米国の一地方都市で特許事務所を経営する米国パテントエージェント兼日本弁理士が日々の業務で体験した事、感じた事を綴っています。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ソフトウェア関連発明の101条要件 (SMARTFLASH LLC v. APPLE INC.)

 ソフトウェア関連発明の101条要件が問題になった新しい判例 (CAFC)の紹介です。

SMARTFLASH LLC v. APPLE INC. (Fed. Cir. March 1, 2017)

 SMARTFLASH社他1社が、3件の米国特許の侵害を理由Apple社を提訴した事件。

 下級審(連邦地裁)において、Apple社は、問題となった特許について101条違反に基づく無効を主張したが、同連邦地裁はApple社の主張を退け特許は101条要件を満たし、有効であると判じた。Apple社は連邦地裁の判決を不服とし連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)に控訴した。

 CAFCは、連邦地裁を判断を覆し、問題となった3件の特許は101条違反で無効という判決を下した。

以下、問題となった特許の代表的なクレーム(U.S. Patent No. 7,334,720のクレーム3)

3. A data access terminal for retrieving data from a data supplier and providing the retrieved data to a data carrier, the terminal comprising:
a first interface for communicating with the data supplier;
a data carrier interface for interfacing with the data carrier;
a program store storing code; and
a processor coupled to the first interface, the data carrier interface, and the program store for implementing the stored code,
the code comprising:
code to read payment data from the data carrier and to forward the payment data to a payment validation system;
code to receive payment validation data from the payment validation system; code responsive to the payment validation data to retrieve data from the data supplier and to write the retrieved data into the data carrier; and
code responsive to the payment validation data to receive at least one access rule from the data supplier and to write the at least one access rule into the data carrier, the at least one access rule specifying at least one condition for accessing the retrieved data written into the data carrier, the at least one condition being dependent upon the amount of payment associated with the payment data forwarded to the payment validation system.

 インターネットにアクセスが可能な端末機器に関する発明で、同端末機器においてインターネットを通じデータを取得し、その対価をデータの提供者に支払う際、認証と支払いを行えるようにする機能を備えた端末機器の発明である。
 発明のポイントして、クレームは、以下の構成要素を含む。

(1) データ提供者と通信を行う為の第1のインターフェイス
(2) 通信事業者と通信を行う為のデータキャリア・インターフェイス
(3) 上記の機能を遂行するためのプログラム (ソフトウェア)
(4) 前記第1のインターフェイス、前記データキャリア・インターフェイス、前記プログラムを保管したメモリ、と連携するプロセッサー

 先ず前提として、クレーム発明が101条要件を満たすか否かを判断するにあたっては先のAlice Corp v. CLS Bank事件の最高裁判決で確立された“2 Step Analysis” の手順に従う。本件における地裁の判断も、CAFCの判断も、この点については一致している。

(1) 第1ステップにおいて、クレーム発明が抽象概念 (abstract idea) に関するものであるかを判断し、Noなら101条要件を満たすと判断する。一方、Yesなら第2ステップに進む。
(2) 第2ステップにおいて、クレームに特定の条件を満たす限定事項 (limitation) が含まれていると判断されれば、101条要件を満たすと判断する。

 地裁では、上記クレームについて、第1ステップにおいてYes(クレームは支払い情報のデータに対するアクセスの条件設定や制御についての抽象概念に関する)と判断したが、第2ステップにおいてクレームに特定の条件を満たす限定事項が含まれており、結果として、当該クレームは101条要件を満たすと判断した。

 より具体的には、「クレームには、複数のタイプのデータとメモリーとを活用する特定の方法、及び、抽象概念を越える活用ルールが記載されている。クレームの文言として、機能的でいくぶん一般的ともいえるものもあるが、発明のポイントとして意義のある限定事項が記載されている」(特定の条件を満たす限定事項が含まれている)というのが、地裁の見解であった。

 これに対し、CAFCは、第1ステップにおける判断については、地裁の判断(クレームは抽象概念に関するから、Yesであるという判断)を支持したが、第2ステップについては地裁と異なる見解を示した。

 Bilski v. Kappos事件における最高裁の見解のように、例えば「リスクヘッジの概念とその概念のエネルギー市場への利用は、商取引において広く知られた基本的な経済活動であるから、特許発明としての適格性を欠く」。本件で問題なったデータの制御や利用条件の設定に関する発明では、一つの条件として、クレームに記載された発明が「コンピュータの性能を高めるもの」であれば適格性を認めることができる。⇒本件の発明はデータへのアクセスを制御するものに過ぎず、「コンピュータの性能を高めるもの」ではない。⇒適格性は認められない。

 また、Alice Corp v. CLS Bank事件における最高裁の見解として、「クレームの性格」を変換して「特許発明としての適格性を有するもの」への応用であると言えるほど、(進歩性のある)発明概念(Inventive Concept)がクレーム記載されていれば適格性を認めることができる。コンピュータによるルーチン処理は、そのような発明概念(Inventive Concept)と認めるには不十分である。⇒本件のクレームに記載された処理は、産業界において広く知られた処理に過ぎない。⇒適格性は認められない。

 本事件におけるCAFCの見解は、Alice Corp v. CLS Bank事件以降のCAFC判決の傾向に沿ったもので特筆すべき点があるというほどのものではない。ただ、「ネットワークを利用するものも含め、純粋なソフトウエアの発明では、クレーム記載されたソフトウエアが、実際にコンピュータの機能を従来よりも高めることができるか、そうでなけば、よほど技術的な特殊性を主張できなければ、現行の実務として、101要件を認めさせることはかなり難しい」という事が、本事件によって改めて強く印象づけられた。

 DDR Holdings, LLC v. Hotels.com, L.P.事件(DDR事件)におけるCAFCの見解や判断が、ソフトウエア関連発明について特許を受けようとする出願人や特許を維持しようとする特許権者にとって、希望になってはいるが、この種の発明について101条要件を否定するCAFCの新しい判決が出るたびに、DDR事件におけるCAFCの判断が非常に例外的なもので、同事件についても、最高裁で争われたなら、特許の有効性が維持できたかどうか、怪しいのではないかという気がしてしまう。

 現行の判例の傾向では、ソフトウエア関連発明で101条要件を認めさせるためには、実質的には、「発明のソフトウェアがハードウェアの機能を高める性質」を持っていないとかなり厳しい気がする。

 Alice判決以降に特許庁(USPTO)に示された指針には、101条要件が認められるための条件として、6つの条件が提示されている(何れか1つを満たせば101条要件が認められる)。その中に、(A)「他の技術又は技術分野における改善 (Improvements to another technology or technical field))」という条件、それから(B) 「コンピュータ自体の機能に対する改善 (Improvements to the functioning of the computer itself)」という条件がある。

 クレームに記載されたソフトウエアの発明が、コンピュータ自体の機能を改善するものなら当然(B)の条件を満たす。また、コンピュータ自体でなくても、何らかの形で当該ソフトウエアがハードウェアの機能を改善するものなら、恐らく(A)の条件を満たすだろう。ただし、この改善(improvement)という言葉は結構な曲者で、従来は達成できなかった技術的な改善が明確な効果として示す必要がある気がする(これは私見です)。

 それから、(B)の条件を満たす他の切り口として、当該ソフトウェアによって生成される結果物自体に、明確な新規性や非自明性が認められば、この場合も(B)の条件を満たすると言えるのではないかと思う(これも私見ですが)。
 
 それから、「純粋にコンピュータ、ごく一般的なコンピュータの周辺機器やネットワークを使うのみのプログラム」ではなく、特定のハードウェア(例えば、センサーとか、自動車のエンジンとか)を制御するためのプログラムであれば、形式的にプロセッサーやメモリー等をクレームに組み込むことで、必然的に(B)の条件(又はその他の条件)を満たす事になるのかな、という気はする(これも私見ですが)。実際のところ、経験上、そのような特定のハードウェアを制御するためのクレームについて101条違反の拒絶理由を受けた記憶がない(ごく形式的な101条違反は除いて)。

 何れにしても、この種の発明、適格性(101条要件)を認める条件をもう少し緩めても良いのではないかなあ。。。という気はします。純粋に新規性とか非自明性(進歩性)ではなく、このような観点から特許の有効性が否定されるのは、なんだか嘆かわしいなあ、と思うのは私だけでしょうか。。。

にほんブログ村 経営ブログ 法務・知財へ
にほんブログ村
ご閲覧いただきありがとうございます!
ブログランキングに参加しています。
クリックして頂けると大変嬉しいです。
スポンサーサイト

101条要件違反の拒絶理由に対する対策(ソフトウェア関連発明)について

Bilski事件(2010年)、Mayo事件(2011年)、Alice事件(2014年)といった一連の最高裁判決を経て、特にソフトウェア関連発明における101条要件(発明の適格性)についてのハードルが非常に高く感じられるようになった今日です。

米国の多くの実務家の間でもかなり大きな問題になっています。

とても難しい問題と思いますが、弊所においても、この問題に対応すべく弊職なりの経験と知識に基づき、特にソフトウェア関連発明の出願において101条要件違反の拒絶を回避、解消するための方策をまとめてみました(弊所のウェブサイトで公開致しました)。

弊職の個人的な経験や私見に基づく内容も多く、完璧なものとは全く言えませんが、この課題を考える上での資料として、多少なりともお役に立てば幸いと思います。

35U.S.C.101(発明の特許適格性)違反の解消と回避に関する考察(Nakanishi IP Associates, LLC)

101条要件違反対策として、あくまでも私見に基づくものであり、これをご参考にされ、USTPOへの対応を行った場合、その結果に対して責任を負うものではありませんので、予めご了承ください。

にほんブログ村 経営ブログ 法務・知財へ
にほんブログ村
ご閲覧いただきありがとうございます!
ブログランキングに参加しています。
クリックして頂けると大変嬉しいです。


クレームで使われる用語 (claim term) の話

米国と日本の特許クレームを比較した時、これまでもしばしば指摘させていただいた事でもあるが、クレームにおける構成要素の明確化に対する考え方の相違というのがある。

米国の場合、クレームにおいて、何が構成要素として積極的にクレームされているのかという事を非常に重視する。

その観点から、ある意味、日本の実務家の癖のようなものかもしれないが、日本出願を基礎とした英文クレームにおいてよく見かける用語で、(文脈にもよるが)恐らく米国人に実務家にとって違和感を感じやすい用語というものがいくつかある。

その一つが「provide」である。

「provide」と言えば、日本語で言えば、「備える」という意味にもなるが、どちらかと言えば、「供与する、付与する」というニュアンスが強い文言であるように思う。

一般論として、米国の審査官は、クレームを見た時、先ず、何がクレームの構成要素であるのかを認識しようとする。少なくともそういう目でクレームを眺めることは確かと思う。

この為、例えば、クレーム中に「"A" provided to "B"」などという表現が含まれていると、これを見た米国の実務家や審査官にとっては、Aという部材がBに供されるという印象が際立ち、これだけ見ても、クレーム発明の中の位置づけとして、AやBが発明の構成要素なのか、そうでないのかが分り難い。

例えば、「An apparatus comprising A provided to B...」のよう書けば、Aがクレームの構成要素である事は一応わかるのだが、Bがクレームの構成要素であるのかどうかよくわからない。しかも、クレームの構成要素かどうかがいまいちわからないBに対し、クレームの構成要素であるAを備えているのか、AがBに供されるのか、なんだか、モワっとした印象を持たれると思う。

また、「An apparatus, wherein A is provided to B...」のように、クレームにおいて初出の部材として、AやBをwherein節等で使ってしまうと、AもBも、実際のところ、クレームの構成要素であることが意図されているのがどうかがわかり難く、米国の実務家や審査官にとって、これも違和感のあるクレームに感じると思う。

それ以上にクレーム構成をわかり難くする表現として、例えば、「An apparatus comprising A providing B」などのような表現を使ってしまうと、Aが発明の構成要素である事はわかるのだが、AがCをprovideすると言うは、果たして、Cという部品がAに含まれ、これが発明全体の一部をなすという意味なのか、それとも、AとCの関係においてのみ、何らかの形でAがBを供給するという意味なので、非常にぼやけた印象の表現になってしまう。

もちろん、112条違反を指摘される可能性もある。仮に112条違反の指摘がなくても、審査官に微妙な違和感を持たれながら審査が進んでいく事になる(可能性が高い)だろう。

実のところ、上記の例において、provideでなく、「arrange」とか「dispose」という代替語を使っても、米国の審査官から、似たような印象(違和感)を持たれる事になるとは思う。

ただ、恐らく、日本の実務家の癖として、なんとなく、「備える」、「具備する」、「含む」といったニュアンスをイメージして、provideという用語を含んだ表現を使っているのではないかと思うのが、この用語は、クレームの構成要素を明確にするために用いられる「comprise」、「include」、「consist」等とは明らかに位置づけが異なる意味(ニュアンス)を持ち、クレーム構成を曖昧にしたり、審査官に違和感を与えやすい用語であると思う。装置や部材の構成とか役割を、明細書本文等で一般的な説明に用いるぶんには何ら問題がないと思うが、構成要素を明確にすることがとても重要な米国特許のクレームにおいてこれを用いる際には注意が必要と思う。

ケースバイケースではあるけれど、選択の余地があるなら、クレームで使う事はできるだけ避けた方が良いかもしれない。

にほんブログ村 経営ブログ 法務・知財へ
にほんブログ村
ご閲覧いただきありがとうございます!
ブログランキングに参加しています。
クリックして頂けると大変嬉しいです。

発明の適格性(米国特許法101条)の判断基準に関するUSPTOの指針(2016年11月3日)

先日(2016年11月3日)、米国特許法101条(法上の発明としての適格性)の判断基準について、USPTOの新たな指針を示す書簡(memorandum)が公表された。

https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/McRo-Bascom-Memo.pdf

Bilski事件(2010年)、Mayo事件(2012年)、及びAlice事件(2014年)の最高裁判決を経て、ソフトウエア関連の発明の米国特許法101条(法上の発明としての適格性)に関する判断基準が、それまで多くの実務者が考えていたものと大きく変わった事は、これまで何度か説明した通りである。

Alice事件の最高裁判決後、最高裁の示した判断基準に沿って、クレームの101条要件が問題になった事件についてかなりの数の連邦控訴裁(CAFC)判決がなされ、多くの特許が101条違反を理由に無効と判断された。

その一方、同じようにクレームの101条要件が問題となり、101条要件を満たすとCAFCが判断した特許もいくつかある。

(1)DDR Holdings, LLC v. Hotels.com, L.P. (Fed. Cir. 2014) :ウェブサイト閲覧システム
Enfish, LLC v Microsoft Corp. (Fed. Cir. 2016) :検索システム

(2)BASCOM Global Internet Services v. AT&T Mobility (Fed. Cir. 2016) :ネットワーク経由で取得したコンテンツにフィルタをかけるシステム

さらに、Alice事件の最高裁判決前のCAFC判決ではあるが、問題となったクレームについて、101条要件を満たすという判断がなされ、その判断について、Bilski事件、Mayo事件、及びAlice事件といった一連の最高裁判決とも齟齬が無いと思われる事件として以下の2つの事件がある。

(3)Research Corp Tech Inc. v. Microsoft Corp. (Fed .Cir. 2010) : 画像処理方法
(4)SiRF Technology Inc v. ITC (Fed Cir 2010) : GPSシステム

そしてさらに、今年(2016年)の9月と11月に、

(5)McRo Inc. DBA Planet Blue v. Atlus U.S.a., Inc. (2016年9月13日判決)
(6)Amdocs (Israel) Ltd. v. Openet Telecom, Inc. (2016年11月1日判決)

という2つ事件において、CAFCが、争いの対象になったソフトウエア関連発明のクレームについて、101条要件を満たすという判決を下した。これらのCAFC判決を受け、米国特許法101条(法上の発明としての適格性)の判断基準について、USPTOが新たな指針(Memorandum)を公表するに至った。

上記の判例は、現行の裁判所の考え方やUSPTOの審査基準に照らし、審査や権利行使の段において101条問題を回避する為、又は、101条問題に直面した際に対策を講じる上で、その鍵となるとても重要な判例であり、検討の価値あり。

今回USPTOが公表した上記書簡(memorandum)では、特に上記(5)McRO事件と(4)BASCOM事件における裁判所の見解が取り上げられ、それらがどう審査に反映されるべきか説明されている。

101条問題で悩む出願人や実務者にとって、少し風向きが良くなるかもしれない。。。ですね。

にほんブログ村 経営ブログ 法務・知財へ
にほんブログ村
ご閲覧いただきありがとうございます!
ブログランキングに参加しています。
クリックして頂けると大変嬉しいです。

Broadest Reasonable Interpretation(Cuozzo Speed Technologies v. Lee Supreme Court)

米国の特許実務においてクレームの文言をどのように解釈べきかについては、特に「Broadest Reasonable Interpretation Rule」というものがある。文字通り、クレームに含まれる文言について、合理的と判断される限りにおいて目いっぱい広い意味に解釈すべき、というクレーム解釈の原則である。

先ごろ、「クレームの文言の意味をどの程度の広さに解釈すべきか」という議論に関連する事件について、米国の最高裁による判決があった。

Cuozzo Speed Technologies v. Lee

本事件では、Cuozzo Speed Technologies(Cuozzo社)の特許(US6778074('074特許))が特定の先行技術文献に基づき自明(103条違反)であるか否かが争われた。

事件の経緯は以下の通りである。

Cuozzo社の'074特許に対し、Garmin International, Inc. 及びGarmin USA, Inc.(Garmin )は、米国特許商標庁(USPTO)に当事者系レビュー(Inter Partes Review:IPR)を請求し、非自明性要件(米国特許法103条)の欠如を根拠にクレーム17の無効を主張した。

IPRにおいて、USPTOの審判部(PTAB)は、 上記のクレーム17及びクレーム10,14 について、これらクレームは非自明性の要件を満たしておらず無効である審決を下した。ちなみにクレーム10は独立項であり、クレーム14はクレーム10に従属する従属項、クレーム17はクレーム14に従属する従属項であった為、クレーム17について非自明性要件違反の無効理由の主張は、暗にクレーム10,14の無効理由の主張(審判部に対するレビューの請求)を意味すると解釈した。

IPRは、日本で言う無効審判に相当する。これに近い制度として元々あった当事者系再審査(Inter Partes Reexamination)に代わり、AIAで新たに導入された制度でもある。

IPRの審決を不服として、Cuozzo社は、連邦控訴裁判所(CAFC)に訴えを提起した。CAFCはIPRの審決(USPTOの判断)を支持した。Cuozzo社は、これを不服として上訴し、今回の最高裁判所による判決に至った。

最高裁における主な争点は以下の2点である。

1.「『IPRの審理においては、審判官の合議体は、対象特許のクレームの文言について、平易で一般的な意味に解釈するよりも、可能な限り広い意味(broadest reasonable interpretation)に解釈するべきという考え方に従い、その解釈を行ってよい』と判じた控訴裁判所の判断に誤りはなかったか?」という点。

2.「『審判官の合議体が、その法的な権限を越えてIPRの審理を行った(開始した)としても、IPRの審理を行った(開始した)という判断について、裁判所が再審理を行うべきではない』と判じた控訴裁判所の判断に誤りはなかったか?」という点。

結論として、争点1, 2共に、最高裁は控訴裁判所の判断を支持した。

クレームにおける文言の解釈については、有名な判例も多く、議論のネタが尽きないが、特に本件の場合、出願・中間処理の実務の観点から、クレームに記載された文言はどのように解釈されるのかという事はもちろん、それのみならず、審査官によるクレームの解釈と、審判や裁判におけるクレームの解釈との間で、どの程度の乖離が予想され得るのか等を考える上で、とても興味深い判例であると、個人的には思う。


ちなみに、最高裁が論じた本事件の争点とはあまり関係がないのだが、以下、本事件で問題なった代表的なクレームと先行技術との関係について少し具体的に説明させていただく。

以下、'074特許の代表的なクレーム(Claim 10)

10. A speed limit indicator comprising: a global positioning system receiver; a display controller connected to said global positioning system receiver, wherein said display controller adjusts a coloredひょう display in response to signals from said global positioning system receiver to continuously update the delineation of which speed readings are in violation of the speed limit at a vehicle's present location; and a speedometer “integrally attached” to said colored display.

(和訳)
10.スピード制限表示装置において、
GPS受信機と、
前記GPS受信機に接続されたディスプレイ制御装置であって、
前記GPS受信機からの信号に応じてディスプレイ上の色(カラー表示)を調整して、実速度が現在位置における車両の制限速度に違反している事を示す表示を更新し続けるディスプレイ制御装置と、
前記カラー表示に「組み込まれた」スピードメータと、
を備えるスピード制限表示装置。

'074特許の明細書本文の説明及び図面によれば、本発明の装置では、例えば円盤の内周に沿って速度が振ってあり、実速度を回転針で示す時計のようなアナログ式のスピードメータにおいて、一般の法定制限速度を超える部分と、そうでない部分の背景が色分けしてあり、これとは別に回転可能な赤いフィルタディスクによって、現在位置における制限速度を超える範囲を示すようになっている。本発明では、GPSからの信号に応じてこの赤いフィルタが回転し、車両が現在位置における制限速度を守っているかどうかが分かるようになっている。

本事件では、クレーム記載された“integrally attached”(カラー表示に「組み込まれた」スピードメータ)という文言の解釈が問題になった。

この文言について、Cuozzo(特許権者側)は、明細書本文(実施例の説明)において、「組み込まれた」(integrally attached)という文言は使われておらず、実施例の構成に基づいて考えれば、クレームの意味するところは、「カラー表示(赤いフィルタディスク)とスピードメータは、互いに区別される構成要素であるが、一つのユニットとして結合したものである」と主張した。つまり、あくまでも実施例レベルに限定した解釈をすべきと主張した。

本事件では、例えば先行技術の一つに、自動車の運転席のインパネに当該自動車の実速度を表示する速度表示部(スピードメータに相当)と、この速度表示部とは離れた部位に、当該自動車の実速度が特定の速度を超えた場合に点滅する警告灯(カラー表示に相当)とが配置されているものがあった。

Cuozzo(特許権者側)の主張に従えば、この先行技術では速度表示部と警告灯は、互いに離れた部位に、別々に配置されているので、クレーム発明の構成要素であるa speedometer “integrally attached” to said colored display(カラー表示に「組み込まれた」スピードメータ)が開示又は示唆されている事にはならない、という事になる。

Cuozzo(特許権者側)の主張に反し、特許庁(IPR)は、(A)“integrally attached”to(B)とは、部材(A)と部材(B)が各々の属性を失うことなく、一つのユニットの中に共に連結されているという、広い意味合いを持っていると解釈し、裁判所としても、(特許の)専門家たる特許庁の考えを尊重した。

純粋に法律の観点から見た争点をひとまずおいて置けば、個人的には、これが本事件の大筋であるように思える。

本事件において、最高裁は、「クレームの文言について、平易で一般的な意味に解釈するよりも、可能な限り広い意味に解釈するべきという考え方(broadest reasonable interpretation)に従い、その解釈を行う」事を良しとする判断を下した。これはこれで重要な事である。

ただ、それと同等かそれ以上に重要な事項として、最高裁は、上記判断の背景として、立法の決めたルールの解釈について、特許庁は相当な権限をもっているのあって、本件で問題になったクレームの解釈の基準等についても、専門家としての特許庁の考え方を尊重すべきである、という見解を示している。

この判例は、今後の審査(中間処理)にかなりの影響を及ぼすかもしれない。。。そんな気がします(^^;

「クレームの文言について、平易で一般的な意味に解釈するよりも、可能な限り広い意味に解釈するべき」という“broadest reasonable interpretation”の考え方は、これまでも特許庁(の審査官)が採用してきたクレーム解釈の基本的な判断基準ではある。

しかし、例えば、クレームに記載された「単語」が本来持つ「辞書的な解釈」との間で、どこまでつきつめて“broadest reasonable interpretation”を採用するのかは、あくまでもケースバイケースで、必ずしも、判断基準が明確であったようには思えない。少なくとも、中間処理の現場においては、出願人(代理人)にとって、反論が受け入れられる可能性も割りと大きかったように思う(今後もあると信じたいが)。

しかし、今回の最高裁判決によって、この“broadest reasonable interpretation”を含め、クレーム解釈等の判断基準を決める上で、特許庁はある意味、裁判所以上の権限がある(ちょっと言い過ぎかもしれないけれど)とお墨付きをもらった、とも言えるだろう。

そうすると、例えばクレーム発明と引例との差異を議論する上で、クレームの文言をどこまで広く解釈するかについて、平たく言えば、審査官はより強気な議論を行うようになるのではないか、と思う。そして出願人側の立場としては、(審査官による)“broadest reasonable interpretation”の議論に対し、反論し難くなるだろう。

出願時のクレームドラフティングの段階においても、注意が必要。。。かもしれないですね。

以上

にほんブログ村 経営ブログ 法務・知財へ
にほんブログ村
ご閲覧いただきありがとうございます!
ブログランキングに参加しています。
クリックして頂けると大変嬉しいです。
フリーエリア
プロフィール

中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)

Author:中西康一郎 (Koichiro Nakanishi)
日本の特許事務所、企業知財部勤務の経験を経た後に渡米し、米国の特許法律事務所に8年勤務後、米国テキサス州ヒューストンにおいて、日本企業の米国特許出願代理を専門とする代理人事務所(Nakanishi IP Associates, LLC)を開設しました。2016年5月、事務所を米国カリフォルニア州サクラメントに移転しました。

現在、Nakanishi IP Assocites, LLC 代表

資格:
日本弁理士
米国パテントエージェント

事務所名:Nakanishi IP Associates, LLC
所在地:
6929 Sunrise Blvd. Suite 102D
Citrus Heights, California 95610, USA

Website:
Nakanishi IP Associates, LLC

リンク
このブログをリンクに追加する
最新記事
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。