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米国カリフォルニア州で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が、日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

プロダクト・バイ・プロセス・クレームについて

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特定の方法によって作られた結果物を表現したクレーム表記、例えば「A方法によって製造された物質B」のようなクレームは、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(Product-by-Process Claim)と呼ばれる。このようなクレーム表記は、米国のプラクティス上において認められており、その解釈についてはMPEPにも説明がある(例えばMPEP2113, 2173.05(p))。

日本企業は、米国の国内企業や他の外国企業と比べ、このプロダクト・バイ・プロセス・クレームを比較的多く採用する傾向があるように思う。統計による裏づけがあるわけではないが、事務所内の多くの米国弁護士もそのように認識している。

思うに、プロダクト・バイ・プロセスを採用する理由として、出願人側(企業側)の心理としては、例えば、以下のような場合があるかもしれない。

「基本的には既に知られている組成物について、製法の改良により、組成物の物性が改善したり、生産効率が向上したりしたが、組成物そのものについては、従来品との差異が見つけ難い。しかし、そのアイディアについてなんとか権利化を図りたい。とりわけ、製法で権利化を図っても今ひとつ権利化後の活用もやり難いし、なんとか組成物として特許にしたい。」

このような出願戦略の事情からプロダクト・バイ・プロセス・クレームを採用することに、私自身異論はない。しかし、プロダクト・バイ・プロセス・クレームを採用する場合、重々認識しておくべき点が幾つかある。

(1)先ず、従来技術との対比で特許性を判断するにあたり、プロダクト・バイ・プロセス・クレームは、純然たる結果物のクレームである。従って、クレームに含まれる製造工程の内容を考慮する余地はないと考えるべきなのだ(MPEP 2113, 2173.05(p)参照)。

MPEP2113
MPEP 2173.05(p)

この事は、MPEPにおいて、例えば以下のように、事例付きで明確に説明されている。

“PRODUCT-BY-PROCESS CLAIMS ARE NOT LIMITED TO THE MANIPULATIONS OF THE RECITED STEPS, ONLY THE STRUCTURE IMPLIED BY THE STEPS 
"[E]ven though product-by-process claims are limited by and defined by the process, determination of patentability is based on the product itself. The patentability of a product does not depend on its method of production. If the product in the product-by-process claim is the same as or obvious from a product of the prior art, the claim is unpatentable even though the prior product was made by a different process." In re Thorpe, 777 F.2d 695, 698, 227 USPQ 964, 966 (Fed. Cir. 1985) (citations omitted) …”(MPEP2113第1段落より)

なお、同MPEP2113には、特定の場合、例えば"welded(溶接によって)," "intermixed(混合された)," "ground in place(接地された)," "press fitted(圧入された)," and "etched(エッチング処理された)"のような用語については、そのような方法で得られた結果物(クレームの構成要素)について、その方法もクレーム解釈に含めるというような追記もある。

しかしながら、これは、例えば、溶接によって接合された部位というのは、例えば接着剤で貼り付けた部位と比べて状態がはっきりと異なる為、そのような表現(welded:溶接によって)によって、結果物の性状を特定できるという意味でしかない。つまり、あくまでも、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈は、結果物の性状のみに依るという考え方が基本なのだ。

(2)上記(1)の前提で、USPTO審査官は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに対しては、引用文献に開示された物質や製品等(以下、周知物)を、プロダクト・バイ・プロセスによって特定されたクレーム要素と比べ、結果物として、「同一」又は「似ている」と判断した場合、クレームに記載された製法や工程は全く考慮せず、そのクレーム要素は当該文献に開示されたものとして、102条や103条の拒絶理由を通知する。

この時点で、「そのクレーム要素と周知物との性状が、「結果物として」どう違うのか、特許性があると言えるのか」、出願人側がこれを証明する義務を負うことになる(MPEP2113“ONCE A PRODUCT APPEARING TO BE SUBSTANTIALLY IDENTICAL IS FOUND AND A 35 U.S.C. 102/ 103 REJECTION MADE, THE BURDEN SHIFTS TO THE APPLICANT TO SHOW AN UNOBVIOUS DIFFERENCE”の項を参照)。

ちなみに、特許性を主張できるだけの「両者の違い」として、例えば「歩留まりが向上する」等の効果は、結果物そのものの性状ではないし、漠然と「品質が向上する」といった主張も容易には認められない。

審査官は、クレームに記載された発明(構成要素)が周知物と同一でなくても、僅かな差異であれば、102条や103条に基づいてクレームを拒絶する事ができる(MPEP2113 “THE USE OF 35 U.S.C. 102/ 103 REJECTIONS FOR PRODUCT-BY-PROCESS CLAIMS HAS BEEN APPROVED BY THE COURTS”の項を参照)。

結局、周知物に対してプロダクト・バイ・プロセス・クレームの特許性(102条、103条)を主張する為には、周知物とは明らかに異なる結果物そのものの性状を、客観的な物証等によって出願人側が証明しなければならないのだ。

更に、審査官とのやりとりを経て、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの形で特許査定導く事は厳しいと出願人側が判断し、クレーム補正によってこれを方法のクレームに変更しようと試みたとする。この場合、そのような補正は、発明のカテゴリーを変える事になる為、分割出願(新出願)を余儀なくされる可能性が極めて高くなる。こうなると、費用面からみても、とても非効率な事態に陥ってしまう。

実情として、米国の代理人が、顧客(出願人)に対してプロダクト・バイ・プロセス・クレームを勧めることは殆どない。というより、多くの場合、極力避けるべきと提言するのではないかと思う。それくらい、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの採用には消極的なのだ。その理由は、「デメリットが多すぎる」からなのだ。

もちろん、前述したように、出願戦略等々の事情からプロダクト・バイ・プロセス・クレームを採用せざるを得ないケースが多々ある事はやむを得ないと思う。

ここで、言いたいのは、米国出願においてプロダクト・バイ・プロセス・クレームを採用した場合、クレームに記載された方法で製造された結果物(発明)と、他の方法で製造された周知物との間に、明確な差異を立証できるだけの客観的なデータが必要となる事を覚悟しておく必要がある、という事なのだ。もちろん、そのようなデータは、出願当初の明細書や図面に含めておくことが望ましい。

また、権利化後においても、プロダクト・バイ・プロセス・クレームは、特許侵害訴訟等の係争の場において、その解釈について論争を招き易い事は予想に難くない。この点も予め覚悟しておく必要がある。


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プロフィール

中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

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