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米国カリフォルニア州で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が、日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

米国特許セミナーを終えて

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1月20日に開催したセミナーには、予定通り、およそ20名の知財関係者にご出席いただきました。セミナーにおきましては、非常に活発なご質問やご意見をいただき、また、今後のご要望等も多々いただきまして、誠にありがとうございました。

以下、セミナーにご出席されなかったブログ読者の方々に向け、セミナーにおける最も重要な課題について、その説明と、その課題に関する私なりの考えを述べさせていただきます。

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本セミナーにおける話の要点の一つとして、「特に『ミーンズ・プラス・ファンクション』の要素を含むクレームについて、明細書の内容との関係で、特許が無効となる裁判事件が近年多く発生している。また、米国特許法が予定している保護対象と、日本特許法が予定している保護対象とは、ある側面では「水と油」ほどの違いがあり、場合によっては、日本の実務では良しとされている明細書のスタイルが原因で特許が無効になる懸念すらある。」という事実を指摘した。

例えば、今回のセミナーで取り上げた事件の一つ、Automotive Technologies International v. BMW 事件 (Fed. Cir. 2007)の解説では、「クレーム中のミーンズ・プラス・ファンクションに対応するタイプの異なる実施例(電気的な機能の実現、機械的な機能の実現)が存在する場合、どちらか一方の実施例の説明が不十分であることにより、クレームにかかる特許そのものが無効とされる可能性がある事」、また、「この判例を素直に解釈すれば、日本の明細書で好ましいとされる「他の実施例」や「変形例」等におけるメインの実施例を簡略化した説明が致命的な要因となって、クレーム全体が無効になる懸念すらある事」等を説明した。

つまり、日本で良しとされる明細書のスタイルが、米国において、最悪の事態を招く危険性すらあるという事だ。

しかしながら、上記の点に関し、では、「これまで日本の各企業や事務所が採用してきた明細書のスタイルを劇的に改変し、日米の双方に適合するような明細書のスタイルの確立を即急に目指すべきなのか?」と問われると、私自身は、「否」と考えている。

矛盾する事を言うようだが、例えば、クレームをできるだけ機能的に表現したり、発明の実施例について、必要に応じて様々なスタイルで別例や変形例を明細書に含めて権利範囲の解釈の枠を拡げるような方法は、少なくとも日本での権利化(恐らくは他のアジア諸国やヨーロッパも同様)について、各企業や事務所が、個々の経営や出願戦略の方針に沿い、長い時間をかけて構築してきたスタイルでもある。

更に、このような我々の先輩方の過去の経験や組織としての戦略に基づいて構築されたスタイルは、単に日本での保護に最適であるという理由のみならず、1件の明細書作成にかけられるコストの問題等も当然考慮したものだろう。

また、現実問題として、米国の特許係争のうち、実際に裁判所に提訴される事件というのは全般の数パーセントにすぎず、裁判所によって特許有効性が判断される局面までたどり着くケースは、提訴がなされた事件のうち更に数パーセントと言われている。つまり、ほとんどのケースは水面下の示談交渉でその終焉を迎えるわけで、仮にセミナーで説明した上記ようなケースが100件以上あったとしても、年間に数千件、或いは数万件と推定される特許係争全体のうち、このような事件は、そのほんのごく一部にすぎないと言う事も事実なのだ。

以上のような背景を考慮すれば、例えば、明細書本文や図面の変更は行わず、「クレームについてのみ、ミーンズプラスファンクションを含む基礎出願の(日本出願として最適な)クレームセットに、ミーンズプラスファンクションを一切含まないように工夫した米国対応のクレームセットを新たに加え、米国出願に臨む」という一つの方策が考えられる。そうすれが、最悪オリジナルのクレームが全て無効になっても、米国対応のクレームは生き残るであろうという事だ。

そしてこの方策によれば、少なくとも自国(日本)での強い特許の確保という目的を損なったり、作業コストが大幅にアップするリスクを抑えることができる。

しかし、この方策にしても、ミーンズプラスファンクションを一切含まないクレームセットの作成というのは容易ではなく、また、クレームコストに伴う出願や中間処理コストの増加も決して無視できないだろう。

さらに、このような小手先の手当てのみで思惑通りの十分な効果が得られるかどうかはについては、やはり疑問が残る。特に、米国出願を年間に1~2件しかしないような「1件の特許の重要性が極めて高い企業」にとっては、このような方策のみで大丈夫なのかと聞かれれば、正直、わからないという回答になってしまう。

結局のところ、最終的な判断は、出願の主体である各企業が、コストや管理上の問題を含めた戦略に基づいて決定すべき事であると思うのだ。

もちろん、特許事務所が上記のような機能的なクレームの持つ潜在的な危険性について、様々な角度から検討し、顧客に示唆、提案を行うことは決して悪いことではないと思う。しかし、少なくとも私個人としては、この種の問題について、特許事務所が顧客に対し大幅な改善案を必要以上に積極的に提示・推奨することはあまり好ましくないという考えを持っている。

しかしながら、最終的にどのような方針に基づいて明細書を作成・校正するにしても、特許事務所であろが企業知財部であろうが、上記セミナーで説明したような事実を意識している者が準備する明細書と、何も意識しない者が準備する明細書とでは、たとえそれが目に見え難いものであっても、必ず差が生じるものだと思うし、そのような差は、数十件、数百件と数を重ねる事で、必ず目に見える評価につながるものと思う。

現段階では、(もちろん私も含めて)そのような実務者が各々工夫をしながら日々の業務を進める事が、日本の特許業界全体のレベルアップにつながるのでは。。。と思う。

(自分自身の実務の不出来は棚に上げ、かなり生意気な理想論を語りました。どうかご容赦を。。。(^_^;)


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プロフィール

中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

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