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米国カリフォルニア州で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が、日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

閑話 バイパス出願の隠れたメリット。。。?

PCT出願を米国に国内移行する場合、通常の国内移行と、PCT出願を親出願とした継続出願(いわゆるバイパス出願)の形式が選択できる事は、割と良く知られている事と思う。

両者を比較すると、通常の国内移行は、その明細書や図面の内容が、PCT出願(基礎出願)のものと同一であるというのが建前である一方、バイパス出願はいわゆる優先権主張出願である事から、その取り扱いが若干違う。

例えば、良く知られている事として、通常の国内移行の場合、PCT出願時の明細書や図面の内容と、移行時に要求される英語版の明細書や図面の内容とが同一でなければならないので、書式を米国実務にあわせるような形式的な変更あっても、原則として、予備補正を行う必要がある。

一方、バイパス出願の場合、あまり厳格な同一性は要求されないので、形式的な変更程度の事は、予備補正無しでも比較的自由にできるという、柔軟性がある。一部継続出願を使えば、実施例の追加するすら可能である。

ちなみに、料金も少し違う。特にLarge Entity(従業員500名以上の企業や営利組織)では、通常の国内移行の方が庁費用は安い。ちなみにSmall Entityの方は、バイパス出願の方が僅かに安い(電子出願の場合)。

意外と見落とされている両者の違いとして、米国の場合、出願時の明細書及び図面の総ページ数が100頁を越えると、追加料(size fee)が課され、この追加料は、50頁毎に上乗せされる。ちなみに予備補正書もこの総ページ数に加算される。

特に、予備補正書による出願時の補正では、明細書を補正する場合、Cross-Referenceの追加、請求項、要約書、発明の名称の補正以外は、代替明細書を提出しなければならない。代替明細書は、修正箇所を下線や削除線で示したものと、清書の2種類を提出しなければならないので、ページ数の多い明細書の場合、出願時の追加料がかなりかさむ可能性がある。そのような場合、バイパス出願の方が、コストを抑えられる場合もある。

また、 35U.S.C.111 に基づく一般の米国出願(バイパス出願を含む)の場合、電子出願であれば、ページ数は25%の減算して数えるので、実際には134頁以上で追加料が発生する。 35U.S.C.371に基づく通常のPCT米国移行の場合、この25%の割引は無い。

但し、特にLarge Entityの場合、通常のPCT国内移行の方がバイパス出願よりも140ドル程度、出願時に発生する庁料が安いので(2018日28日現在)、ケースバイケースで、それも考慮する必要はある。

要は、非常に頁数が多く、且つ、明細書本文に補正が費用な場合、純粋にコスト面を考えると、通常のPCT国内移行出願よりも、バイパス出願の方がだいぶ有利になるケースがある、という事になります。

バイパス出願のメリット、デメリットについて、日本の実務家の方から質問される事がしばしばありますが、最近、ひょんな事から、「そう言えば!」と、上記バイパス出願におけるコスト面でのメリットが(場合によっては、という限定つきですが。。。)頭に浮かびました。米国の出願実務を熟知している方にとっては当たり前の事かもしれませんが、割と見落としがちで(お恥ずかしながら私は見落としておりました)、場合によっては役に立つ事もあるかなと思った次第です。微妙なところですが。。。m(_ _)m

以上

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意匠と特許 (米国)

最近、こんな記事をみかけました。

2018年5月28日付 PATENTLY O 
(米国特許に関する有名なブログ: 記事の著者は米国のロースクールの先生です。)

内容は以下の通り。
------------------------------
アップル社が、サムソンによる『3件の意匠権侵害』(U.S. Design Patent Nos. 618,677, 593,087, and 604,305)で認められた損害賠償額

⇒5億3千万ドルくらい(580億円くらい)

アップル社が、サムソンによる『2件の特許侵害』(U.S. Patent Nos. 7,469,381, 7,844,915, and 7,864,163)で認められた損害賠償額

⇒530万ドルくらい(5億3千万円くらい)

------------------------------

以下、私の意見です。

 意匠、かなり恐るべし。

 意匠は製品の外観(デザイン)関するものであり、これに対し、特許は製品に使われている技術に関するものであることはご存知の通りです。権利の取得、維持、行使という各観点から、様々な良し悪しがあると思いますが、特許に対する意匠権のコストパフォーマンスの良さというは確かに目を見張るものがあるかもしれません。出願時費用、中間処理費用、登録料(発行料)、何れをとっても、特許に比べ意匠権の取得は相当に安価である事は確かです。そもそも意匠出願は図面の形式要件を満たせば、新規性や非自明性違反の拒絶理由のオフィスアクションを受けることなく登録に至るケースが圧倒的に多いですし。

 もちろん、対象となる製品とか、出願人がおかれている状況にもよると思うが、コストパフォーマンスという観点で「意匠は特許を圧倒している」と言っても言い過ぎではないとは思います。⇒常に、検討の価値はあり、ですね。

以上

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1st Office Action Estimator (出願後、最初のオフィスアクションはいつ頃?)

個々の出願について、出願手続きを行った後、いつ頃最初のオフィスアクション(又は特許許可通知)を受け取ることができるのかという事については、出願人にとって、気になるところと思う。

米国特許出願の場合、例えば、出願から14ヵ月までに最初のオフィスアクションが発行されないと、特許期間調整(Patent Term Adjustment)において、それがUSPTO側の責任による遅延として扱われるように(35 U.S.C § 154 (b))、出願から14ヵ月というのが最初のオフィスアクションまでの期間として一つの目処ではある。

しかし実際には、技術分野によってかなりのばらつきがある。

審査を担当する技術部門(Group Art Unit)が確定すると、包袋閲覧のサイトにおいて、最初のオフィスアクション発行までのおおよその期間を確認する事ができる。出願公開後であれば、誰でもこれを確認する事ができる。

また、上記とは別に、庁内の技術部門又は特許分類によって、出願から最初のオフィスアクションが発行されるまでの平均の期間がどれくらいかを教えてくれるUSPTOのサイトがある。

"First Office Action Estimator"

技術分野によって、現在、米国特許の審査がどれくらいのスピードで行われているのかを大雑把に把握する上で役に立つと思います。

以上

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閑話 -米国の意匠権 (Design Patent) の存続期間-

米国の特許権(utility patent)の存続期間の終期は、原則として出願日から起算して20年です。権利は特許発行日から発生します。ただし、審査期間が庁側の責任で遅延した場合には延長されます。審査官が必要以上に審査に時間を要してしまった為に、その終期が出願日を起点として計算される権利の存続期間が実質的に短縮される事があるからです。この延長期間の設定は、特許期間調整(patent term adjustment)と呼ばれます。

一方、意匠権(米国ではdesign patentと呼ばれます)にはpatent term adjustmentがありません。

これはなぜでしょうか。

米国では、意匠権の存続期間は発行日から15年です(2015年5月13日以降の出願)。つまり、権利の発生日である発行日を起点として計算されるので、審査にどれだけ時間がかかったとしても、権利の存続期間が短縮される事はありません。つまり、期間を調整する根拠がないのです。

当たり前といえば当たり前ですが。。。ちょっと面白いかなと。

以上

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米国特許出願における発明の譲渡や担保権等の登録について

日本の場合、特許権の設定は、権利者の名義と共に特許庁の記録原簿に登録される。

(参考)
日本特許法
第二十七条  次に掲げる事項は、特許庁に備える特許原簿に登録する。
一  特許権の設定、存続期間の延長、移転、信託による変更、消滅、回復又は処分の制限
二  専用実施権の設定、保存、移転、変更、消滅又は処分の制限
三  特許権又は専用実施権を目的とする質権の設定、移転、変更、消滅又は処分の制限
四  仮専用実施権の設定、保存、移転、変更、消滅又は処分の制限

米国ではどうかと言うと、特許出願に係る権利や特許権は、発明者からの直接又は間接的な譲渡書(契約書)を証拠として提出する事により、譲受人の名義を登録する事ができる。
譲受人の登録は必須ではないが、万一、二重譲渡が行われた場合、後から権利を譲り受けた第三者に対する対抗要件になる。従って、特に、従業員による職務発明を譲り受けた企業が出願人であるような場合、当該企業にとって、特許権者としての安定した地位を得る為には、実際のところ不可欠な手続きと言える。

(参考)
35 U.S.C. 261
Subject to the provisions of this title, patents shall have the attributes of personal property. The Patent and Trademark Office shall maintain a register of interests in patents and applications for patents and shall record any document related thereto upon request, and may require a fee therefor.

Applications for patent, patents, or any interest therein, shall be assignable in law by an instrument in writing. The applicant, patentee, or his assigns or legal representatives may in like manner grant and convey an exclusive right under his application for patent, or patents, to the whole or any specified part of the United States...

An interest that constitutes an assignment, grant or conveyance shall be void as against any subsequent purchaser or mortgagee for a valuable consideration, without notice, unless it is recorded in the Patent and Trademark Office within three months from its date or prior to the date of such subsequent purchase or mortgage.

37 C.F.R. 3.11
Assignments of applications, patents, and registrations, and other documents relating to interests in patent applications and patents,..., will be recorded in the Office.

ところで、米国特許商標庁(USPTO)には、出願書面(明細書、図面、IDS等々)の提出先とは別に、特許出願に係る権利や特許権の登録を行う専門部署(Assignment Recordation Branch:ARB)があり、特許出願に係る権利や特許権の登録手続きはUSPTOのARBに対して行う。

因みに、出願に係る権利や特許権のみならず、実施権(license)や担保権(security interest)、更には共同研究契約等についても登録する事ができる。

実際、ARBに譲渡書等を登録をインターネット(Electronic Patent Assignment System: EPAS)を通じて電子的に行う場合、登録対象を選択する手順があって、選択画面には、譲渡(assignment)、実施権(license)、担保権(security interest)、とか、色々あります。登録対象が選択肢にない場合は、その他(other)を選んで登録対象を自由に特定する事ができます。

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プロフィール

中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

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