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米国カリフォルニア州で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が、日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

ワン・ポータル・ドシエ(OPD)照会

 ご存知の方も多いかもしれませんが、日本特許庁のウェブサイト(正確には特許情報プラットフォーム:J-Plat Pat)において、「ワン・ポータル・ドシエ(OPD)照会」というサービスが利用できます。下記のリンク先↓

https://www10.j-platpat.inpit.go.jp/pop/all/popd/POPD_GM101_Top.action

 このシステムを使えば、文献番号から世界各国の特許庁が保有する出願・審査関連情報(ドシエ情報)を照会できる。
 例えば、日本出願の出願番号や公開番号等(他国の出願番号や公開番号等でもOK)を入力すると、日本、韓国、中国、欧州、米国、オーストラリア、カナダの各国における審査状況(包袋)や、PCTの国際段階における国際調査報告書や見解書等の作成状況が一括して閲覧できる(もちろん、公開情報に限られる)。

 下記日本特許庁のウェブサイトでの説明がわかりやすいと思う。

https://www.jpo.go.jp/torikumi/kokusai/kokusai2/godai_patent_user.htm


 とてもありがたいのは、日本、韓国、中国での包袋に含まれる各文書の英訳を簡単に入手できる事だ。
 米国出願において、関連出願(ファミリー)の関連情報をIDSとして提供する際、大いに役立つと思う。特に、これまで、英語以外で作成された米国以外のオフィスアクション(拒絶理由通知)の英訳の入手が容易になるのが、場合によってはかなりありがたい。保証はできないけれど、各国の審査情報のシステムへの反映はかなり早いように感じる。

ご興味のある方はお試しください。

以上

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ウェブ翻訳

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「耳よりなニュース」と言うほどでもないが、欧州特許庁(European Patent Office: EPO)が特許翻訳用に特化したGoogle翻訳の機能をEspasnet(EPOの特許文献検索エンジン)に組み込んだ。

今のところ、利用可能なサービスは、データベースで検索可能な文献について、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語、スペイン語、スウェーデン語間の翻訳であるが、今後、翻訳可能な言語の種類を随時拡張していくということだ。

ところで、何もEspasnetに限らず、例えばGoogleが提供する一般向けの翻訳機能(Google 翻訳)を使えば、日本語を含め、多くの言語から英語への機械翻訳が可能である事は皆様もご存知と思う。

今回は、その活用法について少々。

以前、「米国特許商標庁(USPTO)に特許出願を行った者は、特許性に関して発明に重要な影響を及ぼす情報であって、出願人が知っている全ての情報を、USPTOに情報開示陳述書(Information Disclosure Statement)として提出しなければならない。」という制度の説明、また、「特許侵害訴訟において、出願手続きの過程おいて情報開示義務違反があったと認められた場合、裁判所は、出願人が、出願手続における庁への誠意誠実の義務(duty of candor and good faith in dealing with the Office)を怠り、不正行為(inequitable conduct)を行ったものと認定し、当該特許権は権利行使不能(unenforceable)という判断を下すことがある。」という説明をした。

この開示義務の対象となる情報には、例えば、米国特許出願に対応する日本の基礎出願の審査において日本特許庁により発行された拒絶理由通知等も含まれる。そして、日本特許庁により発行された日本語の拒絶理由通知については、その英訳を添えてUSPTOに提出しなければ、情報開示義務を完全に果たした事にならない。

一方、昨年(2011年)5月の米国連邦控訴裁判所の大法廷によるTherasense v. Becton事件の判決により、「IDS提出義務違反の不正行為の認定要件としては、(1)隠蔽された事実が特許性に及ぼす重要性(度)と(2)隠蔽の意図の存在、という2つの要素を独立して判断すべきであり、要件(1)と(2)の何れか一方でも欠いていれば不正行為は成立しない。」という判断基準が明らかにされた。

そこで、(必ずしもこの判決が決め手というわけではないのだが)とりあえずIDSの提出義務をきちんと果たしておき、将来、せっかく取得した特許が、不正行為の存在を理由に権利行使不能となる最悪の事態だけは極力回避したいという出願人の立場に立つと、出願の過程において、情報隠蔽の意図がない事をきっちり示しておけば、情報開示義務違反の不正行為の責を問われることはないと思われる。

そうすると、上記のような日本語の拒絶理由通知の翻訳についても、少なくとも情報開示義務違反による不正行為の認定を回避する目的であれば、例えばGoogle翻訳を使った翻訳文でも、十分にその役割を果たすことができるだろう。

なぜ、このような話をするのかと言うと、通常、上記のような日本の基礎出願における拒絶理由通知の翻訳は、翻訳者(マンパワー)に任される場合が多く、例えば一企業における米国特許出願の管理業務全体として見れば、かなりの額の翻訳費用(人件費)が発生していると思われるからである。この作業を全てGoogle翻訳のような機械翻訳に任せれば、その翻訳料分の経費を軽減できる理屈になる。出願コストを削減する為の方策として選択の余地ありと思う。

もっとも、IDSには二つの役割があり、上記のような情報開示義務の遵守という役割の他、もう一つ、クレーム発明の特許性について、審査官にしっかりと審査してもらい、無効となり難い強い特許を取得するという役割もある。そして、機械翻訳の質も年々良くなってきているとはいえ、無論、翻訳者(人間)の仕事にはまだまだ遠く及ばない。そのような観点から見れば、IDS提出用の拒絶理由通知の翻訳も、機械翻訳などに任せず、信頼のおける翻訳者に任せるべきという考え方もまた然りである。

この辺りは、IDSの目的をどのように捉え、コストと質のどちらを優先するかという話になるのだろう。一概にどちらが良いとは言えない話ではありますが。。。

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Therasense事件とIDSの今後

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Therasense, Inc. v. Becton, Dickinson & Co. (Fed. Cir. 2011) (en banc)

不正行為(inequitable conduct)の成立要件とIDSの今後の運用との関係で、最近巷でよく取り立たされるTherasense v. Becton事件について:

クレーム文言の解釈及びこれに基づくクレーム発明の特許性に関する審査官への主張が、米国特許出願と、ヨーロッパにおける対応出願(EP出願)とで異なっていた事、また、その米国特許出願におけるものと異なる議論を含んだ欧州特許庁(EPO)への提出書面を、IDSとして米国特許商標庁(USPTO)へ情報開示しなかった事による不正行為(inequitable conduct)の成立の可否が問われた事件である。

結論として、本事件では、米国連邦控訴巡回裁判所(CAFC)は、一旦は不正行為(inequitable conduct)の成立を認め、対象となった特許権の行使を不能(unenforceable)とすると判断したものの、同CAFAの大法廷は、前記特許権行使不能の判断を覆し、本事件において不正行為(inequitable conduct)は成立しない旨の判決(en banc decision)を下した。

本事件における米国連邦控訴巡回裁判所(CAFC)大法廷の判決(en banc decision)は、従来採用されていた情報開示義務違反による不正行為(inequitable conduct)の成立条件を、根底から覆すことになりそうだ。

従来採用されてきた考え方(成立条件の判断基準)というのは、(1)隠蔽された事実が特許性に及ぼす重要性(度)と(2)隠蔽の意図の存在、という2つの要素のバランス(sliding scale)で考えるというものだった。

これに対し、今回、大法廷で明確にされた考え方というのは、(1)と(2)を別々に考え、両方の要件を独立した要件として考えた場合、双方が十分に立証された場合のみ、不正行為があったものと認定されるというもの。この判断基準に従うと、不正行為があったと主張する者側にとって、その主張を認めさせるハードルは相当に上がってしまう。

わかりやすい例としては、従来の考え方なら、「隠蔽の意図」が明らかであれば、「隠蔽事実の重要性(度)」がさほど高くなくても、不正行為として認められるし、逆に、「隠蔽の意図」があまりはっきりしなくても、「隠蔽事実の重要性(度)」が非常に高ければ、不正行為として認められることになるはずだった。しかし、本事件におけるCAFAの大法廷による判決(en banc decision)で採用された考え方によれば、「隠蔽の意図」も十分に大きく、且つ、「隠蔽事実の重要性」がはっきりと認められなければ、不正行為は成立しないという事になる。

また、同CAFAの大法廷は、「隠蔽事実の重要性」が十分であると言えるための基準についても、それが相当に高いハードルである事を(過去の最高裁判決を引用して)確認的に示した。

これにより、今後の特許訴訟においては、被告側にとって、不正行為(inequitable conduct)に基づく権利行使不能(unenforceable)の主張をする事が、相当に難しくなるものと予想される。

米国特許庁は、本事件の大法廷判決を受け、IDS(Information Disclosure Statement:情報開示陳述書)の取り扱いに関する規定(37CFR1.56(b)及び37CFR1.555(b))の修正の提案、予定されている修正後の規定内容の説明、及びパブリックコメントの募集を行っている。

http://www.gpo.gov/fdsys/pkg/FR-2011-07-21/pdf/2011-18408.pdf

上記規定の修正により、不正行為(inequitable conduct)の成立の有無を判断する上で、特に、「隠蔽事実の重要性」が(「隠蔽の意図」とは独立した要件として)はっきりと認めれる必要がある点、また、、「隠蔽事実の重要性」の有無の判断基準としては、‘‘but-for materiality’’という考え方が採用される旨が、明確にされるようだ。‘‘but-for materiality’’というのは、「もし、当該事実を審査官が知っていたら、当該出願は特許されていなかったという確証があって、はじめて当該隠蔽事実の重要性が認められる」といった意味である。


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IDSの重要性-Duty of Candor and Good Faith とInequitable Conduct-(3)

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前回まで、せっかく取得した特許権が、将来、出願時における不正行為の存在を理由に行使不能と認定されてしまう事を防ぐため、出願から特許の発行までのIDSの提出義務をきちんと果たす事の重要性を説明した。

IDSで何を提出すべきかについては、米国特許法施行規則37C.F.R.1.98(a)や米国特許審査便覧MPEP 609.04(a)に記載されている。

今回は、これらの規定内容について、ちょっと紛らわしいと思われる点について説明したいと思う。

当該米国出願に対応する外国出願の審査において発行された拒絶理由通知や国際出願についての調査報告(見解書)に関する情報も、IDSとして提出すべき情報に含まれる事は言うまでもないだろう。
では、これら外国の審査において拒絶理由で引例として挙げられた文献や、国際出願の調査報告(見解書)に挙げられた文献のうち、英語以外で書かれた文献(以下、非英語文献)について、その英訳を提出する必要はあるだろうか?

「そのような義務はない」が答えである。

英語以外で作成された外国(米国外)の対応出願の拒絶理由通知や国際出願についての調査報告(見解書)については、拒絶通知や調査報告(見解書)そのものの英訳と、リストにある文献のオリジナルを提出すれば、出願人としてIDS提出の義務は果たした事になる。

この点については、先ず、37C.F.R.1.98(a)(3)に以下のような記述がある。
(3)
(i) A concise explanation of the relevance, as it is presently understood by the individual designated in § 1.56(c) most knowledgeable about the content of the information, of each patent, publication, or other information listed that is not in the English language. The concise explanation may be either separate from applicant's specification or incorporated therein.

(ii) A copy of the translation if a written English-language translation of a non-English-language document, or portion thereof, is within the possession, custody, or control of, or is readily available to any individual designated in § 1.56(c).

上記37C.F.R.1.98(a)(3)(i)については、要は、文献等が英語以外で書かれている場合、"concise explanation of the relevance" (関連性についての簡潔な説明)を提出すべきという事だが、当該英語以外で書かれている文献(以下、非英語文献)が拒絶理由通知で引例として挙がっている場合は、拒絶理由通知をそのまま英訳したものを提出すればよい。

また、37C.F.R.1.98(a)(3)(ii)について、英語以外で書かれた文献の英訳とあるのは、"if a written English-language translation...is readily available to any individual" とあるように、もし当事者が所有していればという意味で、持っていなければわざわざ用意する必要はない。また、例え日本国特許庁のウエブサイトで日→英の機械翻訳が利用できる場合でも、そこからわざわざ引っぱってきて提出しなさい、というような意味合いもない。

であるから、拒絶理由通知や調査報告(見解書)に挙がった文献が非英語文献の場合は、拒絶理由通知や調査報告(見解書)に書かれた特許性に関する見解そのものの英訳と当該文献のオリジナルを提出すれば、IDSの必要十分条件は満たされる。もっとも、非英語文献のオリジナルに加え、全文や、要約(abstract)の英訳を提出する出願人も少なくはないと思う。しかし、IDSについてどこまで提出の義務があるのかという観点、つまり、裁判所による不正行為(inequitable conduct)及びそれを理由とする権利行使不能(unenforceable)の認定を回避するという観点から言えば、上記文献の全文やabstractの英訳の提出は不要なのだ。

実際、このことは、以下の609.04(a)(III)にある記載(一部抜粋)を読めば明らかである。
“Where the information listed is not in the English language, but was cited in a search report or other action by a foreign patent office in a counterpart foreign application, the requirement for a concise explanation of relevance can be satisfied by submitting an English-language version of the search report or action which indicates the degree of relevance found by the foreign office. This may be an explanation of which portion of the reference is particularly relevant, to which claims it applies, or merely an "X", "Y", or "A" indication on a search report.”

ここで、注意すべき事項として、非英語文献について、出願人の側で独自に判断し、当該米国出願に関係があると思われる箇所のみを部分的に英訳して提出するのはあまり好ましくない。後々、侵害訴訟の場において、「出願人は、部分訳を提出する事により、意図的に重要な箇所を隠したのであり、これは不正行為であって、当該特許権は行使不能である。」と、侵害者側から攻撃される恐れがあるためだ。同様の理由で、要約(abstract)の英訳を提出するというやり方もあまり安全とは言えない。乱暴な言い方をすれば、要約(abstract)の英訳を提出するくらいなら、拒絶理由通知や調査報告(見解書)に書かれた特許性に関する見解そのものの英訳と文献のオリジナル以外には、何も提出しないほうがむしろ安全なのだ。

一方、IDSの提出には、当該出願にかかる発明(クレーム)について、その特許性に関係のある従来技術文献の情報について、審査官にしっかりと審査してもらい、無効となり難い強い特許を取得するという目的もある。であるから、上記のように外国(米国以外)での対応出願の審査において拒絶理由で引例として挙げられた非英語文献や、国際出願の調査報告書に挙げられた非英語文献について、英語の全文訳を提出しておくというのは、強い特許を取得するという目的からすれば、これも、決して意味のない事ではないと思う。

この辺りは、出願人にとっての費用対効果の問題という事になるのかもしれない。ただし、このような場合も、ある出願については、英訳を提出し、別の出願については提出しないという事になると、将来、不正行為(inequitable conduct)の意図があったと判断される可能性も否定はできないだろう。とにかくIDSについては、前回も述べたように、知らなかったではすまされない情報をもれなく確実に提出するよう、一貫性のある組織だった管理を行う事が重要であるように思う。


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IDSの重要性-Duty of Candor and Good Faith とInequitable Conduct-(2)

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IDS提出義務の違反が後の関連出願に影響を及ぼしたケースの一例として、以下の判例を紹介する。

<AGFA CORPORATION v. CREO PRODUCTS INC.事件 (Fed. Cir. 2006) >
この事件は、特許権者であるAgfa社が、CTPシステム(印刷製版の為のコンピュータ制御システム)にかかる自社の特許をCREO PRODUCTS社等が侵害しているとして、訴えを提起したところ、親出願におけるIDS提出義務違反の不正行為(Inequitable Conduct)が理由で、親出願にかかる特許権に加え、継続出願にかかる特許権についても権利行使不能(unenforceable)という判断がなされたものである。

親出願における不正行為(inequitable conduct)が後の継続出願に及ぼす影響について、以下に引用する判決文の一部は興味深いと思う(個人的に、ですが。。。)。

“With respect to the ’324 patent, that patent is a continuation of the ’014 patent, about which the district court made specific findings. Thus, Fox Industries, Inc. v. Structural Preservation Systems, Inc., 922 F.2d 801 (Fed. Cir. 1990), supports the trial courts decision regarding the ’324 patent. Fox Industries explains that inequitable conduct “early in the prosecution may render unenforceable all claims which eventually issue from the same or a related application.” Id. at 804. Later applications are, of course, not always tainted by the inequitable conduct of earlier applications. See Baxter Int’l, Inc. v. McGaw, Inc., 149 F.3d 1321, 1332 (Fed. Cir. 1998) (“[W]here the claims are subsequently separated from those tainted by inequitable conduct through a divisional application, and where the issued claims have no relation to the omitted prior art, the patent issued from the divisional application will not also be unenforceable due to inequitable conduct committed in the parent application.”). The ’324 patent is a continuation, not a divisional, of the ’014 patent. Furthermore, Agfa has not suggested that the ’324 patent claims subject matter sufficiently distinct from its parent to preclude the trial court’s inequitable conduct determination. Thus, the trial court’s inequitable conduct analysis properly included the ’324 patent. ”

上記のように、裁判所は、親出願でIDS提出義務違反の不正行為(inequitable conduct)があった場合、継続出願を行っても、親出願で提出しなかった資料が、親出願のクレームと同様、継続出願のクレームの特許性に重要な影響及ぼすものである場合、継続出願に基づく特許も権利行使不能(unenforceable)になると述べている。その一方、分割出願において、当該分割出願(子出願)のクレームの主題が親出願のものと異なっており、親出願で提出しなかった資料が、子出願のクレームの特許性に影響を及ぼさない場合、当該分割出願に係る特許については、権利行使不能(unenforceable)にならないと述べている。実際、本件では、親出願のクレームと子出願のクレームとがかなり類似したものであり、その点も、親出願についての不正行為に起因する権利行使不能の判断が、子出願にも適用される決め手の一つとなったようである。

では、再発行出願(reissue application)や再審査(reexamination)の手続きを行い、元の出願において未提出であった情報を提出すれば、IDS提出義務違反の瑕疵を解消できないだろうか?

これは難しいであろうというのが答えだ。

例えば、Bristol-Myers Squibb Co. v. Rhone-Poulenc Rorer, Inc.(Fed. Cir. 2003)という特許侵害訴訟事件では、元の出願において未提出であった従来技術文献を再発行出願(reissue application)において提出していたところ、元の出願におけるIDS提出義務違反の不正行為(inequitable conduct)が理由で、元の出願にかかる特許権に加え、再発行出願にかかる特許権についても権利行使不能(unenforceable)という判断がなされた。

再発行出願(reissue application)は、大雑把に言えば、出願人自らがクレームの手直し等を行う手続きである。また、再審査reexamination)は、これも大雑把に言えば、一旦発行された特許について、特許権者又は第三者が元の特許出願の審査過程で考慮されなかった従来技術文献等を提示する事により、当該特許の有効性(validity)についてUSPTOに再度の審査を願い出る手続きである。

35U.S.C.251(米国特許法第251条)には、再審査(reexamination)や再発行出願(reissue Application)を経て特許を再発行する事により、特許権者は元の出願手続きにおける手続きの瑕疵を解消することができる旨が規定されている。しかし、同条には、ここで言う手続き上の瑕疵というのは、いわゆる"error without any deceptive intention"である旨が明記されている。つまり、理屈の上では、故意(intent)の存在が要件となる不正行為(inequitable conduct)は、手当てができないという事になる。

ただし、前回説明したように、不正行為(inequitable conduct)の認定は、当該行為についての故意"intent"の存在と、隠匿資料の重要性(materiality)との兼ね合いで決まる。特許侵害訴訟の場において、悪意"intent"の存在の立証というのが容易でないのは想像に難くないと思うが、この悪意の存在についての立証責任は、基本的に、不正行為(inequitable conduct)の存在を主張する側が負うことになる。なので、本当にうっかりしていただけで、隠匿の意図など無く、IDSで提出すべき情報の出し忘れがあった出願について、発行された特許は絶望的なのかと言えば、そうとも言い切れないわけである。このあたりの事は、最終的には裁判所の個別判断になると思うし、私の知る限り、最高裁の判決に基づく絶対的な基準というようなものは、今のところ存在していないようだ。

ちょっと釈然としない結論になってしまうが、思うに、出願人の立場として、不正行為(inequitable conduct)の予防という意味でのIDSの提出については、「たかがIDS、されどIDS」といった意識を持つことが大切なように思う。とにかく、知るべくして知っているはずの情報、特に米国出願と対応関係にある外国出願の審査で受けた拒絶理由やその根拠となった引例、PCT出願の国際段階での調査報告やそこに挙げられた文献情報等、知らなかったではすまされない情報については、もれなく、確実に、提出するよう、組織だった管理が重要だろう。 意外に見落としがちなケースとしては、二重特許(double patenting)を理由として35U.S.C.101(米国特許法101条)の拒絶理由を受けターミナルディスクレーマー(terminal disclaimer)を提出した複数の出願について、各々の出願で提出されたIDSの内容がバラバラだったりすると、権利行使の際、不正行為(inequitable conduct)の存在を主張される可能性が高いので、足元をすくわれないよう注意すべきと思う。

(次回に続く)


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プロフィール

中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

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