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米国カリフォルニア州で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が、日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

「一体形成」「一体成形」

「一体形成された」という日本語は、英語ではどのような表現になるだろうか。素直に英訳すると、“integrally formed”などという事になるだろうか。

ただ、“integrally formed”という表現は、少なくともクレームで用いられた場合、いわゆる単一の材料を一体成形して作った部材のようには解釈されない(そこまでは限定されない)可能性が高い。複数の別部材を組み合わせ結果として一つの部材が出来上がった場合も”integrally formed”と一般には解釈される。

もし、単一材料から形成されている事を明確に主張したい場合には、例えば、integrally moldedとか、integrally dicasted等という表現なら、成形型やダイで一体に成形したものになる。しかし、その場合、単一材料を切削して形成したものは除外されるだろう。 integrally formed of a single material 等の表現が単一材料から一体形成されているいうニュアンスとしては一番近いのかもしれない。

もちろん、日本語でも「一体形成」と言った場合、必ずしも単一材料から形成されている事を意味しないかもしれない。例えば「一体成形」とはニュアンスが違うかもしれない。そんな事を考え出すと、「成形」といったら成形型を使った加工だけしか意味しないのか、等という疑問も湧いてきたりする。要は、発明の本質がどのようなものかによるところが大きいと思うが、何れにしても「一体形成」という言葉、時として、日本語クレーム⇒英語クレームへの変換の過程で、発明者の本来の意図を微妙に伝わらなくする表現の一つと思う。

例えば、「単一材料から形成されるのか、そうでなくても良いのか」という事が、従来技術との差別化を図る上でどの程度重要なのか、等にもよるだろう。

この種の表現がクレームに含まれている場合、明細書本文中ににおいて、言葉の意味にある程度幅を持たせたり、将来の補正の可能性を考えて、他の表現に置き換えられるよう、選択肢を用意しておくのが良いのかもしれない。つくづく、明細書やクレームの表現や言葉使いは難しいと思う。

この点については、翻訳者や外国出願担当者も工夫も大事と思いますが、恐らくはそれ以上に、日本語(原文)明細書の作成者の役割が重要ですね。

以上

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wherein 節の是非について(2)

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前回、MPEP2111.04で問題にされている“wherein”節の解釈が、プロセス(方法)クレームに“wherein”節を使用する場合に限った話である点を指摘した。この点について、もう少し詳しい説明をさせていただく。

MPEP2111.04には、wherein節について、以下のような説明がされている。

「例えばGriffin v. Bertina 事件 (Fed. Cir. 2002)
という事件において、裁判所は、『wherein節は、(クレーム中において)それが操作手順を意味し、目的として記載されている場合、方法クレーム(の発明)を特定する要素とみなされる』と判示している (“wherein” clause limited a process claim where the clause gave “meaning and purpose to the manipulative steps”)。」

Griffin v. Bertina事件では、方法クレームの保護範囲を特定する(クレーム発明を解釈する)上で、wherein節の内容を考慮するか否かが問題になった。

問題となったクレームは、以下の通りである。

A method for diagnosing an increased risk for thrombosis or a genetic defect causing thrombosis comprising the steps of:

(A) obtaining, from a test subject, test nucleic acid comprising codon 506 within EXON 10 of the human Factor V gene;  and

(B)  assaying for the presence of a point mutation in the nucleotides of codon 506 within EXON 10 of the human Factor V gene, wherein said point mutation correlates to a decrease in the degree of inactivation of human Factor V and/or human Factor Va by activated protein C, wherein the presence of said point mutation in said test nucleic acid indicates an increased risk for thrombosis or a genetic defect causing thrombosis.

(和訳)

血栓症又は血栓症を引き起こす遺伝子異常のリスクを診断する方法であって、

(A) 試験対象から、人的要因V遺伝子のエクソン 10のコドン506を含む試験体核酸を採取する工程と、

(B) 前記人的要因V遺伝子のエクソン 10のコドン506を含む試験体核酸中における点突然変異の存在を分析する工程とを含み、

上記工程(B)において前記試験体核酸中における点突然変異の存在は血栓症又は血栓症を引き起こす遺伝子異常のリスクを示すものとする(この部分がwherein節)
方法。

本事件において、特許権者は、クレームを広く解釈させる為に、wherein節の内容は、単に工程(B)の結果を示しているに過ぎず、クレームの範囲を解釈する際、その解釈にこれを含めるべきではないと主張した。

つまり、必ずしも、「点突然変異が存在するという結果をもって血栓症又は血栓症を引き起こす遺伝子異常のリスクを判断する」方法でなくても、(A) 試験対象から人的要因V遺伝子のエクソン 10のコドン506を含む試験体核酸を採取する工程と、(B) 同試験体核酸中における点突然変異の存在を分析する工程と含む試験方法なら、全て当該特許発明の保護範囲に含まれると主張したわけだ。

普通に考えて相当に図々しい主張に思えるし、実際、裁判所は、当該方法クレームにおいては、wherein節の内容も解釈に含めるように限定して、クレーム発明を解釈すべきであると判断している。つまり、「点突然変異が存在するという結果をもって血栓症又は血栓症を引き起こす遺伝子異常のリスクを判断する」事は当該クレーム発明に必須の構成要件であると判断したわけだ。

ある意味、当たり前の事のように思えるが、本事件における特許権者の主張には、それなりの根拠がある。

思うに、特に米国においては、方法の発明というのは、工程、言い換えると手順の組み合わせからなる発明という捉え方をするのが大原則であるため、手順という要素の性格に合わないものは、発明の保護範囲から除外すべきではないか、という考えはある意味自然な事と言える。

その一方、例えば装置の発明の場合、それは複数の構造の組み合わせからなる発明であると捉えられるため、各構造の特徴もまた、発明の保護範囲を特定する上で当然その解釈に含められるという考え方が原則になる。

以上より、MPEP2111.04が言及しているwherein節の解釈の不安定さ?というのは、もっぱら方法クレームに関する事であると考えて差し支えないと思うのだ。

ただし、装置クレームや物のクレームにおいても、方法クレームとは別の観点から、クレームの解釈を曖昧にしてしまう非常に好ましくないwherein節の使い方がある。

(次回に続く)

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wherein 節の是非について(1)

☆新着情報☆ 新事務所“Nakanishi IP Associates, LLC”開設のお知らせ(完全日本語対応によるきめ細やかなサービスで米国における強い特許の取得をお手伝い致します。)

去る9月27日、大阪の十三で開催したセミナーでは、参加者の皆様におきましては、熱心に耳を傾けていただき、また、質疑応答時にも、多くのご意見やご質問をいただきました。私自身、大変勉強になりました。心から感謝致します。

さて、今回は、上記セミナーで説明した話の中で、私自身、その重要性と難しさを再認識した論点を一つ紹介させていただきたいと思う。私の個人的な意見としての色がかなり濃い話になるので予めご了承を。

MPEP2111.04には、以下のような説明がされている。

クレームの範囲は、クレームにおいて、実行される事が任意であり必須ではない工程を示すために用いられる言語、又は、クレームを特定の構造に限定するためのものではない語句によって限定されることはない。以下の語句は、クレームの構成要素を特定する上で問題となる場合がある。

(A)“adapted to” 又は “adapted for”を含む節
(B)“wherein”を含む節
(C)“whereby”を含む節

上記の節がクレームにおいて発明を限定し得るか否かは、事案によって異なる。(判例)“wherein”を含む節は、プロセス(方法)のクレームにおいて、複数の工程についての意義と目的を示すものと認められる(判例)

方法クレームにおいて、“whereby”を含む節が、特許性に影響を及ぼす条件について言及している場合、それは物質を変化させる条件として考慮に入れるべきである。(判例)

 一方、方法クレームにおいて、“whereby”を含む節が、単に、クレームに記載された工程によって生じるであろう結果を記述している場合、それは(発明の構成要素として)考慮の対象にならない。(判例)

原文はこちら

先ず、MPEPが問題にしているのは、クレームの範囲を解釈する上で問題を生じ得る3タイプの表現(A)~(C)なのだが、そのうち(A)“adapted to” 又は “adapted for”を含む節については、例えば、「~の目的に採用(適用)される部材」とか、「~装置に採用(適用)される部材」と言った場合、「~に」の部分をクレームにおける構成要素と捉えるべきか否かが曖昧で、議論になる可能性があるという事になる。

例えば、「フリーズドライに適用される真空ポンプ」と言った場合、フリーズドライに適用されるという事自体はクレームの構成要素なのかという問題が生じる可能性がある。また、「自動車に採用されるランプ」と言った場合、果たして自動車はクレームの構成要素なのか、という問題がある。そもそも、「採用される」とか「適用される」という文言は、(使用)予定のニュアンスを含む傾向が強い。そのため、文脈にもよるが、単に“adapted to” 又は “adapted for”と言った場合、採用される対象が現時点でクレームの構成要素と結びついているのか否か(現時点で自動車に組み込まれた状態のランプの事を言っているのか、自動車に組み込むのが好ましいと言っているだけなのか)がわかり難いという話になるのだ。

次に、(C)“whereby”を含む節について、ここで言わんとすることは比較的明確である。

例えば、方法クレームに含まれる一つの工程として、”heating a substance A, whereby the substance A is aggregated.” (物質Aを熱して、当該物質Aを凝固させる工程)と言った場合、”whereby the substance A is aggregated.” (当該物質Aを凝固させる)という文言をクレームの構成要素と考えるべきか否かという問題が生じ得る。ちょっとでも熱を加えれば当然のように物質Aに凝固するのか、それとも、当該物質Aを凝固させる為に必要な熱の加え方(一定時間以上とか、一定の温度以上とか)があって、この文節では、その条件をクレームの範囲に含ませようとしているのか、それが必ずしも明確でない、という事である。恐らく、その答えは、クレーム全体の文脈や明細書における説明次第、という事になるのではないか思う。

そして、今回問題にしたいのが(B)“wherein”を含む節である。

個人的には、“wherein”と言うのは、これによって表現される文節に、相当多くのバリエーションが存在すると思う。少々大げさかもしれないが、クレームにおける既述の構成要素の構造、性質、機能、他の構成要素との関連等、好きな事を何でも表現することが可能、といっても良いのではないだろうか。ただし、それだけ便利な文言である一方、使い方が不味いと、クレームの解釈に疑義が生じる原因にもなり得る。

また、MPEP2111.04で問題にされているのは、“wherein”節の使い方について、もう少し狭い範囲の話、すなわち、プロセス(方法)クレームに“wherein”節を使用する場合に限った話であるように思う。

MPEP2111.04では、“wherein”を含む節の解釈が、“adapted to (for)”や“whereby”を含む節と同様、事案によって異なりちょっとやっかいであるかのようにも受け取れる説明がされているが、本当のところ、少しニュアンスが違うと思う。少なくとも、“wherein”を含む節がクレームにおいてあまり好ましくないと考えるのは、少々早合点だ。

(次回に続く)

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「112 条第1段落の明細書記載要件(Written Description Requirement)」と「発明の課題・解決手段」― Crown Packaging Technology, Inc. v. Ball Metal Beverage Container Corp.事件 ―その3

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Crown Packaging Technology, Inc. v. Ball Metal Beverage Container Corp.事件と直接の関係はないが、前回まで2回に亘って説明した米国特許法112条第1段落、これに加え同条第2段落に関し、特にクレームの記載と明細書の記載内容との関係について、興味深いMPEPの記述を紹介する。

112条第1段落の実施可能要件(Enablement Requirement)と、112条第2段落のクレームの明確性要件に関する記述である。

MPEP2172.01 Unclaimed Essential Matter
A claim which omits matter disclosed to be essential to the invention as described in the specification or in other statements of record may be rejected under 35 U.S.C. 112, first paragraph, as not enabling. In re Mayhew, 527 F.2d 1229, 188 USPQ 356 (CCPA 1976). See also MPEP § 2164.08(c). Such essential matter may include missing elements, steps or necessary structural cooperative relationships of elements described by the applicant(s) as necessary to practice the invention.

In addition, a claim which fails to interrelate essential elements of the invention as defined by applicant(s) in the specification may be rejected under 35 U.S.C. 112, second paragraph, for failure to point out and distinctly claim the invention. See In re Venezia, 530 F.2d 956, 189 USPQ 149 (CCPA 1976); In re Collier, 397 F.2d 1003, 158 USPQ 266 (CCPA 1968). >But see Ex parte Nolden, 149 USPQ 378, 380 (Bd. Pat. App. 1965) ("[I]t is not essential to a patentable combination that there be interdependency between the elements of the claimed device or that all the elements operate concurrently toward the desired result"); Ex parte Huber, 148 USPQ 447, 448-49 (Bd. Pat. App. 1965) (A claim does not necessarily fail to comply with 35 U.S.C. 112, second paragraph where the various elements do not function simultaneously, are not directly functionally related, do not directly intercooperate, and/or serve independent purposes.).<

以下はその日本語訳(英語力不足の為、大雑把な意訳ですがご容赦ください)。

クレームに記載されていない(発明に)不可欠な事項
明細書又は他の記録された供述において不可欠(“essential”)であると述べられた事項(“matter”)があるにもかかわらず、これを欠いたクレームは、米国特許法112条第1段落の実施可能要件を欠くものとして拒絶される。MPEP2164.08(c)を併せて参照。ここでいう不可欠な事項(“essential matter”)というのは、要素、工程、又は要素間の構造的な協働関係であって、当該発明の実施の必要なものとして発明者が(明細書中に)記述したものを含む。
さらに、明細書中において出願人(発明者)が定義した発明に不可欠な要素との関連を欠いたクレームは、米国特許法112条第2段落(クレームに記載された発明の明確性)に違反するものとして拒絶される。(ただし、組合せ(からなる発明)ついて特許性があると言えるために、必ずしも、クレームに記載された装置の構成要素各々の間に相互依存性がある必要はないし、全ての構成要素が特定の一つの効果を生み出すよう同時に作動する必要もない。従って、様々な要素が同時に機能しない、機能的に直接は関係しない、直接的な相互作用を持たない、及び/又は、独立した作用を担うように働く、というような理由で必然的に112条第2段落違反となるわけではない。)

なお、上記MPEP2172.01で参照されているMPEP2164.08(c)には、以下のような記述がある。

MPEP2164.08(c) Critical Feature Not Claimed
A feature which is taught as critical in a specification and is not recited in the claims should result in a rejection of such claim under the enablement provision section of 35 U.S.C. 112. See In re Mayhew, 527 F.2d 1229, 1233, 188 USPQ 356, 358 (CCPA 1976). In determining whether an unclaimed feature is critical, the entire disclosure must be considered. Features which are merely preferred are not to be considered critical. In re Goffe, 542 F.2d 564, 567, 191 USPQ 429, 431 (CCPA 1976).

Limiting an applicant to the preferred materials in the absence of limiting prior art would not serve the constitutional purpose of promoting the progress in the useful arts. Therefore, an enablement rejection based on the grounds that a disclosed critical limitation is missing from a claim should be made only when the language of the specification makes it clear that the limitation is critical for the invention to function as intended. Broad language in the disclosure, including the abstract, omitting an allegedly critical feature, tends to rebut the argument of criticality.

以下はその日本語訳(これも大雑把な意訳ですが、ご容赦ください)。

クレームされていない(発明にとって)決定的に重要な特徴
明細書において決定的に重要であると教示されているにも関わらずクレームに記載されていない特徴がある場合、その事は、米国特許法112条第1段落の実施可能要件違反に該当する。クレームに記載れていない特徴が決定的に重要であるか否かを判断するにあたっては、(出願の)開示内容全体を考慮しなければならない。単に好ましいとされている特徴は決定的に重要であるとは認められない。

従来技術との境界を欠く、単に好ましいとされている材料(特徴)によって出願人を縛るようなら、実用的な技術の向上を促すという憲法の法趣旨にも反する事にもなりかねない。それ故に、(明細書において)決定的に重要であると教示された限定(”limitation”)がクレームに含まれていない事を理由とした実施可能要件(112条第1段落)違反に基づく拒絶理由が成立するのは、明細書中において、そのような限定(”limitation”)が当該発明の機能にとって決定的に重要(不可欠)であると意図的に記述されている事が明白である場合に限られる。広い意味合いを含む文言であって、抽象的な概念を意味したり、決定的に重要であるか否かが問われている特徴を除外し得るような文言が明細書中で使用されている場合、そのような文言を根拠にした上記の拒絶理由は反論に足るかもしれない。

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結局のところ、こういう表現はダメでこういう表現ならOKと決めつけるのは良くないと思うが、少なくとも、「明細書中において、クレームに含まれていない構成要素や機能が、あたかも「発明」に必須の構成要素や機能であるかのように解釈されかねない表現は使わないように心がけるべき」という事は言えそうだ。

特に、以下のような場合は注意が必要と思われる。例えば、日本の基礎出願において、明細書中で、例えば「構成要素Aは、当該発明において重要な機能を有する。」というような表現を用いた場合、日本語では、このような表現から、発明者は果たして「この構成要素Aが発明にとって不可欠な要素である」と表明していると言えるか否かを判断するのは微妙なところだと思う。しかし、これを英文に翻訳する段階で、“essential”とか、“critical”とか言う表現が出てきてしまうと、「構成要素Aは当該発明にとって重要」が「構成要素Aは当該発明にとって不可欠」という断言にすり替わってしまう恐れがあるのだ。このあたりの事は、米国出願用の書面作成の段階で担当者や翻訳者にとって、気に留めておく価値があると思う。

また、中間処理の段階で、クレームから一部の構成要素や構成要素間の相互関係を示すような表現を(補正によって)削除した場合、明細書中、例えば発明の要旨(“Summary of Invention”)等における記載内容の中に、あたかも、(補正によって)クレームから削除された構成要素が発明に不可欠であるような表現が残ってしまう事があり得る。この点にも注意が必要だろう。

一つの方策としては、前回の112 条第1段落の明細書記載要件(Written Description Requirement)違反の対策と同じで、明細書の本文中で使う表現として、発明の構成要素という類の表現は避け、必要に応じ、類似の表現として、あくまで も発明を具現化した「一実施例の構成要素」というような表現を使うのが好ましい。

発明の一実施例の構成要素は、あくまでも実施例の構成要素なのであり、発明に不可欠とは言えないからだ。つまり、このような表現を使っ ておけば、そのような構成要素を含む事が当該発明の必要条件であるという主張を後から「否定」することができるという理屈だ。


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「112条第1段落の明細書記載要件(Written Description Requirement)」と「発明の課題・解決手段」― Crown Packaging Technology, Inc. v. Ball Metal Beverage Container Corp.事件 ―その2

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前回の続きで、Crown Packaging Technology, Inc. v. Ball Metal Beverage Container Corp.事件において問題となった米国特許法112条第1段落の明細書記載要件(Written Description Requirement)の話です。

明細書本文の記載内容(例えば、発明者による従来技術の認識や発明が解決した課題等)が、クレームの構成要素の解釈にどのような影響を及ぼし、それが最終的に明細書中の記述要件(どのような実施例をどの程度まで明確開示すべきなのかという問題)にどのような影響を及ぼすのかについて、明確な答えを出すのは容易でない。

実際、本事件においても判事の意見は割れており、問題となった特許は、米国特許法112条第1段落の明細書記載要件(Written Description Requirement)を満たしていたと100%自信を持って言い切れるものではないと、個人的には思う。

本件の判決についても、色々と議論の余地があるとは思う。しかし、米国における特許出願において、112条第1段落の要件に適合する適切な明細書の内容とは?と考えた場合、少なくとも、米国出願のための書面(クレーム、明細書、図面)作成に携わる実務者として、以下の点は心得ておいた方が良いと思う。

(1)先ず、明細書中において、(例えば、”Problem to be solved by the present invention”とか、 “Issue addressed by the present invention”等の表現によって)当該特許発明が解決しようとする課題について説明がなされている場合には、「そのような課題の解決に不可欠と思われる構成要素がクレームに含まれているはず」という、かなり強い推定が働いてしまうという事。

(2)そして、そのような課題に不可欠と思われる構成要素については、当該構成要素を含んだ発明の実施例が、明細書中及び図面において具体的な説明がなされているか否か、すなわち、35U.S.C.112条第1段落の要件を満たすか否かが(少なくとも裁判所においては)厳しく判断されてしまうという事。

(3)また、特に、上記「課題の解決に不可欠と思われる構成要素」が複数あり、複数の構成要素を全て備えることによってクレーム発明が成り立つと判断された場合、当該複数の構成要素を全て備えた具体例が明細書及び図面においてしっかりと説明されていなければ、当該特許について35U.S.C.112条第1段落違反の疑義が生じる。もちろんそうなれば、権利行使の際、35U.S.C.112条第1段落違反を根拠に当該特許が無効になってしまったり、特許の無効を主張する権利侵害者(被告)の立場を強くしてしまう可能性が高くなるという事。

上記(1)-(3)の懸念に対し、どのようなクレーム構成を考え、明細書を作成すべきなのかは、ケースバイケースで一概には言えないと思う。また、この問題は、米国で特許取得に先立ち、その基礎となる日本出願の明細書をどのように仕上げるのかという問題にも関係すると思うが、米国において最善のクレームや明細書が、日本や他の国で最善であるという事もないだろうし、決して一筋縄ではいかない。

一つの方策として、米国実務では、明細書の本文中で使う表現として、発明としての効果や、従来技術に対する優位性を明記するのは避け、効果や優位性をうたう場合にはあくまでも発明を具現化した「一実施例に対し、そのような効果や優位性がある」というような表現を使うのが好ましいとされている。

発明の一実施例に特定の効果や優位性がみられるとしても、その効果や優位性が当該発明特有の属性に起因するものであるとは言えないからだ。つまり、このような表現を使っておけば、そのような効果や優位性を有する事が当該発明の必要条件であるという主張を後から「否定」することができるという理屈だ。

何れにせよ、少なくとも、クレームに記載された発明の解釈や明細書の記述要件に関し、日本とは似て非なる米国実務の考え方の一例という事で、心に留めおく価値はあると思う。


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プロフィール

中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

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