新事務所“Nakanishi IP Associates, LLC”開設のお知らせ(完全日本語対応によるきめ細やかなサービスで米国における強い特許の取得をお手伝い致します。)米国では、発行された特許における“abstract”(要約)の記載がクレームの解釈に影響を及ぼす可能性がある。このため、“abstract”の記載内容は、独立クレームに記載された発明より狭い概念にならないよう注意すべきである。その一方、「“means”(手段)や“said”(前記)等、クレーム特有の用語の使用は避けるべき」等、その他の約束事もある(
MPEP608.01(b),
37 C.F.R. 1.72(b))。
このような事情から、一般に、米国特許出願の“abstract”には、独立クレームに記載された発明又はその一部と実質的に同じ内容を、上記のようなクレーム特有の用語を通常の用語に変換するとともに(例えば、“means”→“unit”、“said”→“the”)、許容される字数(50-150文字)の範囲内で説明するのが好ましいと考えられている。さらに、上記のように、その記載内容がクレームの解釈に影響を及ぼし得るという理由から、実施例で用いられる部材番号も除外すべきと考えられる。
以上の事は、米国の特許出願に慣れた日本の企業や代理人の間では、比較的良く知られていることと思う。
ところで、“abstract”の記載内容がクレームの解釈に影響を及ぼし得るというのは、日本の実務とはずいぶん違った考え方という印象を受けるが、米国においても、2003年の施行規則(37C.F.R.)改正前は、同規則において、“The abstract shall not be used for interpreting the scope of the claim.”(Abstractの内容はクレームを解釈する上で考慮に入れない。)という規定があった(
旧37 C.F.R. 1.72(b))。
しかし、HILL-ROM COMPANY INC. v. KINETIC CONCEPTS INC., KCI(Fed. Cir. 2000)という特許侵害事件において、連邦巡回裁判所が、クレームを解釈する上で、Abstractの記載内容を考慮に入れるような判断をしたことで、2003年に規則改正時、上記「Abstractの内容はクレームを解釈する上で考慮に入れない」旨の記述が削除されたのだ。
このように、米国の実務における“abstract”の位置づけに関しては、日本(というより米国以外の国から見れば)ちょとヘンテコにも思える考え方が存在する。
ヘンテコと言えば、“abstract”について、もう一つちょと変な話がある(変に思うのは私だけかもしれないが)。
出願当初のクレームにも、明細書本文にも、図面にも含まれておらず、“abstract”のみに含まれた構成を、中間処理の段階で、明細書やクレームに組み込むことができるだろうか?
実はこれ、米国では可能なのだ。その根拠は、クレームの補正や明細書の補正が“new matter”(新規事項)の追加とならない範囲で行うことが条件となるが、この“new matter”(新規事項)に該当するか否かは、当該補正が“the original disclosure”(出願当初の開示内容)の範囲内で行われた否かによって判断されるからだ。つまり、“abstract”も、立派に“disclosure”(開示内容)の一部なのだ(ただし、このような場合には、補正後のクレームが明細書の記載や図面にサポートされるよう、クレームの補正とあわせて、明細書や図面に対しても当該abstractの内容を組み込む補正をするのが無難だが)。
もっとも、私自身、出願当初のクレームにも明細書にも、そして図面にも含まれていない内容が、“abstract”のみに書いてあるような出願書面にお目にかかった事はない。また、“abstract”以外、どこにも書かれていない内容をクレームに追加して拒絶理由を解消しなければならない事態に遭遇した事もない。
と言う事で、知っていても、役に立つ場面はほとんどなさそうですね(^^;
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