米国と日本の特許クレームを比較した時、これまでもしばしば指摘させていただいた事でもあるが、クレームにおける構成要素の明確化に対する考え方の相違というのがある。
米国の場合、クレームにおいて、何が構成要素として積極的にクレームされているのかという事を非常に重視する。
その観点から、ある意味、日本の実務家の癖のようなものかもしれないが、日本出願を基礎とした英文クレームにおいてよく見かける用語で、(文脈にもよるが)恐らく米国人に実務家にとって違和感を感じやすい用語というものがいくつかある。
その一つが「provide」である。
「provide」と言えば、日本語で言えば、「備える」という意味にもなるが、どちらかと言えば、「供与する、付与する」というニュアンスが強い文言であるように思う。
一般論として、米国の審査官は、クレームを見た時、先ず、何がクレームの構成要素であるのかを認識しようとする。少なくともそういう目でクレームを眺めることは確かと思う。
この為、例えば、クレーム中に「"A" provided to "B"」などという表現が含まれていると、これを見た米国の実務家や審査官にとっては、Aという部材がBに供されるという印象が際立ち、これだけ見ても、クレーム発明の中の位置づけとして、AやBが発明の構成要素なのか、そうでないのかが分り難い。
例えば、「An apparatus comprising A provided to B...」のよう書けば、Aがクレームの構成要素である事は一応わかるのだが、Bがクレームの構成要素であるのかどうかよくわからない。しかも、クレームの構成要素かどうかがいまいちわからないBに対し、クレームの構成要素であるAを備えているのか、AがBに供されるのか、なんだか、モワっとした印象を持たれると思う。
また、「An apparatus, wherein A is provided to B...」のように、クレームにおいて初出の部材として、AやBをwherein節等で使ってしまうと、AもBも、実際のところ、クレームの構成要素であることが意図されているのがどうかがわかり難く、米国の実務家や審査官にとって、これも違和感のあるクレームに感じると思う。
それ以上にクレーム構成をわかり難くする表現として、例えば、「An apparatus comprising A providing B」などのような表現を使ってしまうと、Aが発明の構成要素である事はわかるのだが、AがCをprovideすると言うは、果たして、Cという部品がAに含まれ、これが発明全体の一部をなすという意味なのか、それとも、AとCの関係においてのみ、何らかの形でAがBを供給するという意味なので、非常にぼやけた印象の表現になってしまう。
もちろん、112条違反を指摘される可能性もある。仮に112条違反の指摘がなくても、審査官に微妙な違和感を持たれながら審査が進んでいく事になる(可能性が高い)だろう。
実のところ、上記の例において、provideでなく、「arrange」とか「dispose」という代替語を使っても、米国の審査官から、似たような印象(違和感)を持たれる事になるとは思う。
ただ、恐らく、日本の実務家の癖として、なんとなく、「備える」、「具備する」、「含む」といったニュアンスをイメージして、provideという用語を含んだ表現を使っているのではないかと思うのが、この用語は、クレームの構成要素を明確にするために用いられる「comprise」、「include」、「consist」等とは明らかに位置づけが異なる意味(ニュアンス)を持ち、クレーム構成を曖昧にしたり、審査官に違和感を与えやすい用語であると思う。装置や部材の構成とか役割を、明細書本文等で一般的な説明に用いるぶんには何ら問題がないと思うが、構成要素を明確にすることがとても重要な米国特許のクレームにおいてこれを用いる際には注意が必要と思う。
ケースバイケースではあるけれど、選択の余地があるなら、クレームで使う事はできるだけ避けた方が良いかもしれない。
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