新事務所“Nakanishi IP Associates, LLC”開設のお知らせ(完全日本語対応によるきめ細やかなサービスで米国における強い特許の取得をお手伝い致します。)ビルスキー事件(Bilski v. Kappos)の 最高裁判決の要旨(Syllabus)を翻訳してみた。なにぶん英語力不足で、訳し方が稚拙であったり、大雑把な意訳になってしまった部分があったりするが、ご容赦を(^^;
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合衆国最高裁判所
判例要旨
BILSKI ET AL. v. KAPPOS, UNDER SECRETARY OF COMMERCE FOR INTELLECTUAL PROPERTY AND DIRECTOR, PATENT AND TRADEMARK OFFICE
合衆国連邦控訴裁判所に対する移送令状の件
No. 08-147. 弁論2009年11月9日、判決2010年6月28日
申立人の特許出願は、エネルギー市場における商品の買い手と売り手を、どのようにして価格変動のリスクから保護し、又はこのリスクを回避できるかを説明した発明について法的保護を受けようとするものである。最も重要なクレームはクレーム1とクレーム4である。クレーム1は、どのようにしてリスクを回避するかを指示する一連の(指示の)手順からなる。クレーム4は、クレーム1の概念を単純な数式に置き換えたものである。その他のクレームは、クレーム1とクレーム4をどのように適用し、エネルギーの供給者と消費者にとって、市場における需要の変動によって生じるリスクを最小限に抑えることができるかを記述したものである。特許庁の審査官は、「当該発明は、特定の装置によって実行されるものでなく、単に抽象的な概念を扱って純粋は数学的な問題を解くものにすぎない」という理由で、出願を拒絶査定とした。特許庁の審判部も審査官の考えに同意し、拒絶査定を支持した。同様に、連邦裁判所も審査官及び審判部の判断を肯定した。連邦裁判所の大法廷(en banc court)は、クレームに記載された発明(クレーム発明)が特許法101条に規定された特許の対象になり得る「プロセス(process)」に該当するか否かを判断する際に従来採用されてきたテスト手法、すなわち、当該発明が「実用的、具体的で、且つ、有形な結果」を生むか否かを判断するというテスト手法(例えば、 State Street Bank & Trust Co v. Signature Financial Group, Inc., 149 F. 3d 1368, 1373)を否定した。そしてこれに替え、(1)クレームに記載されたプロセスが特定の機械又は物と結びついているか、若しくは(2)当該プロセスが特定の対象物を異なる状態又は異なる物に変化させるのであれば、そのプロセス・クレームは特許の対象になり得るという判断を行った(machine-or-transformation test: 以下、M-or-Tテスト)。大法廷は、このM-or-Tテストが、特許法101条に規定された特許の対象になり得る「プロセス(process)」に該当するか否かを判断する唯一のテスト手法であると結論づけた上で、当該特許出願は特許の対象とはなり得ないという(審判部からの)判断を維持した。
Kennedy 判事が、申立人のクレーム発明は特許対象となり得ないと結論づけた本最高裁判決(Part II–B–2 , Part II–C–2を除く)を言い渡す。(本文4-8,10-11,12-16ページ)
(a) 特許法101条は、特許の対象となり得る4つの独立した発明のカテゴリー、プロセス(process)、機械(machine)、製造物(manufacture)、物の組成(composition of matter)を特定する。「そのように広い意味を持つ用語を選択することで、議会は、特許法が広範囲の保護を与える事を予定したと言えるのかもしれない(Diamond v. Chakrabarty, 447 U. S. 303, 308)。」「このことは、創意工夫の活動が十分に奨励されるようにという趣旨であろう(同判例308–309)。」本裁判所の先例は、§101(a)に規定された保護対象の広い範疇に対し、3つの例外を示した。自然法則、物理的な現象、及び抽象的な概念である(同判例309)。これらの3つの例外は、法文上明定されてはいないが、特許の対象となり得るプロセスは新規且つ有用でなければないという観念にも矛盾はしない。また、これらの例外は、過去150年の間尊重されてきた判例尊重の原則という我が国の法制に従い、成文法の及ぶ範囲を示したものでもある(Le Roy v. Tatham, 14 How. 156, 174)。特許法101条に規定された保護対象についての解釈は、保護対象の境界線を引くための基準設定にすぎない。たとえ、あるクレーム発明が4つのカテゴリーに属すると認定されても、当該発明は、「同条に規定される全ての要件」、即ち102条(新規性)、103条(非自明性)、112条(記載要件)を含む要件を満たす必要がある。そして問題となっている発明は、「プロセス」としてクレームされており、特許法100条(b)は、この「プロセス」という語について、「プロセス、技術、又は方法であり、既知のプロセス、機械、生産物、物の組成、又は材料の新たな用途を含むもの」と定義している。(本文4-5ページ)
(b) M-or-Tテストは、特許法101条に規定された「当該発明が特許の対象になり得るか否か」を判断する唯一のテスト手法ではない。判決の先例は、このテスト手法は、有用且つ重要な糸口又は探求の道具になり得るものの、ある発明が特許法101条に規定された「当該発明が特許の対象になり得るか否か」を判断する唯一のテスト手法ではないという考え方を確立している。これに対し、連邦裁判所は、法律の解釈について二つの原則に反する判断をしている。すなわち、裁判所は、特許法の規定について、立法が明確に意図していないような範囲に踏み込むような解釈をすべきではない(Diamond v. Diehr, 450 U. S. 175, 182)。そして、定義のない用語については、通常の、現在の、そして常識的な意味として解釈すべきなのだ(同文献の同箇所より引用)。特許の対象となり得る為に、機械、又は物の変化に結び付くことが要求される「プロセス」という語について、当裁判所は、その通常の、現在の、そして常識的な意味を知らない。被告である特許庁長官は、「プロセス」及び特許法101条に規定されている他の3つのカテゴリーについて、特許の対象となる為には各カテゴリーが機械又は物の変化に結び付く必要があるという要件を課すべきと、当裁判所に対して主張した。
しかしながら、noscitur a sociisの原理(不明瞭で曖昧な用語の意味は文脈から解釈すべきという基本原則)をこのケースで適用することはできない。なぜなら、「プロセス」という語については、特許法100条(b)において既に明確な定義が存在しているし(Burgess v. United States, 553 U. S. 124, 130)、同100条(b)において他のカテゴリーと「プロセス」とを結び付ける何らかの示唆があるわけでもないからだ(3 Cite as: 561 U. S. ____ (2010))。
最後に、連邦裁判所は、司法はM-or-Tテストを唯一絶対のものと認めたという結論を下しているが、これは誤りである。昨今の判例は、M-or-Tテストを唯一絶対のものと認めていないし、そのように示唆してもいない(例えばParker v. Flook, 437 U. S. 584, 588, n. 9. )。(本文5–8ページ)。
(c) 特許法101条において、「プロセス」という語がビジネス方法を除外しているかの如く解釈される余地はない。特許法100条による「プロセス」の定義に含まれる「方法」という語は、少なくとも文言上、特許関連の他の法文上、そして過去の判例上の解釈に従えば、ビジネスを実践するための少なくともいくつかの方法を含むと言える。当裁判所は、「方法」という語の「通常の、現在の、そして常識的な意味(Diehr, supra, at 182)」として、ビジネス方法が除外されるというような議論が過去に存在したことを知らない。また、ビジネス方法の例外を認めるとか、ビジネスをより効率的に実践する為の技術を除外すべきであるとかいう議論について明確な解答を持つわけではない。しかし、連邦法が少なくともいくつかのビジネス方法についての特許を明確に認めているという事実に照らせば、ビジネス方法を特許法101条に規定されるカテゴリーから除外するような議論はその根拠に乏しい。特許法273条(b)(1)には、もし特許権者が「方法にかかる特許」に基づいて特許侵害行為に対する権利行使を行った場合、侵害者(権利行使を受けた相手)は先使用の抗弁を行うことができる。法がこのような防衛手段を認めるのは、ビジネス方法にかかる特許の存在を認めているからこそであろう。従って、特許法273条は、ビジネス方法が単に「方法」の一種であり、少なくとも一定の条件の下で特許法101条に規定される特許の対象になり得ることを明確にしていると言える。これに反する結論を下すことは、いわば法文の条項に逆らった規範を示す事になり、その事は、法文条項が不適切あると宣言するようなものだ(Corley v. United States, 556 U. S. ___, ___)。最後に、特許法273条はある種のビジネス方法について特許の対象となり得る余地があるという可能性を示しているが、その事は、この種の発明について特許性のハードルを下げるという意味ではない。(本文10-11ページ)
(d) 申立人の出願が、たとえ特許法101条に規定された特許対象のカテゴリーから文言的に外れてなかったとしても、当裁判所は当該出願にかかるクレームを特許法101条に規定される「プロセス」に該当しないとして拒絶したであろう。申立人は、リスクを回避する概念と、そのようなリスク回避概念のエネルギー市場への応用の双方について、特許を受けようとしている。しかし、Benson事件、Flook事件、及びDiehr事件で明らかにされたように、これらは抽象的な概念にすぎず、特許可能なプロセスであるとはいえない。クレーム1及び4は、リスク回避の基本概念を説明し、その概念を数式として整理したものだ。このようなものは、まさにBenson事件及びFlook事件で議論の対象となったアルゴリズムのように抽象的な概念にすぎず、特許の対象にはなり得ないのだ。申立人の他のクレームは、そのようなリスク回避手法を商品群やエネルギー市場の中でどのように使用するのかを広く例示したものであり、そのような抽象的なリスク回避の概念の使用を特許として認めさせる試みであり、既知のランダム解析法を用いて幾つかの入力の数式への当てはめを手助けするための指示手順である。これらは、Flook事件で特許対象とはならない発明よりも、さらに基本的で抽象的な原理にすぎない。 (本文12– 15ページ )
(e) 申立人の特許出願は、抽象的な概念の非特許性という判例に従って拒絶されるものである。従って、当裁判所としては、特許法100条(b)に用語の定義が記されている旨を指摘し、Benson事件、Flook事件、及びDiehr事件で示された指針を仰げば足り、特許の対象となり得る「プロセス」とは何なのかについてその定義を明確にする必要はない。また、本判決は特許法101条に関する連邦裁判所の過去の解釈に左右されるべきではない(例えばState Street, 49 F. 3d, at 1373)。判例法はビジネス方法の特許を制限するのに適度な手段としていまだ十分であるとは認められいないため、当上訴裁判所としてはM-or-Tテストを唯一絶対のものと認めることもあり得た。当裁判所は、M-or-Tテストを唯一絶対のものとは認めない。しかしその一方で、連邦裁判所が、特許制度の目的に沿い、且つ、これに矛盾しない他の基準を立案して行くことに対しては、これを否定しない。
Parts II–B–2 and II–C–2を除き、本判決の言い渡しは、KENNEDY, J.が担当する。ROBERTS, C. J.、THOMAS、ALITO, JJ.が全般に亘り判決の担当に加わった。SCALIA, J.は、Parts II–B–2 and II–C– 2を除く箇所の担当に加わった。STEVENS, J.は判決の賛成意見を提出し、GINSBURG、 BREYER、SOTOMAYOR, JJ.もこの賛成意見に加わった。BREYER, J.は、Part IIについて賛成意見を提出し、SCALIA, J.もこれに加わった。
以上
原文はこちら:
http://www.supremecourt.gov/opinions/09pdf/08-964.pdf
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