新事務所“Nakanishi IP Associates, LLC”開設のお知らせ(完全日本語対応によるきめ細やかなサービスで米国における強い特許の取得をお手伝い致します。)前回の続きで、
Crown Packaging Technology, Inc. v. Ball Metal Beverage Container Corp.事件において問題となった米国特許法112条第1段落の明細書記載要件(Written Description Requirement)の話です。
明細書本文の記載内容(例えば、発明者による従来技術の認識や発明が解決した課題等)が、クレームの構成要素の解釈にどのような影響を及ぼし、それが最終的に明細書中の記述要件(どのような実施例をどの程度まで明確開示すべきなのかという問題)にどのような影響を及ぼすのかについて、明確な答えを出すのは容易でない。
実際、本事件においても判事の意見は割れており、問題となった特許は、米国特許法112条第1段落の明細書記載要件(Written Description Requirement)を満たしていたと100%自信を持って言い切れるものではないと、個人的には思う。
本件の判決についても、色々と議論の余地があるとは思う。しかし、米国における特許出願において、112条第1段落の要件に適合する適切な明細書の内容とは?と考えた場合、少なくとも、米国出願のための書面(クレーム、明細書、図面)作成に携わる実務者として、以下の点は心得ておいた方が良いと思う。
(1)先ず、明細書中において、(例えば、”Problem to be solved by the present invention”とか、 “Issue addressed by the present invention”等の表現によって)当該特許発明が解決しようとする課題について説明がなされている場合には、「そのような課題の解決に不可欠と思われる構成要素がクレームに含まれているはず」という、かなり強い推定が働いてしまうという事。
(2)そして、そのような課題に不可欠と思われる構成要素については、当該構成要素を含んだ発明の実施例が、明細書中及び図面において具体的な説明がなされているか否か、すなわち、35U.S.C.112条第1段落の要件を満たすか否かが(少なくとも裁判所においては)厳しく判断されてしまうという事。
(3)また、特に、上記「課題の解決に不可欠と思われる構成要素」が複数あり、複数の構成要素を全て備えることによってクレーム発明が成り立つと判断された場合、当該複数の構成要素を全て備えた具体例が明細書及び図面においてしっかりと説明されていなければ、当該特許について35U.S.C.112条第1段落違反の疑義が生じる。もちろんそうなれば、権利行使の際、35U.S.C.112条第1段落違反を根拠に当該特許が無効になってしまったり、特許の無効を主張する権利侵害者(被告)の立場を強くしてしまう可能性が高くなるという事。
上記(1)-(3)の懸念に対し、どのようなクレーム構成を考え、明細書を作成すべきなのかは、ケースバイケースで一概には言えないと思う。また、この問題は、米国で特許取得に先立ち、その基礎となる日本出願の明細書をどのように仕上げるのかという問題にも関係すると思うが、米国において最善のクレームや明細書が、日本や他の国で最善であるという事もないだろうし、決して一筋縄ではいかない。
一つの方策として、米国実務では、明細書の本文中で使う表現として、発明としての効果や、従来技術に対する優位性を明記するのは避け、効果や優位性をうたう場合にはあくまでも発明を具現化した「一実施例に対し、そのような効果や優位性がある」というような表現を使うのが好ましいとされている。
発明の一実施例に特定の効果や優位性がみられるとしても、その効果や優位性が当該発明特有の属性に起因するものであるとは言えないからだ。つまり、このような表現を使っておけば、そのような効果や優位性を有する事が当該発明の必要条件であるという主張を後から「否定」することができるという理屈だ。
何れにせよ、少なくとも、クレームに記載された発明の解釈や明細書の記述要件に関し、日本とは似て非なる米国実務の考え方の一例という事で、心に留めおく価値はあると思う。
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