新事務所“Nakanishi IP Associates, LLC”開設のお知らせ(完全日本語対応によるきめ細やかなサービスで米国における強い特許の取得をお手伝い致します。)IDS提出義務の違反が後の関連出願に影響を及ぼしたケースの一例として、以下の判例を紹介する。
<AGFA CORPORATION v. CREO PRODUCTS INC.事件 (Fed. Cir. 2006) >
この事件は、特許権者であるAgfa社が、CTPシステム(印刷製版の為のコンピュータ制御システム)にかかる自社の特許をCREO PRODUCTS社等が侵害しているとして、訴えを提起したところ、親出願におけるIDS提出義務違反の不正行為(Inequitable Conduct)が理由で、親出願にかかる特許権に加え、継続出願にかかる特許権についても権利行使不能(unenforceable)という判断がなされたものである。
親出願における不正行為(inequitable conduct)が後の継続出願に及ぼす影響について、以下に引用する判決文の一部は興味深いと思う(個人的に、ですが。。。)。
“With respect to the ’324 patent, that patent is a continuation of the ’014 patent, about which the district court made specific findings. Thus, Fox Industries, Inc. v. Structural Preservation Systems, Inc., 922 F.2d 801 (Fed. Cir. 1990), supports the trial courts decision regarding the ’324 patent. Fox Industries explains that inequitable conduct “early in the prosecution may render unenforceable all claims which eventually issue from the same or a related application.” Id. at 804. Later applications are, of course, not always tainted by the inequitable conduct of earlier applications. See Baxter Int’l, Inc. v. McGaw, Inc., 149 F.3d 1321, 1332 (Fed. Cir. 1998) (“[W]here the claims are subsequently separated from those tainted by inequitable conduct through a divisional application, and where the issued claims have no relation to the omitted prior art, the patent issued from the divisional application will not also be unenforceable due to inequitable conduct committed in the parent application.”). The ’324 patent is a continuation, not a divisional, of the ’014 patent. Furthermore, Agfa has not suggested that the ’324 patent claims subject matter sufficiently distinct from its parent to preclude the trial court’s inequitable conduct determination. Thus, the trial court’s inequitable conduct analysis properly included the ’324 patent. ”
上記のように、裁判所は、親出願でIDS提出義務違反の不正行為(inequitable conduct)があった場合、継続出願を行っても、親出願で提出しなかった資料が、親出願のクレームと同様、継続出願のクレームの特許性に重要な影響及ぼすものである場合、継続出願に基づく特許も権利行使不能(unenforceable)になると述べている。その一方、分割出願において、当該分割出願(子出願)のクレームの主題が親出願のものと異なっており、親出願で提出しなかった資料が、子出願のクレームの特許性に影響を及ぼさない場合、当該分割出願に係る特許については、権利行使不能(unenforceable)にならないと述べている。実際、本件では、親出願のクレームと子出願のクレームとがかなり類似したものであり、その点も、親出願についての不正行為に起因する権利行使不能の判断が、子出願にも適用される決め手の一つとなったようである。
では、再発行出願(reissue application)や再審査(reexamination)の手続きを行い、元の出願において未提出であった情報を提出すれば、IDS提出義務違反の瑕疵を解消できないだろうか?
これは難しいであろうというのが答えだ。
例えば、Bristol-Myers Squibb Co. v. Rhone-Poulenc Rorer, Inc.(Fed. Cir. 2003)という特許侵害訴訟事件では、元の出願において未提出であった従来技術文献を再発行出願(reissue application)において提出していたところ、元の出願におけるIDS提出義務違反の不正行為(inequitable conduct)が理由で、元の出願にかかる特許権に加え、再発行出願にかかる特許権についても権利行使不能(unenforceable)という判断がなされた。
再発行出願(reissue application)は、大雑把に言えば、出願人自らがクレームの手直し等を行う手続きである。また、再審査reexamination)は、これも大雑把に言えば、一旦発行された特許について、特許権者又は第三者が元の特許出願の審査過程で考慮されなかった従来技術文献等を提示する事により、当該特許の有効性(validity)についてUSPTOに再度の審査を願い出る手続きである。
35U.S.C.251(米国特許法第251条)には、再審査(reexamination)や再発行出願(reissue Application)を経て特許を再発行する事により、特許権者は元の出願手続きにおける手続きの瑕疵を解消することができる旨が規定されている。しかし、同条には、ここで言う手続き上の瑕疵というのは、いわゆる"error without any deceptive intention"である旨が明記されている。つまり、理屈の上では、故意(intent)の存在が要件となる不正行為(inequitable conduct)は、手当てができないという事になる。
ただし、前回説明したように、不正行為(inequitable conduct)の認定は、当該行為についての故意"intent"の存在と、隠匿資料の重要性(materiality)との兼ね合いで決まる。特許侵害訴訟の場において、悪意"intent"の存在の立証というのが容易でないのは想像に難くないと思うが、この悪意の存在についての立証責任は、基本的に、不正行為(inequitable conduct)の存在を主張する側が負うことになる。なので、本当にうっかりしていただけで、隠匿の意図など無く、IDSで提出すべき情報の出し忘れがあった出願について、発行された特許は絶望的なのかと言えば、そうとも言い切れないわけである。このあたりの事は、最終的には裁判所の個別判断になると思うし、私の知る限り、最高裁の判決に基づく絶対的な基準というようなものは、今のところ存在していないようだ。
ちょっと釈然としない結論になってしまうが、思うに、出願人の立場として、不正行為(inequitable conduct)の予防という意味でのIDSの提出については、「たかがIDS、されどIDS」といった意識を持つことが大切なように思う。とにかく、知るべくして知っているはずの情報、特に米国出願と対応関係にある外国出願の審査で受けた拒絶理由やその根拠となった引例、PCT出願の国際段階での調査報告やそこに挙げられた文献情報等、知らなかったではすまされない情報については、もれなく、確実に、提出するよう、組織だった管理が重要だろう。 意外に見落としがちなケースとしては、二重特許(double patenting)を理由として35U.S.C.101(米国特許法101条)の拒絶理由を受けターミナルディスクレーマー(terminal disclaimer)を提出した複数の出願について、各々の出願で提出されたIDSの内容がバラバラだったりすると、権利行使の際、不正行為(inequitable conduct)の存在を主張される可能性が高いので、足元をすくわれないよう注意すべきと思う。
(次回に続く)
にほんブログ村ご閲覧いただきありがとうございます!
ブログランキングに参加しています。
クリックして頂けると大変嬉しいです。