度として、任意の特許について第三者がUSPTOに再審査を請求することができる。再審査は審査官によって行われるが、再審査の結果に不服がある場合、再審査の請求人又は特許権者はBPAIに審判を請求することができる)。
審判請求後、Baxter社は、’434特許は有効であるとするCAFCの判断を考慮して審査を行うよう、’434特許の有効性に関する判断を審査官に差し戻すようUSPTOの長官に嘆願書を提出したが、長官はこれを却下し、結局、BPAIも「’434特許は無効である」という再審査の結論を支持する審決を下した。Baxter社は、これを不服として、更にBPAIの審決を取り消す訴訟(審決取消訴訟)をCAFCに提起した。
結局どうなったかというと、CAFCは、先述の確認判決訴訟においては地裁の判断を支持した判決(’434特許が無効であるとは言えないという内容の判決)を下したにも関わらず、その後、上記審決取消訴訟では、確認判決訴訟の判決とは異なり、「’434特許は無効である」という再審査及びBPAIによる結論を支持する判決を下した。
’434特許の有効性の議論の詳細については割愛するが、なぜCAFCが、このように一見矛盾する判決に至ったのかという点について、CAFCは以下のように説明している。
「米国の民事訴訟において特許の無効を主張する者(例えば確認判決訴訟の原告)は明確で且つ説得力のある証拠(clear and convincing evidence)を提示する義務を負い、これができなければ、裁判所は、当該特許が有効と(積極的に)判断するわけではなく、当該特許の無効の立証ができなかったものと判断する。(これには、USPTOの審査を経て許可された特許が有効であると推定が強く働く前提がある。)
一方、USPTOによる再審査では、証拠の優越(preponderance of evidence)は民事訴訟よりも実質的に低く、特許が有効であるという推定は働かない。」
つまり、上述した2つのCAFCの判決は、矛盾しているわけではなく、判決を下すに至る基準が異なっていたに過ぎないという事になる。
結局、裁判所は、特許が有効であるというUSPTOの判断については、それが正しいという強い推定のもと、これを覆し得る明らかな証拠が示された場合のみ、特許が無効であるという判断を下すが、USPTOの再審査においては、例えば本件のような場合、裁判所の判断に縛られることなく、審査官は提出された従来技術文献に基づき独自に対象となる特許の特許性(新規性、非自明性)を判断するという事になるようだ。
話がだいぶズレてしまった気もするが、そうすると、特許の無効を主張する側からすれば、同じ証拠(例えば特定の従来技術文献)に基づいて特許の有効性を争うのなら、少なくとも理屈の上では、確認判決訴訟よりも再審査の方が圧倒的に有利であるように思う。
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